弁護士法人かごしま 上山法律事務所 TOPICS

業務の中から・・報道を見て・・話題を取り上げます。

分母は裁判員裁判になる事件

2018-06-08 | 取調可視化
取り調べ全過程可視化、81.9%に増加 義務化控え


裁判員裁判になる事件における比率です。

全事件の中で裁判員裁判になる事件の割合はほんのすう%のはず。

取調可視化反対論者が強く主張していた不都合が生じているのでしょうか。


※引用

取り調べ全過程可視化、81.9%に増加 義務化控え


 殺人など裁判員裁判になる事件を対象に警察が行っている取り調べの録音・録画(可視化)で、2017年度に逮捕後の全ての過程を可視化したのは2618件だった。対象事件に占める割合は前年度の72・8%から81・9%に伸びた。警察庁が7日発表した。

 裁判員裁判対象事件の全過程の可視化を義務づける改正刑事訴訟法が来年6月までに施行される。警察による可視化が進む一方、法が定める例外ケースではないにもかかわらず、可視化していない事件も目立つ。

 警察は08年から可視化の試行に取り組み、対象場面などを拡大してきた。13年度からは全過程の可視化を開始し、15年度に全都道府県警に広がった。義務化を控え、16年10月からは、機器の故障や容疑者の拒否、容疑者が暴力団員といった法が定める例外を除き、全て可視化するとの新たな指針に基づき実施している。

 警察庁のまとめでは、17年度は対象事件の96・2%にあたる3077件で可視化を実施。そのうち全過程は2618件あり、前年度より294件増えた。

実質証拠化  の  問題点

2016-12-06 | 取調可視化
取り調べ録画 実質証拠なるか 司法研修所が議論 「直接主義に反する」懸念も



実質証拠化の問題って 太陽にほえろ や 西部警察 で育った国民には分かりにくいと思います。

各裁判官が判断することになる。のはその通りですが、

基準ぐらいはないとね。


※引用

取り調べ録画 実質証拠なるか 司法研修所が議論 「直接主義に反する」懸念も


 取り調べの録音・録画(可視化)を刑事裁判でどのような証拠として扱えるか、最高裁司法研修所が議論を始めたことが4日、分かった。可視化は「無理な取り調べが行われていないか」といった判断をする際の「補助証拠」とする想定で始まったが、検察側が犯罪を証明するための「実質証拠」として、供述調書に代えて申請する例が相次いでいる。こうした状況が、法廷での供述を聞いて判断する「直接主義」に反するとの懸念が生じている中で、裁判官同士の議論を深めるのが狙いだ。

検察は積極活用

 「審理が長時間の取り調べを視聴し、その適否を審査する手続となる懸念がある」。東京高裁は8月、強盗殺人罪で起訴された被告の判決で、録画を実質証拠とすることは「直接主義の原則から大きく逸脱する」おそれがあると指摘した。

 背景には録画を立証に積極活用しようとする検察側の姿勢がある。最高検は平成27年2月の通達で、必要に応じて「録画を実質証拠として請求することを検討する」との方針を示した。

 そもそも、録画は「被告が自分の意思で供述したか」という調書の「任意性」を判断する補助証拠としての利用が想定されていた。ただ、実際は調書の「信用性」を判断する補助証拠、さらには犯罪自体を立証するため、調書に代わる実質証拠として活用される場面も少なくない。

 録画を実質証拠として扱えるかどうかの明文規定はないが、裁判所が採用した例は複数ある。

 さいたま地裁は27年、取り調べ時に調書への署名を拒み、被告人質問で黙秘した強盗殺人事件の被告について、取り調べ録画を実質証拠として採用、法廷で再生した。同年には那覇地裁も脅迫事件で証拠採用。被告は法廷で取り調べと異なる説明をしたが、この部分の調書が作成されていないケースだった。

直感的判断の危険性も

 供述調書の読み上げに比べ、録画は被告の表情や声が裁判員らに伝わる半面、法曹関係者からは「直感的で主観的判断になる危険性がある」との指摘もある。

 今年4月、1審で無期懲役とされた栃木女児殺害事件では、無罪を主張していた被告の取り調べ録画を7時間以上にわたって再生。録画は補助証拠として扱われたが、判決は、供述経過や態度などを根拠に捜査段階の自白は信用できると判断し、有罪とした。

 可視化は日本弁護士連合会が強く求めてきた経緯があるが、刑事裁判に詳しい弁護士は「録画のインパクトが裁判員の心証に強く作用した」と危機感を募らせる。

 裁判所内にも証拠採用に慎重な見方はある。ある刑事裁判官は「弁護人のいる法廷と取調室では被告の心境も違う。録画から真実を話しているかどうか見抜くのは難しい」と指摘する。

「基本は法廷」

 裁判所や日弁連での議論に先行する形で検察側の証拠請求が相次ぐ中、最高裁司法研修所は昨年11月に開いた裁判官の研究会で、録画の取り扱いを議論。先月の研究会でも取り上げた。

 研究会では録画が実質証拠として申請された場合に、「調書と比べ検察官の意図に左右される要素が少なく、情報量も豊富だ」と利点を指摘する意見が出た一方、「法廷が上映会になってしまう可能性がある」との声もあった。そもそも録画を実質証拠として扱えるかどうかについても見解が分かれたという。

 ベテラン刑事裁判官は「法廷でのやり取りを基に判断するのが基本であることは変わらない。証拠採用するかどうかは、議論を踏まえて各裁判官が判断することになる」と話す。

任意性否定

2016-11-21 | 取調可視化
自白の任意性に疑い 捜査段階の調書採用せず 大阪地裁


記事の範囲でも、取り調べ段階の録音録画をしていないこと自体が任意性を否定する判断につながっているようにも読めます。

先日の研修であったように、録音録画の申入れを行うことが、被疑者弁護の第一歩になりそうですね。



※引用

自白の任意性に疑い 捜査段階の調書採用せず 大阪地裁


 覚醒剤取締法違反(営利目的輸入未遂)などの罪に問われている男性被告(54)の裁判員裁判で、大阪地裁(浅香竜太裁判長)は18日、捜査段階の自白調書を証拠採用しない決定を出した。男性は「否認を続ければ内妻を犯人隠避容疑で逮捕すると言われた」と主張。大阪府警の警察官は否定したが、取り調べ段階の録音録画はしておらず、大阪地裁は自白の任意性に疑いが残ると判断した。

