派閥については強調されすぎていて違和感がある 弁護士界のゆがみを軌道修正するのが私の仕事だ――山岸憲司・日本弁護士連合会会長インタビュー【後編】(ダイヤモンド・オンライン) - goo ニュース
※引用
派閥については強調されすぎていて違和感がある 弁護士界のゆがみを軌道修正するのが私の仕事だ――山岸憲司・日本弁護士連合会会長インタビュー【後編】
2012年8月21日(火)08:40
【前編】に続き、司法制度改革によって問題が噴出している弁護士界の現状を、どう考え、どう軌道修正していくのか、山岸憲司・日本弁護士連合会会長に聞いていく。司法試験に合格した司法修習生を国費で賄う「給費制」が廃止されたことについて、派閥によって弁護士界が牛耳られているのではないかという弁護士界内の懸念、法曹界志望者の減少によって学生集めに苦労し、なかには撤退する学校も出始めている法科大学院など、どのように日本弁護士連合会は考えるのか。(聞き手/ダイヤモンド・オンライン編集部 片田江康男)
やまぎし・けんじ/1970年中央大学法学部卒業、73年弁護士登録(東京弁護士界)。97年東京弁護士界副会長。2003年日本弁護士連合会常務理事、 04年同会事務総長、09年同会副会長、東京弁護士界会長。民事訴訟法改正問題委員会をはじめ、裁判官制度改革・地域司法計画推進本部副本部長、司法制度調査会副委員長などの日弁連委員を歴任。2012年、日弁連会長選では再投票、再選挙の末に前会長である宇都宮健児氏を破り当選、4月末に就任。
――弁護士界にある法曹人口問題や法科大学院に代表される法曹養成制度の問題は、突き詰めて考えて行くと、「弁護士は社会でどのような役割を担う人なのか」というところに行き着くのではないだろうか。この答えがはっきりしていれば、ニーズが明らかになって、どのくらいの人数を毎年合格させるのか、どのような養成制度が適当なのか。議論になっている給費制(司法試験合格者の司法修習期間に必要な生活費などを国が支給する制度)の問題も、弁護士は国費で育てるべき存在なのか否かという答えが、自ずと出るように思う。司法試験についても、一部の弁護士から試験は一定の要件を満たせば全員合格するような制度にして、人数を制限すべきではないという声があるが、その声に対しても明確に応えられるのではないか。
「弁護士はどのような役割を担う存在なのか――」。その問いの答えは、はじめに答えた司法制度改革の理念のところで、だいぶお答えしていると思う。法の支配を社会に浸透させる、その役割を担う主たる存在だということだ。恣意的な権力の行使を排除する。法の下で平等な社会を実現するための人材だ。透明で公正なルールの下で紛争解決をするときの、主たる役割を担う存在だ。
だれでも、どこでも法的サービスを受けられるような社会において、法的サービスを提供する役割を担いなさいということだ。過疎地でも、企業内でも、国際舞台でも担いなさいということ。刑事被告人について、憲法には「弁護人による弁護を受ける権利」ということが書いてあるが、憲法に特定の職業について書いてあるのは弁護士だけだ。
従来の訴訟活動においても、もっともっと必要だろう。行政や企業、あらゆる組織の中で、法の支配を実現していく。地方自治体にも必要だろう。企業では内部統制やコンプライアンスの徹底、そういう仕事に弁護士が組み込まれて、社会の役に立っていく。企業では予防法務や戦略法務、国際化でもさまざまな活動をしていき、機能する。国際化がどんどん進展し、外国政府や企業との交渉の場で弁護士が必要になってくる。韓国や中国では弁護士の数を増やし、企業内にも一定数いる。日本でもこのあたりの数がどのくらいの角度で伸びていくか。
刑事司法改革は司法制度改革の要の1つだった。国民の司法参加について、検察庁のなかでも弁護士界のなかでも、改革していこうという意識が芽生えていた。ゴビンダさんの事件(東電女性社員殺害事件)も、全面的な証拠開示をしていれば有罪になどならなかった。裁判員裁判を契機にして、司法全体を改革しようということだった。
あなたの連載では「憂鬱」なところだけ書いてあるけれども、うまくいっているところだってある。労働審判もうまくいっているでしょう? 弁護士過疎地域だって解消している。いつでも、どこでも司法サービスを受けられるように、ということで法テラスだってある。ある程度、成功している。「いつでも、どこでも、だれでも」という国民の要請に、これまできちんと応えてきた。
反司法制度改革派、というような人たちのなかでも、良識ある人は「光と陰」ということで分けて、ちゃんと光の部分も理解していただいている。
「カネくれないと、仕事しないのか
そういう風に弁護士界は批判される」
――弁護士は公益的な役割もしっかりと担う人であるということは、多くの弁護士は認識しているようだ。しかし、弁護士たちは「ただし」と条件を言う。公益的な仕事もしっかりやるけど、報酬がしっかり見込める仕事があるということが条件だ、と。
不採算のものも、しっかりやるということだ。当然、事務所で働くスタッフの給与や経費を払っていかないと、事務所は維持できない。それは現実として、分かっている。事務所が回っていく、そういうことが必要だということは分かっている。
日弁連もひまわり基金公設事務所(公設事務所)といって、弁護士過疎解消のために日弁連から事務所の開設・運営資金の援助をする制度を運営している。そうやって、不採算の場所や事件を解消していくことをやっている。
――その事務所を回せるだけのお金になる仕事が、人数が増えてしまった弁護士界のなかには、なかなかないという現状がある。今、ノキ弁や即独して困窮している若手弁護士は、どうすればいいのか?
