S-Fマガジン 2009年 09月号 [雑誌]早川書房このアイテムの詳細を見る |
七月の終わりごろに発売され、買って読んだ後に放置していて時期を逸したが、なんとなくいまさら言及してみる。
文字通り、栗本薫の追悼号で、誌面の半分近くが栗本薫関係に割かれている。
内訳は
カラーページでグインサーガギャラリーが4P。
『グインサーガ読本』にも収録された習作短編ファンタジー『氷惑星の戦士』再録
『心中天浦島』に収録されているリリカル短編SF『遥かな草原に』再録
SFマガジン79年10月臨時増刊号に掲載された評論『語り終えざる物語 ヒロイックファンタジー論・序説』再録
作家を中心とした関係者諸氏による、一人一ページの追悼文が12P
評論家五人による栗本薫の各作品論が2Pずつ計10P
グインサーガ全ストーリー解説が10P。
栗本薫の経歴解説が4P。
栗本薫全仕事リスト(お別れ会で配られた小冊子に載っていたのと同じ物)が10P。
一雑誌に割く量としては、非常に充実している。
あと内容とは関係ないが、この売れなさそうな内容で、この厚さ、この紙質の良さで940円という価格にちょっと驚いた。広告も少ないのに、がんばってるなー。なんだこのがんばり。
ちなみに手元に82年12月の臨時増刊号『SFマガジン 栗本薫グインサーガの世界』もあるのだが、厚さ・紙質・雰囲気すべてにおいて変わっていない。なにこの時間の止まり方。ちなみにこちらは値段が650円。約1.5倍にはあがってるのか。ジャンプの値上げ率とさして変わらんな。しかし当時よりもはるかにSFが下火だということを考えると、やはりがんばりはすごいな。是非応援してあげたいが、栗本薫も死んだいま、おれが読むものが載っているかどうか……
まあ、それはいいとして、追悼の内容。
作家たちによる追悼文は、わりと普通に追悼文。栗本薫がどんなに異常な才を示していたのかを、当時の驚きとともに語っている。が、晩年についてはあまり語っておらず、舞台については観に行ってないという意見ばかりで、やっぱりちょっと淋しい。なにが淋しいって、最新刊までグイン読みつづけてそうなのが、新井素子と三浦健太郎しかいなさそうなところだなー。
個人的に気になったのは、笠井潔と高千穂遥の追悼文。
笠井潔は難しい言葉をつかって煙に巻いてはいるが、なにを云わんとしているのかが1Pの内にも混沌としすぎて、かなり寝言臭が漂っている。昔からそういう芸風の人ではあったが、近年の笠井潔はリアルでボケが入ってきているんじゃなかろうか、と感じた。
高千穂遥は「栗本薫のすごいところは記憶力。だから書くのが速い」と述べている。「自分は記憶力が悪いから、続きを書くたびにこの文は前に書いたんだっけ?まだ書いてないんだっけ?と行ったり来たりするから筆が遅い。栗本薫は全部覚えてるから読み直さないで済み、書くのが速い」と述べているのだが、えーと……つまり晩年は記憶力が落ちたから何度も同じことを書いていた、ということですね。わかります。わざとなのか無自覚なのかしらんが、的確な指摘に笑った。
全体的に、お別れ会のコメントよりは「作家」栗本薫についてみんな語ってくれているので、お別れ会ではここから抜粋して読み上げればよかったのに……と思ってしまった。もったいないことするなー。
評論家たちの論に関しては「栗本薫ってちゃんと評論対象になるんだなー」と変に感心してしまった。しかし2Pしかないし追悼でもあるから、通り一遍の浅い論に終わってしまっていると感じた。基本的に昔の作品のことばかり云ってるし。まあ、追悼で晩年をあげて批判するのも大人げないし、仕方ないよね。
グインのストーリー解説、経歴解説は、そのまんま。普通の出来。薫初心者にはわかりやすくてよいのではなかろうか。全仕事リストもなかなか興味深いので、お別れ会に行かなかった人は手に入れてみると良い。
しかし一番気になったのは、はじめて読んだ評論『語り終えざる物語』だ。
この内容をざっくりと説明すると
「僕はヒロイックファンタジーが一番好きだ。なぜならヒロイックファンタジーの作者があらゆるジャンルの作家の中で、一番現実が嫌いっぽくて、現実逃避として緻密な世界を作り上げ、そこに全力で逃避している。ヒロイックファンタジーの世界こそが最良の逃避先だ。だから僕も終わることのない遊び場としてヒロイックファンタジーを愛し、作りつづけていく」
という感じになる。
えーと……いや、うすうす察してはいたけどさ……グイン・サーガを書き始めてすぐに、ここまで率直にゲロっていたんだね……それじゃあ未刊もぐだぐだもしょうがないよね……だって作者の逃避先であることが最大の存在意義だったんだもんね……
ちなみにこの評論は、まだ一人称が「僕」であった頃の薫で、その語り口は軽妙を極め、ぶっちゃけ内容的には非常にうすく、あらゆる論拠に欠ける作者個人の感情論に過ぎないのだが、文章が面白いのでなんとなく一気にぐいぐい読んでしまうし、読み終えて数々の疑問とつっこみが残りながらも、なぜか「いい文を読んだ」という心地よさに満たされてしまう。やはりヤング栗本薫の文章力は麻薬的魅力に満ちている。内容の良し悪しを越えてしまうこの時期の栗本薫の文章は、まさに天才的としか呼べないなあ。
まあ、そんなわけで、全体としては十分に読む価値のある追悼号かと。まだ購入していない栗本薫ファンは、追悼気分で買うと良い。……って、もうとっくに次の号が出てるから店頭で買えませんけどね!(アマゾンでまだ買えるかな?)
買おうと思ってたのに、発売時期をすっかり忘れてました。うなさんもっと早く感想書いてくれたら良かったのにー……w
でも内容良さそうなんでマケプレで買ってみます。(中古のが高くなっているけど笑)
あ、もしかして早川から直接買えるかな?
送料200円かかるけど、もう栗本薫を特集することはないだろうし、買ってもいいんじゃないかな?
つうか買おうと思ってたのにうなぎの感想頼りにするなんて……!