 男性は2010年7月に複数の知人と覚醒剤を密輸しようとしたとして、15年夏に逮捕、起訴された。今月15日に始まった裁判員裁判で、男性は「荷物は何らかの違法薬物だとは思ったが、覚醒剤ではないと思った」と主張。しかし、逮捕後の府警の調べに対し、「覚醒剤と思った」と認めたとされ、検察官調書1通を証拠採用するかどうかが争点になっていた。

 公判では「『内妻を逮捕する』と言われて自白した」という男性の説明について、担当した警察官が「『内妻を逮捕する』とまでは言っていない」と証言した。

 大阪地裁は当時のやりとりを裏付ける証拠がないうえ、取り調べに立ち会った大阪税関職員の証言と警察官の説明が食い違う部分があると指摘。さらに取り調べ内容を書いた男性のノートに「もうどうでもいいや、外にいる人(内妻)も守ってやらないと」と残されていたことから、検察側の証拠請求を退けた。

 今年5月成立の改正刑事訴訟法は、裁判員裁判の事件での録音録画を義務付け、付帯決議では対象外事件でも積極的に実施するとしている。関西学院大法科大学院の川崎英明教授(刑事訴訟法)は「施行を待たずに一歩進めようという考えが裁判所に浸透しつつあるのではないか」と指摘。「任意性が争いになった時は録音録画が必要という裁判所のメッセージ。大変インパクトがある妥当な決定だ」と話した。

取調べの録音・録画

2016-10-03 | 取調可視化
裁判員裁判対象事件、1日から全過程を可視化 全国の警察で


全体の事件の割合も示してほしいものです。

立法審議の過程での取締り側の言い分を報道しないと

一般の方にとっては、刑事司法改革の成果みたいに読めてしまうのが、問題。

産経新聞の記事からです。

※ 引用

裁判員裁判対象事件、1日から全過程を可視化 全国の警察で


 裁判員裁判の対象事件について、全国の警察は1日から原則、容疑者の取り調べの全過程の録音・録画(可視化)の試行を始める。これまでは裁判員裁判対象事件のうち、供述の任意性や信用性から必要とした場合に一部で可視化を試行していたが、例外を除いて全過程で可視化となる。今後は取り調べの技能向上や機材の着実な整備などが課題となる。

 裁判員裁判対象事件の全過程の可視化は、今年5月に成立した改正刑事訴訟法で義務付けられた。改正法は平成31年6月までに施行されるため、警察庁はすでに全国の警察に1日からの全過程可視化試行の新指針の通達を出し、本格実施に備えるとしている。

 警察庁によると、裁判員裁判対象事件以外の事件でも、取り調べを進める過程で将来的に裁判員裁判対象事件に発展する見通しがある場合は、可視化の対象とする。警察庁幹部によると、殺人事件に発展する可能性がある死体遺棄事件などが対象になるという。

 このほか、客観的な証拠が乏しく容疑者の供述が犯行立証に必要な場合は、事件の内容ごとに判断し可視化の対象とする。知的障害があり、取調官に迎合するような傾向がある容疑者についても実施する。

 可視化の機材が不足し、記録が不可能なケースや、容疑者が可視化を拒否した場合は例外的に行わなくともよいとした。

 警察による取り調べの可視化は平成20年から試行を開始。27年度は対象事件3217件のうち1565件で全過程の可視化を行い、実施率は48.6%だった。件数は26年度の587件から約2.7倍に増えた。

 課題は機材整備だ。取調室は全国の警察本部や警察署など約1200カ所に約1万室あるが、昨年末時点で取調室に設置された録音・録画に必要な機材は約1850台にとどまる。警察庁幹部は「改正法が施行となった段階で、機材が足りませんでは済まない。機材の整備を着実に進めねばならない」と強調する。

 また、全過程が可視化される中、容疑者が供述しやすい室内環境を取調官がつくるなどの、技能の向上も求められることになる。

 警察庁の坂口正芳長官は9月27日、全国の捜査担当課長らを集めた会議で「3年後の制度施行を念頭に原則全過程の録音・録画を行うとともに、計画的な機器の整備や取調官の技能向上などを図ることが必要」などと指示している。



【用語解説】取り調べの可視化

 冤罪(えんざい)の温床となる違法な自白の強要などがないか検証したり、裁判での供述の任意性や信用性を立証したりするため、取り調べを録音・録画すること。警察は平成20年、検察は18年から一部で可視化試行を開始。今年5月に裁判員裁判対象事件と検察の独自捜査事件の全過程可視化が義務づけられた改正刑事訴訟法が成立した。可視化の対象は全事件の約3%。

 裁判員裁判対象事件 国民から選ばれた裁判員によって全国の地裁で審理される重大な刑事事件。殺人や強盗致死、現住建造物等放火、身代金目的誘拐、危険運転致死などが対象になっている。

長女の調書

2016-07-13 | 取調可視化
「ジャイアンがママでスネ夫がパパ」 被告の長女が説明


「ジャイアンがママ、スネ夫がパパ。ドラえもんはうちの家にはいなかった」

 一般の人も裁判所も分かりやすいと思うかもしれませんが、
 長女が取調官に自分からこういう例え方はしないように思います。

「たとえば、ドラえもんで言ったらどんなふうだったかなあ??」
「お母さんはどんな感じ~???」
「お父さんは誰に似てたかな~???」
「ドラえもんはいたかな~???」
・・・という風に
 聞き取られたことがこのようにまとめられているのだと思います。
 
 読み聞かせで確認をしてサインはしているでしょうけど
 おそらくそのようにして作られているのですから
 取調官の意図や趣味が入ることは間違いないですね。

ここで例えられるようになると  国民的 ○○ になるのでしょうか。


※引用

「ジャイアンがママでスネ夫がパパ」 被告の長女が説明

 福岡県筑後市のリサイクル店事件で、経営者夫婦の夫の公判が12日、福岡地裁であった。妻=一審で懲役30年、控訴=の妹と両被告の長女の調書を検察側が読み上げ、店や家族内での支配関係などを説明した。