弁護士の人数が増えて、案件の取り合いになっているということは分かっている。そうなると、無報酬でやるような公益的な仕事ができなくなる。弁護士界がそういうと、大手新聞などのマスメディアが弁護士界を批判する。カネくれないと、仕事をしないのか! という風にね。しかし、だいぶ弁護士の世界のことを理解してくれる人が増えてきたと思う。
弁護士事務所の共同経営化などは進んでいる。しかし、不採算部門があるのは、これはいかんともしがたい。刑事事件の場合は国選弁護があるが、それ以外は、公的扶助を拡大していくことが必要だ。報酬を得られるようにしていかないと。
いま、困っている若手弁護士のためにはOJTの機会を提供していかなくてはと思っている。先輩弁護士たちと仕事をする機会をつくっていく。そうした器が必要だ。各地方の弁護士会によっては、そういう組織がある。各地域の成功事例を集めて、日弁連として情報発信していく。実際のサポートは、日弁連ではなく各弁護士会が行なうことになる。
また、日弁連は「若手法曹センター」というものを持っている。就業支援や改行支援をするところだ。
――福島など、東日本大震災の被災地では、無報酬で多くの弁護士が支援している。弁護士としての使命感からだが、それでもやはり、報酬がもらえる仕事がないと、福島には行けないと言っている。若手の中には給費制で育てられて、借金を背負わなくて済んだから福島に行くことができているという人もいる。(本連載第7回参照)
震災は本当に不幸な事件だった。私は相馬にも石巻にも行ったが、被災地は震災直後は行政も機能していなかったから、弁護士が現地に行って、行政代替機能も果たした。裁判で原発の損害賠償をやるのは時間がかかるから、原発ADRもつくった。
公益的な仕事を担う弁護士を
借金火だるまで世に出すのか
給費制のことも、法科大学院の学費のために借りた奨学金、それから司法修習のときの経済的な問題など、借金を背負わせた状態で弁護士として社会に送り出していては、良い仕事はできないだろう。給費制という言葉にアレルギーがあるなら、他の制度を考えれば良い。借金火だるまになって弁護士になるんじゃ、ねえ。こういう事情は、だいぶ政府も理解してくれるようになっている。
――給費制に変わる制度というのは、なんらかの経済的支援を用意するといことか。具体的にどういう制度になるのか。
詳細が決まってくるのはまだまだ先だ。政府や弁護士界、若手弁護士などが、どういうことであれば着地可能かというのをこれから考えて行く。ビギナーズ・ネットも頑張って主張している。実費と最低限の生活費、その他支援はどうやって組み合わせいけばいいかを考えている人もいる。
――どのくらいのタイミングで決まってくるのか?
1年以内、つまり年度末には結論を出す。いまから年度末といったら、本当に時間がない。おそらくパブリックコメントを募集して決めていくということになると思う。
一度、給費制ではなく貸与でやるということが決まっている。しかし、修正案が国会で出て、見直し、支援を考え直すということになっている。給費制復活も排除しないということになっている。しかし、その先の具体的なことは見えていない。
繰り返しになるが、法律を武器として、国民の権利義務に重大な影響を与える職業人をきちっと育てて行くということが大事だ。弁護士は、社会的インフラとして機能しなくてはならない。社会の重要な一角を担う。そういう存在を、借金を負わせて送り出すというのは良くないと思う。
「なんで弁護士だけ就職を補償されなきゃいけないのか」ということを言う人もいる。就職難はほかの学生も一緒だろう、と。だが、単純に、そういう問題で語ることはできない。
派閥・無派閥で弁護士は動いていない
確かに勉強会や委員会はあるが
――4月末に再選挙の末、会長に就任した。弁護士界のなかからは、「派閥vs無派閥」ということを言われているし、本連載でも「会長選挙は会長のポストを、無派閥から派閥の手に奪い返すための選挙だ」と書いた。会長は派閥の支援があって、当選した。派閥によって弁護士界の物事が決定していくことについて、若手弁護士はしらけている。派閥に属する“おじいちゃん弁護士”のための日弁連になった、と。
そういうふうに、マスコミはすぐに図式化する。派閥や会派とは何かということを説明するが、東京等の単位会では、実務研究や判例研究、グループを作って若手に対してOJTをやりましょうとか、いろいろやっている。勉強会を開いているし、政策についても勉強している。それが、個々の弁護士の血となり肉となっていく。
その仲間たちが、「ああ、彼ならば会長に良いね」ということで応援する。派閥か派閥でないかというのではなくて、選挙での応援団がだれか、ということ。わたしは派閥の人間で、選挙を「派閥vs無派閥」ということで書かれたが、非常に違和感がある。