 この日は、2006年10月に義弟とその息子を暴行で死亡させたとされる傷害致死罪の審理が始まった。

 両被告の長女の調書によると、長女は当時6歳前後で、2歳年下の大斗ちゃんが両被告宅に住んでいた。

 長女と大斗ちゃんは普段、正座や「気をつけ」の姿勢で被告(妻)に怒られた。ある時には浴室に裸で立たされた2人が被告(妻)から平手打ちや殴打をされ、「大斗ちゃんは『気をつけ』のまますごく泣いていた」と振り返った。

 長女は「ママが言うことが絶対で私とパパはママの機嫌や顔色を見て生活していた」とし、「ジャイアンがママ、スネ夫がパパ。ドラえもんはうちの家にはいなかった」と説明した。

別件逮捕 

2016-05-18 | 取調可視化


実際に行われている身柄拘束と法務省側の考えがよく分かるやり取りですね。

いわゆる 別件逮捕 という手法で  自白を獲得する という考え方は少しも変わらないということですね。


※引用

採決目前の可視化法案に日弁連内部から「待った!」 「法務省と解釈にずれ」


 取り調べの録音・録画(可視化)を義務付けることを盛り込んだ刑事訴訟法改正案が今国会で成立する見通しとなるなか、早期成立を求めていた日本弁護士連合会(日弁連)内部から、法案の修正を求める意見書が相次いで会長に提出されていることが15日、分かった。可視化を義務付ける対象が「法務省の解釈とずれがある」としており、今国会がラストチャンスとなる法改正に思わぬところから「待った」がかかった形だ。

 意見書を出したのは、刑事政策関連の調査研究などを行う刑事法制委員会と元事務総長の海渡雄一弁護士で、執行部が決めた方針に委員会が異論を唱えるのは異例。

 きっかけは、4月8日に1審判決が言い渡された栃木小1女児殺害事件だ。被告は商標法違反罪で起訴された後に殺害を自白し、検察は直後から取り調べを可視化した。警察の可視化は殺人容疑で再逮捕した後からで、弁護側は再逮捕までの取り調べで自白の強要があったと主張していた。

 法案は、裁判員裁判の対象となる事件について、警察官や検察官が「逮捕もしくは勾留されている容疑者」を取り調べるときは可視化を義務付けている。

 4月14日の参院法務委員会で法務省刑事局長は「対象外事件で逮捕、勾留された容疑者を対象事件の余罪で取り調べる場合は録音・録画義務がかかる」としたが、対象外事件で起訴された後、勾留されている間に余罪として対象事件を取り調べる場合は可視化義務の「対象とならない」と答弁した。

 21日には、理由として「容疑者は必要な捜査を行うために勾留しているのに対し、被告は取り調べを受ける法的義務はなく、拒否できる」などと説明、起訴後でも事案に応じて運用で可視化を実施するとした。

 一方、日弁連側の参考人は、可視化義務があると解釈すべきだとの見解を示した。

 法務省の解釈では、法改正後も栃木事件のケースは可視化義務の対象外となる。海渡氏は意見書で「日弁連が法案に賛成した前提に重大な疑問が生じている」と指摘。刑事法制委の岩田研二郎委員長は「身体拘束下の取り調べであることは同じで法務省の解釈は誤り。重大な解釈の相違で、別件逮捕を利用した捜査では録音・録画義務に大きな穴が生じる」とし、日弁連は法案修正による可視化義務の明確化を法務省などに要求すべきだとしている。

 日弁連の山口健一副会長は「起訴後勾留で別件について取り調べられた場合も可視化対象というのが日弁連の基本的立場。法務省局長の答弁とずれがあるので関係機関と確認作業をしたい」とコメントした。

対象事件の 17.6% → 48.6% へ

2016-04-21 | 取調可視化
取り調べ全過程の可視化、前年度の2.6倍 1543件


裁判員裁判対象事件におけるパーセンテージを示すのであれば、対象事件以外の事件を含む事件全体のパーセンテージも示すべきと思う。

イメージとしては、だいぶ可視化が進んだととらえられかねない。

※引用


取り調べ全過程の可視化、前年度の2.6倍 1543件

 警察が取り調べの録音・録画(可視化)を試行している裁判員裁判の対象事件で、逮捕後の全ての取り調べ過程を可視化したのは2015年度、1543件あり、14年度の2・6倍に増えたことが21日、警察庁のまとめで分かった。対象事件の48・6%にあたり、割合は14年度の17・6%から大幅に上昇した。

 参院で審議中の刑事司法改革関連法案が成立すれば、3年後をめどに、裁判員裁判の対象事件は原則、逮捕後の全過程の可視化が義務付けられる。15年度に大きく進んだとはいえまだ半数にとどまっており、警察庁は「法の施行までにきちんと対応できるよう、機器の整備や捜査員の能力向上に努める」としている。

 まとめでは、裁判員裁判対象事件は15年度、3178件あり、91・2%の2897件で逮捕後に一部または全部を可視化した。1事件あたりの可視化の時間は、14年度の1・5倍の21時間3分に増加。逮捕後の全ての取り調べ時間に占める可視化の割合も53・0%から79・1%に伸びた。

証拠隠滅  参考人取調べと可視化

2016-04-04 | 取調可視化
裁判所HP 最高裁の最新判例から


架空の事実に関する令状請求のための証拠を作り出す意図で,各人が相談しながら虚偽の供述内容を創作,具体化させて書面にしたもの

と認定している。
作成されたのは、取調室である。

警察庁、法務省は 「こういうこともあるので可視化はできない」 と 可視化反対の理由を訂正するべきである。

※引用


平成26年(あ)第1857号 詐欺,証拠隠滅被告事件
平成28年3月31日 第一小法廷決定
主 文
本件上告を棄却する。
理 由
弁護人後藤貞人,同宇野裕明,同鈴木一郎の上告趣意のうち,判例違反をいう点は,事案を異にする判例を引用するものであり,本件に適切でなく,その余は,憲法違反をいう点を含め,実質は事実誤認,単なる法令違反,量刑不当の主張であって,刑訴法405条の上告理由に当たらない。
所論に鑑み,本件における刑法104条の証拠を偽造した罪の成否につき,職権で判断する。
1 原判決及びその是認する第1審判決並びに記録によれば,本件証拠偽造の事実関係は次のとおりである。
(1) 本件は,被告人が,平成23年12月19日,Aと共に警察署を訪れ,同署刑事課組織犯罪対策係所属のB警部補及びC巡査部長から,暴力団員である知人のDを被疑者とする覚せい剤取締法違反被疑事件について参考人として取り調べられた際,A,B警部補及びC巡査部長と共謀の上,C巡査部長において,「Aが,平成23年10月末の午後9時頃にDが覚せい剤を持っているのを見た。Dの見せてきたカバンの中身をAがのぞき込むと,中には,ティッシュにくるまれた白色の結晶粉末が入った透明のチャック付きポリ袋1袋とオレンジ色のキャップが付いた注射器1本があった」などの虚偽の内容が記載されたAを供述者とする供述調書1通を作成し,もって,他人の刑事事件に関する証拠を偽造した,という事案である。
(2) Aは,被告人と相談しながら,Dが覚せい剤等を所持している状況を目撃したという虚構の話を作り上げ,二人で警察署へ赴き,B警部補及びC巡査部長に対し,Dの覚せい剤所持事件の参考人として虚偽の目撃供述をした上,被告人らの説明,態度等からその供述が虚偽であることを認識するに至ったB警部補及びC巡査部長から,覚せい剤所持の目撃時期が古いと令状請求をすることができないと示唆され,「適当に2か月程前に見たことで書いとったらええやん」などと言われると,これに応じて2か月前にもDに会ったなどと話を合わせ,具体的な覚せい剤所持の目撃時期,場所につき被告人の作り話に従って虚偽の供述を続けた。C巡査部長は,Aらと相談しながら具体化させるなどした虚偽の供述を,それと知りながら,Aを供述者とする供述調書の形にした。Aは,その内容を確認し,C巡査部長から「正直,僕作ったところあるんで」「そこは流してもうて,注射器とか入ってなかっていう話なんすけど,まあ信憑性を高めるために入れてます」などと言われながらも,末尾に署名指印をした。
2 他人の刑事事件に関し,被疑者以外の者が捜査機関から参考人として取調べ(刑訴法223条1項)を受けた際,虚偽の供述をしたとしても,刑法104条の証拠を偽造した罪に当たるものではないと解されるところ(大審院大正3年(れ)第1476号同年6月23日判決・刑録20輯1324頁,大審院昭和7年(れ)第1692号同8年2月14日判決・刑集12巻1号66頁,大審院昭和9年(れ)第717号同年8月4日判決・刑集13巻14号1059頁,最高裁昭和27年(あ)第1976号同28年10月19日第二小法廷決定・刑集7巻10号1945頁参照),その虚偽の供述内容が供述調書に録取される(刑訴法223条2項,198条3項ないし5項)などして,書面を含む記録媒体上に記録された場合であっても,そのことだけをもって,同罪に当たるということはできない。
しかしながら,本件において作成された書面は,参考人AのC巡査部長に対する供述調書という形式をとっているものの,その実質は,被告人,A,B警部補及びC巡査部長の4名が,Dの覚せい剤所持という架空の事実に関する令状請求のための証拠を作り出す意図で,各人が相談しながら虚偽の供述内容を創作,具体化させて書面にしたものである。
このように見ると,本件行為は,単に参考人として捜査官に対して虚偽の供述をし,それが供述調書に録取されたという事案とは異なり,作成名義人であるC巡査部長を含む被告人ら4名が共同して虚偽の内容が記載された証拠を新たに作り出したものといえ,刑法104条の証拠を偽造した罪に当たる。したがって,被告人について,A,B警部補及びC巡査部長との共同正犯が成立するとした原判断は正当である。
よって,刑訴法414条,386条1項3号により,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 池上政幸 裁判官 櫻井龍子 裁判官 山浦善樹 裁判官大谷直人 裁判官 小池 裕

ドラクエ

2016-01-29 | 取調可視化
警部補、取り調べ中「ドラクエ」3日…計3時間

読売新聞の記事から

※引用

警部補、取り調べ中「ドラクエ」3日…計3時間

 大阪府警西署の男性警部補(59)が容疑者の取り調べ中、タブレット端末で人気ゲーム「ドラゴンクエスト」をしていたとして、本部長注意の処分を受けていたことが府警への取材でわかった。

 警部補は府警の調査に対し、「暇つぶしでやっていた」と話している。処分は昨年10月28日付。

 府警監察室によると、警部補は昨年10月、わいせつ物を販売目的で所持するなどしたとして逮捕された女の取り調べ中、内規で取調室への持ち込みが禁止されているタブレット端末を使い、3日間で計約3時間、ゲームに興じていたという。

 警部補は、20歳代の男性巡査長の補助役として取り調べに同席。ゲームをしている警部補に女が気付き、別の警察官に知らせて発覚した。

 警部補は「取り調べが順調に進んでいたので、何もすることがなく暇だった」と説明しているという。


捜査側が 取調べの可視化の導入を絶対に避けたい理由は案外こんなところかも・・・

カメラは複数かつワイドにする必要がありますね。

廃案???