――派閥によって選挙の行方や物事の決定が決まっているのではない、という理解で良いのか。
あなたが派閥と言っている委員会や勉強会等の会合の論理で、物事が決まるほど日弁連は単純ではない。もちろん、副会長や委員会のメンバーなどを決めるときに、前副会長などさまざまな方の意見を聞いている。委員会の活動実績とか、推薦され具合とか。それで調整を図っていく。派閥がどうのこうの、ということではない。派閥について、その部分だけ強調され、ねじ曲がって報道されている。
選挙では、私が副会長や事務総長を勤めた経験を通して、地方にも苦労して悩みながら会務を担ってきた仲間がたくさんいる。その人たちから推薦されて、支援を得ていった。派閥じゃない。
――取材をしていると、8月末に発足する法曹養成フォーラムの後継組織の「法曹養成制度改革実現本部」では、早くも派閥に属する委員会メンバーが、正規の会合とは別の会合を持っていて、その会合の開催は無派閥の委員会メンバーには知らされなかったようだ。“裏会議”と非難されている。
そりゃ、毎回毎回、いろいろな会議や委員会の関係者全員が集まって丁々発止の議論をすることはないかもしれない。事前準備等もやる。資料を用意したり、方針を決めたりする。少人数の会合をやったりするだろう。それが派閥とどういう関係にあるかというと、まったく関係ない。
「法科大学院はダメだ、やめちまえ」に
“のたれ死に”でいいというのか?
――法科大学院について、日弁連は7月13日に提言を出した。それに対して、愛知県弁護士界は「法科大学院の修了を、司法試験の受験資格に入れるべきではない」ということを言っている。そもそも法科大学院は、司法制度改革がスタートした当時とは、まったく想定が違ってしまっている。どのように考えているか。
統廃合をどんどんして、うまくいってないからやめちまえ、ということ言う人もいるが、じゃあ、今学んでいる学生はどうするんだ、教員はどうするんだということです。ダメだダメだじゃ、しょうがない。
法曹を目指す人の多様性を確保しつつ、法科大学院の統廃合を大胆にやっていく。定員削減も実現していく。優秀な人材が法曹を目指さなくなるのが問題。年間司法試験合格者数1500人になるように、法科大学院の数や定員数を考えていく。むしろ、法科大学院の教育資源を、弁護士になった人たちの継続教育の資源として使うべきだ。
バイパス受験(※)をする人が多いから法科大学院はいらない、または修了を受験資格の条件にすべきではないというと、法科大学院は“のたれ死に”でいいということか。それは無責任だ。
※ 司法試験の受験資格を得るには法科大学院修了が必要だ。だが、日弁連の行なう「予備試験」の合格でも受験資格を得られる。法科大学院修了者は3回、司法試験を受験でき、3回以上不合格となってしまうと受験資格は失効する。予備試験は受験資格が失効してしまった者の救済のために設けられた制度だが、法科大学院の学費負担を減らすための“ショートカット”のために、予備試験を受験する者もいる。そのため、“バイパス受験”などと呼ばれる。
――実際に、法科大学院の統廃合を促すというのは、どうやるのか。A大学とB大学はいっしょになってください、と日弁連が言うのか? 大学の意向もあるはずだ。
中身はこれから詰めて行く。ケース・バイ・ケースだ。1年間かけて議論していくことになると思う。
神戸学院大学や明治学院大学が撤退したように、そういうところが増えてくる。74校も法科大学院ができてしまったのは問題だった。上位20校程度はうまくいっているという認識だ。失敗したからといって、法科大学院を廃止して、また10年前のような状況に戻るのは乱暴だ。つくったものは上手に活かしていくという風に、考えて行く。
――最後に、司法制度改革によって、日本の司法が正しく改革されたとき、一般市民はどういうメリットが得られるのか。
日本の各地域の弁護士の偏在がなくなる。そして、行政、企業、NPO、地方自治体など、法律の専門家が入っていき、活躍するようになる。おおむね不足なく実現できれば、まさに、しがらみとか地域の有力者による問題解決ではなく、法に則った問題の解決ができる。そういう社会に近づくということだ。
現状、司法制度改革によって、ゆがみが生じていること、問題が生じていることは十分に理解している。法科大学院の乱立と急速な法曹人口の増員でゆがみが生じた。そこを軌道修正していく。私の役割はそういうことだと思っている。
それから、司法制度改革にも光の部分はある。そこにも注目してほしい。

光 って キーワードになりつつあるのかしら???