2016-01-25 | 取調可視化
取り調べ可視化・司法取引導入に暗雲漂う 刑事司法改革関連法案、廃案の可能性 国会日程余裕なく…関係者落胆


産経新聞の記事からです。

※引用

取り調べ可視化・司法取引導入に暗雲漂う 刑事司法改革関連法案、廃案の可能性 国会日程余裕なく…関係者落胆


 裁判員裁判対象事件と検察独自捜査事件を対象とした取り調べの全過程の録音・録画(可視化)や司法取引導入を軸とした刑事司法改革関連法案が廃案の瀬戸際に立たされている。昨年の通常国会で提出されたが、他の法案を絡めた与野党の綱引きもあり参院で継続審議となっている。今年の通常国会が始まったが、政府が優先して成立を目指す法案が複数ある上、閣僚をめぐる「政治とカネ」の問題も浮上し、議論停滞は必至。関連法案の帰趨(きすう)に暗雲が漂い始めた。(大泉晋之助)

 関連法案は、今国会で参院を通過しなければ廃案になる。国会では継続審議とした議会の大型選挙が行われて議員の構成が変わった場合、廃案となることが慣例だからだ。このため、夏の参院選前の参院通過が不可欠だが、今国会で審議時間を確保するにはいくつかのハードルがある。

 そもそものつまずきは、昨年通常国会で関連法案が“人質”にされたことだ。約70時間の審議を経て衆院を通過し、参院に送られたが、民主党などがヘイトスピーチ規制法案(人種差別撤廃施策推進法案)を先に処理するよう求め、参院法務委員会が開かれない状態が続いた。また、与党が安全保障関連法案の通過を優先させた結果、成立を図る法案が絞られ、刑事司法改革の関連法案は後回しとされた。

 ■  ■  ■ 

 4日に始まった通常国会では、平成28年度予算案の審議や環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)の国会承認などが大きな焦点。TPPを担当する甘利明経済再生担当相の金銭授受疑惑も浮上し、今後の国会運営は難航必至となった。5月の伊勢志摩サミット(主要国首脳会議)も控え、会期に余裕はない。

 法務省幹部は「年をまたいで継続審議になってはいるが、予算や他の法案に比べれば優先順位は下がる。関連法案の成立は厳しい状況だ」とみる。また、昨年末には最高裁が「離婚後180日間」と定めた民法の女性の再婚禁止規定について「100日を超える部分は違憲」と判断。与野党とも「違憲判断には速やかに従い改正すべきだ」としており、同省が成立を目指す法案でも優先順位が入れ替わったかたちだ。

 ■  ■  ■

 前途多難な関連法案成立だが、昨秋の時点で現状は予想されていた。昨年10月の内閣改造で入閣した岩城光英法相側には就任に際し、「関連法案など『通常国会で継続審議となった法案の成立は今後も厳しい』との引き継ぎがあったようだ」と明かす自民党関係者もいる。

 改正に向けて準備を続けてきた現場には戸惑いがある。「所管する立場で誠意を持って説明し、国会でも丁寧な審議をしてもらった。それが仕切り直しになるのか」。ある法務省幹部は無念さを隠さない。検察庁からも「五輪を控え、テロ対策も進めなくてはならない。廃案への危機感は強い」との声が出ている。

 ある法務省幹部は「廃案になったものを、同じ内容で再提出するのは難しいだろう」と話す。廃案になった場合の対応として法務省内には、(1)一部修正して再提出(2)項目ごとに切り分けて段階的に提出-などの案が出ている。


いったい なんなのだろうという感じですね。

関係者もよく分からんし、法制審の議論ってって感じです。

被疑者ノート

2016-01-21 | 取調可視化
「被疑者ノート廃棄で防御権侵害」 松江地裁が無罪判決

朝日新聞の記事からです。

※引用

「被疑者ノート廃棄で防御権侵害」 松江地裁が無罪判決

 高齢女性から現金をだましとったとする詐欺の罪に問われた無職男性(47)に対し、松江地裁(大野洋裁判長)は20日、詐欺行為に加担する認識があったか疑いが残るとして無罪判決(求刑懲役4年6カ月)を言い渡した。男性は捜査段階の取り調べ状況を記す「被疑者ノート」をつけていたが、勾留先の刑務所職員が誤って廃棄。防御権を侵害されたと訴えていた。

 男性は昨年4月、共犯とされた知人に頼まれて松江市の女性から1550万円を受け取る役をしたとされ、捜査段階で容疑を認めた。だが、公判で「否認すると裁判官の心証が悪くなると警察官に言われて認めた。会社の書類と現金を預かってくるよう頼まれただけ」と否認。判決はこの主張に沿って無罪を導いた。

 男性側は被疑者ノートの廃棄で取り調べの問題点を裏付ける資料が失われたとして、捜査段階の供述調書を証拠採用しないよう公判で求め、検察側が撤回する展開をたどっていた。


被疑者ノートの破棄、防御権の侵害が事実認定でどのように論じられえているのか、読んでみたいですね。

社説を題材に

2015-08-11 | 取調可視化
南日本新聞の社説が次のように述べています。


[刑事司法改革] 捜査強化だけでいいか

 司法取引の導入や、警察と検察による取り調べの録画・録音(可視化)の義務付け、通信傍受の対象拡大を柱とする刑事司法改革の関連法案が衆院を通過した。
 法案は捜査手法を強化する内容だ。改革の出発点にあった冤罪(えんざい)防止はかすんでいる。捜査機関の権限拡大への歯止め策など、参院では徹底した審議を求めたい。
 新たに導入される司法取引は、容疑者や被告が共犯者の犯罪に関する協力の見返りに、検察官が起訴を取り消したり求刑を減らしたりする。経済事件や薬物・銃器事件などが対象だ。
 衆院では与野党協議を経て、取引に弁護人が必ず立ち会うほか、検察が取引合意までの記録を作成し、裁判が終わるまで保管することが義務付けられた。
 ただ、「合意に至る過程の可視化」は取り入れられなかった。これでは虚偽の供述で冤罪が生まれる恐れが消えない。
 事前収賄罪などで起訴された岐阜県美濃加茂市長を無罪とした名古屋地裁判決は、別の事件で起訴されていた贈賄業者が自分の処分を軽くするため虚偽の供述をした疑いがある、と指摘した。
 こうした懸念に政府は、取引に弁護人の同意が必要なことや、うその供述に罰則があることなどを根拠に反論する。
 だが、美濃加茂市長の弁護人は「同意するのは容疑者や被告の弁護人であり、巻き込まれる側の弁護士ではない。チェック機能は働かないだろう」と疑問視する。
 参院では、合意に至る過程の可視化など、冤罪防止策をさらに詰めるべきである。
 取り調べの可視化については、警察や検察が「全過程の録音・録画」を受け入れたものの、対象事件の拡大は拒んだ。
 このため、可視化は殺人や放火など裁判員裁判対象事件や検察独自事件に限られ、全事件の3%ほどにとどまった。
 贈収賄事件と痴漢事件が対象外になったことも見過ごせない。贈収賄事件は誘導によって自白を迫られやすいとされ、痴漢事件は冤罪被害が目立つからだ。
 電話やメールによる通信の傍受の対象拡大も問題がある。
 薬物など現在の4類型に、振り込め詐欺など組織性が疑われる9類型が追加された。
 第三者がいない中、警察施設で捜査に無関係の警察官が傍受に立ち会うというが、身内が適正な運用をチェックできるだろうか。
 改革の目的は、冤罪の温床とされた自白に偏重しない捜査や公判だった。捜査機関はいま一度その原点を思い出すべきだ。


改革の目的は議論の中で後退というか変容してしまいました。

捜査機関の側は改革という名目のもとに大きな武器を手にしたように思います。

取引についての立会といっても、弁護人としては責任を限定するためにいろいろ防御策を考えなければならないでしょうね。


刑事司法改革関連法案

2015-08-10 | 取調可視化
毎日新聞の記事からです。

<刑事司法改革案>可視化や司法取引を導入 衆院通過



 警察や検察による取り調べの録音録画(可視化)義務付けや日本版司法取引の導入、通信傍受の対象犯罪拡大などを柱とした刑事司法改革関連法案は7日午後の衆院本会議で、共産などを除く与野党の賛成多数により可決され、衆院を通過した。参院に送付され、今国会で成立する見込み。公布後3年以内に順次施行され、日本の刑事司法制度は大きな転換点を迎える。

 可視化が義務付けられるのは、裁判員裁判の対象となる重大事件や、特捜部が手がけるような検察の独自捜査事件で逮捕・勾留された容疑者の取り調べの全過程。検察は既に運用で可視化を実施し、法案の義務付け対象以外の事件にまで対象を拡大。警察も試行的に可視化を進めている。法改正による義務付けは全逮捕・勾留事件の3〜4%になる。

 冤罪(えんざい)が多いとされる痴漢事件や、被告全員が無罪となった鹿児島県議選を巡る「志布志事件」のような警察による公職選挙法違反事件は対象外だ。法務委員会の審議では野党側が「全事件を対象とすべきだ」「否認事件で可視化を実施すべきだ」などと対象範囲の拡大を主張。将来的な対象事件の拡大を法律で確約することを求める意見も出た。

 しかし、政府側は▽全事件を対象とする必要性や現実性に疑問があり、捜査への影響も懸念される▽実際に制度を運用しないと効果や課題が分からない−−として譲らなかった。

 日本版の司法取引は、容疑者や被告が他人の犯罪事実を明らかにする見返りに、検察官が起訴を見送ったり、求刑を軽くしたりできる制度。薬物銃器事件や汚職、談合といった経済事件での活用を想定している。

 また、犯罪捜査で電話などの傍受を認める通信傍受は、対象犯罪を現在の薬物銃器犯罪など4類型に、振り込め詐欺や外国人グループによる窃盗を念頭に、組織性が疑われる詐欺や窃盗など9類型を加える。

 野党側はこうした捜査機関の権限拡大にも反発。民主、維新が先月、修正協議を持ちかけた結果、司法取引と通信傍受の適正な運用を担保する項目を明記することなどで合意した。法案の審議時間は約68時間だった。修正内容について、上川陽子法相は7日の閣議後記者会見で「法務委員会の審議で指摘されたさまざまな懸念に対応したもので、意義深いものと受け止めている」との認識を示した。

 ◇刑事司法改革関連法案の骨子

・裁判員裁判対象事件と検察独自捜査事件の取り調べの全過程を可視化(3年以内)

・容疑者や被告が他人の犯罪事実を明らかにした場合、検察官は見返りに起訴を見送ったり、求刑を軽くしたりできる日本版の司法取引を導入(2年以内)

・証人に対し、刑事責任を追及しないとの条件で不利なことを証言させる刑事免責制度を導入(2年以内)

・通信傍受の対象犯罪に組織性が疑われる詐欺や窃盗などを追加(6カ月以内)

・裁判所による保釈の判断を「逃亡、証拠隠滅の恐れの程度や、健康上、経済上の不利益を考慮する」などと明確化(20日経過後)

・検察官が被告側に証拠の一覧表を開示(6カ月以内)

・勾留されたすべての容疑者に国選弁護人を付ける(2年以内)

 ※かっこ内は公布から施行までの期間


20日経過後、保釈の運用が若干変わるのかな???

周防監督 の インタビュー記事

2015-07-23 | 取調可視化
日本の司法はおかしい、だから闘い続ける 周防正行監督に裁判の問題点を聞く


東洋経済オンラインの記事からです。


日本の司法はおかしい、だから闘い続ける 周防正行監督に裁判の問題点を聞く



痴漢えん罪事件を描いた映画「それでもボクはやってない」(2007年1月公開)で、日本の刑事司法のあり方に異議を唱えた映画監督の周防正行氏。その周防監督が、法制審議会の委員として活動した3年間の軌跡をつづった「それでもボクは会議で闘う」(岩波書店)を上梓した。発売1カ月で増刷が決まるなど、売れ行きは上々だが、それ以上に、審議会に於ける周防氏の“闘いぶり”に対する専門家の評価は高い。

周防監督が委員となった審議会は、「新時代の刑事司法制度特別部会」という。2009年に厚生労働省社会・支援局障害保険福祉部企画課長だった村木厚子氏が、いわゆる「凛の会事件」で逮捕、起訴され、その課程で大阪地検特捜部による強引な見込み捜査、証拠改ざん、隠ぺいなどが明かになり、検察への信頼を根底から覆した。

その反省から、取り調べ供述調書に過度に依存した捜査・公判のあり方を抜本的に見直し、制度としての取り調べの可視化を含む、新たな刑事司法制度を構築するために、民主党政権下の2011年6月に発足した審議会である。

発足から3年後の2014年7月にこの審議会は答申を取りまとめ、それに基づいて作成された刑事訴訟法の改正案が今国会に提出され、現在審理待ちの状態になっている。

審議会のメンバーは総勢42名。一般有識者も周防氏や村木氏など7名が選ばれたが、警察、法務省関係者が14名、裁判所関係者が4名、内閣法制局から1名、学者11名に弁護士5名という構成だった。

警察と法務省、裁判所だけで18名、学者の大半が権力側の御用学者。従来的な取り調べ手法に肯定的な顔ぶれが全体の6割以上を占め、周防氏にメンバー表を見せられた某法曹関係者が「絶望的なメンバー」と言い切るほど。周防氏にとってはまさに多勢に無勢の状況下での闘いとなった。

刑事司法のあまりのひどさに愕然
――法制審の委員には、日本弁護士連合会に割り当てられた推薦枠でなられたそうですね。

「それでもボクはやってない」でお世話になった弁護士の方からお話をいただきました。

――「それでもボクはやってない」は、3年半に及ぶ徹底取材を元に制作されたそうですね。刑事裁判を200回以上傍聴され、弁護団会議や勉強会に出席されたり、数百冊もの法律書も読破されたとのことですが、そこまでのめり込んだ理由は何だったのでしょうか。

最初のきっかけは、痴漢事件で逆転無罪の判決が出た、という新聞記事でした。家族や友人が、被告人、弁護士と一緒に闘ってようやく得た無罪。言ってみれば素人が未知の世界で頑張ったというのが第一印象で、従来の私の映画のテーマに近かった。そこで取材を始めてみたところ、刑事司法の現状のあまりのひどさにショックを受けたんです。世の中でえん罪が起きていることは知ってはいましたが、人が人を裁く以上、どこかで人としての限界があって、ぎりぎりのところで生まれてしまう、防ぎきれない事故のようなものだと思っていたんです。でも実際には全然違って、起こるべくして起こっている。

――取り調べの手法から裁判所の対応に至るまで、実際に刑事被告人になった人たちが、その悲惨な経験を綴った書籍は昔から沢山出ていますし、ベストセラーにもなっているのですが、なかなか国民に浸透しない様です。

そういう本がここまで多数出ていることを知らなかったこともショックでした。取材を進めれば進めるほど、痴漢事件だからひどいのではなく、おおむね刑事裁判というものがひどいから痴漢事件もこうなってしまうということがわかっていきました。

――裁判官と検察官の関係にも驚かれたとか。

注目の事件を弁護士に教えてもらって傍聴に行くでしょ、その時、その法廷の前後の時間帯の事件も傍聴することにしてました。否認事件だけでなく、罪を認めている事件の裁判も知りたかったからです。すると、同一法廷では、ほぼ同じ裁判官と検事のコンビで裁判が行われていることを知りました。つまり、裁判官と検事はずっと同じ法廷に居て、被告人と弁護士だけが入れ替わるわけです。見ているとその合間合間で裁判官が検事に今終わったばかりの公判についてアドバイスしたり、談笑していたりするんですよ。裁判官と検事が公判の合間にあんな風に話していたら、公正さを疑われても仕方がない。実際、検察官に便宜を図っているものではないとしても、誤解を受けるようなことはすべきではない。

――判検交流(研修の一貫で裁判官が検事の業務に、検事が裁判官の業務に就く人事交流)なんてもってのほかですね。

明日から検察官に戻るという人が、今日は裁判官として無罪判決を書くなんてありえないと思うでしょ。いくら、公正に判断していると言われても、公正さを疑われるようなことはすべきではない。さすがに批判に耐えかねたらしく、数年前にひっそりとやめた様ですが。

「勾留の運用は適正」と言い切った裁判官
――映画公開と同時に出版されたシナリオ本「それでもボクはやってない」(幻冬舎)の後半には、刑事司法では常識とされている手続きについて、木谷明弁護士(多数の無罪判決を書いたことで知られ、劇中の大森裁判官が尊敬する元裁判官)に解説をしてもらう対談ページが付いています。

痴漢事件の場合、まず駅の事務室に連れて行かれ、警察官が来て警察に連れて行かれ、取り調べが始まる。実際には事務室に連れて行かれた時点で民間人によって逮捕されているのに、取り調べが始まって、もうお前は逮捕されているんだと言われるまで本人はそのことを知らない、否認している限り勾留が続くとか、証拠になるものは全て検察官が押さえてしまい、検察官にとって都合の良いものだけ証拠開示し、それ以外のものは被告側に見せない、密室で作られる供述調書は検察官が読み上げて被疑者に聞かせ、被疑者本人がサインしたことをもって適正に作られた調書だとするなど、被疑者に著しく不利な習慣に関する質問項目は合計23項目に及ぶ。

シナリオを書きながら、なぜこんなことがまかり通っているのか、どうにも理解も納得もできないことが多数出てきたんですよ。

――木谷弁護士も感嘆されている様ですが、この質問項目を見る限り、もはや監督もプロの法律家の領域ですね。これだけの見識を持つ人を、予定調和を重んじる法制審がよく委員として認めましたね。

民主党政権下だったということ、そして日弁連に推薦枠を出した以上は事務局としても反対する理由はなかったということでしょう。

――メンバーの6割以上は権力側ですから、一般有識者の主張は押さえ込めると見たのでしょうか。監督と村木さんが入った審議会が出した結論なら権力側としては免罪符になりますね。それにしても警察、検察関係の委員の言動には驚きます。まさに、「10人の真犯人を逃すくらいなら、ひとりくらいえん罪を出しても仕方がない」というスタンスです。

たとえば、供述調書に極端に依存する現状の取り調べ手法がえん罪を生むからこそ、取り調べの可視化が検討されているというのに、録音、録画する箇所は、「取り調べる側の裁量に任せるべき」となっている。否認している限り勾留し続け、自白を強要する人質司法が批判されているというのに、164日間も勾留された村木さんを目の前にしながら、裁判官は「勾留の運用は適正になされている」と言い切っている。

国家権力は「10人の真犯人を逃すとも、ひとりの無辜を罰するなかれ」の格言を無視しています。明らかに、治安を維持するためには、あるいは捜査機関の信頼性を高めるためには、えん罪であっても被告人を処罰した方が良いんだと考えているとしか思えません。

――多くの国民に、真犯人は必ず処罰される、という強い期待があるからそうなるのではないでしょうか。以前、やはり多くの無罪判決を書いたことで知られる元裁判官の原田國男弁護士にお話を伺った際、無罪判決を出していちばん怒るのは国民だとおっしゃっていました。

そうかもしれないですね。無罪なら「真犯人は誰なんだ」と怒るでしょう。おそらく多くの人は、「何も悪いことをしていない人が、警察に捕まるわけがない」と思っています。自分は何も悪いことをしていない。そんな自分がえん罪に巻き込まれるわけがない。万が一無実の罪で捕まっても、裁判は公正に行われていると思っているから、無罪になると信じている。でも現実は違います。痴漢事件がいい例です。えん罪は私たちが思っている以上に多いと思います。

結果はほぼ敗北と言われても仕方がない面がある
――審議会の検討テーマは9項目でしたが、今回の著書では特に中核となる3つのテーマに関する議論に絞って、議論の推移を詳細に語っておられます。

結果はほぼ敗北だと言われても仕方がない面があると思っています。取り調べの可視化は全事件、全課程の録音・録画を目指しましたが、裁判員裁判対象事件と検察独自捜査案件のみになりましたし、証拠の開示は全事件での事前全面一括開示を目指しましたが、公判前整理手続き対象の事件に限り証拠のリスト開示が認められただけで、捜査関係者が被疑者のアリバイ捜査で、現場で聞き込みをして得られた捜査報告書も対象外。そもそも再審事件も対象外です。あまりにも安易に勾留が行われているので、その現状を打開するための規定設置も目指しましたが、安易な勾留など行われていないという捜査関係者と裁判所の主張を事務局が汲んだ結果、裁量保釈(起訴後の保釈)の判断に当たっての考慮事情を明記するだけになりました。

――ただ、起訴前の被疑者の段階から国選弁護人を付けられる規定は、従来は懲役刑と禁固刑の対象事件だけでしたが、全ての事件に拡大されました。

それは日弁連の今までの努力の成果です。ただし全事件と言っても身柄拘束される事件が対象ですので、さらに実績を重ねて、全ての事件で弁護人が付くようにしてほしいです。

――米国の刑事ドラマを見ていると、必ず弁護士が取り調べに同席していますよね。

日本の捜査当局の人に取り調べへの弁護士同席なんて話をしたら、何をバカなことを言ってるんだという顔をされます。そんなことをしたら真実を話さなくなる。密室で被疑者と取調官が信頼関係を築き、お互いが心を開いて話すことで、真相が明らかになる、治安の良い日本がわざわざ治安の悪い国の取り調べ制度を見習う理由などない、という論法です。でも、「終の信託」(2012年公開、患者から重篤になった場合の対応について意向を伝えられていた医師が、その意向通りに取った対応で刑事訴追を受ける)がオーストラリアで上映された時、質疑応答で最初に受けた質問が「なぜ取り調べに弁護士が同席していないのか」でした。捜査機関の言い分を説明しましたが、理解されませんでした。

――とりまとめられた答申案に、イスを蹴飛ばして反対するという選択肢はなかったのでしょうか。

この審議会は全会一致が原則でした。僕らが反対したら審議会は答申を取りまとめられないまま解散になり、何ひとつ現状と変わらないということになった可能性もあります。少なくとも、今回の案でほんのわずかでも制度は変わる。そのほんのわずかの積み重ねで、数十年後には大きく変わっているかもしれない。その可能性に賭けて妥協しました。

――ハードルは高いですね。

そもそも民主党が議員立法でさっさと手当てしていれば良かったのに、と思ったりもしました。

――行政立法にしようとしたから審議会でもむ、という話になり、抵抗勢力による巻き返しが可能になったということですね。

これからもこのテーマを追っていく
――被害者の救済についても一言おありだそうですね。

犯罪被害者やその家族は、事件そのもの以外でも様々な被害を受けます。マスコミの取材攻勢や心ない人からの中傷、そして一家の働き手が亡くなったり働けなくなったりすることによる経済的なダメージです。その被害者を、警察や検察はある意味、自分たちの立場を守るために利用している面もあると思います。警察や検察は「被害者のため」と称して、自分たちの捜査を正当化しようとします。被害者参加制度もでき、裁判で意見を述べられるようになりましたが、経済的な支援を含め、刑事司法の枠組みとはまた別の枠組みで、被害者やその関係者に寄り添う制度が必要だと思います。

――たとえばどんな仕組みが考えられるのでしょうか。

被疑者国選弁護人制度は当初、弁護士会の当番弁護士制度から始まりました。かつては起訴されて正式に「被告人」になってからでなければ国選弁護人を付けられなかったので、「被疑者」の段階から弁護人を付けられる様、九州の弁護士会が弁護士会の負担で被疑者の弁護を始めたものが、全弁護士会に広がり、ついには法制化されました。「被害者」に寄り添う被害者国選という制度があって良いと思うし、その布石としての制度作りを弁護士会に期待しています。

――弁護士会でも被害者に寄り添う制度は始めている様ですが、認知度はまだまだの様です。警察が被害者に弁護士会にそういう制度があるということを、ルーティンで告知するようになる必要がありますね。監督はこのテーマでの映画制作を今後も考えておられますか。

審議会の結論は不本意なものでしたが、少しずつでも変えていかなければなりません。そのためにも、現時点で具体的な計画があるわけではありませんが、これからもこのテーマは追っていきます。



いちいちもっともな解説ですね。
こういう内容が司法を担う法曹ではない方から突きつけられていること
突きつけられた内容に正面から取り組めていないことが問題ですね。

視察

2015-06-05 | 取調可視化
毎日新聞の記事からです。


<取り調べ可視化>衆院法務委、東京地検を視察


模擬取調室を視察する衆院法務委員ら。右奥が録音録画機材で、上部の四角い部分にカメラなどが設置されている。

 取り調べの録音録画(可視化)義務付けなどを柱とした刑事司法改革の関連法案を審議している衆院法務委員会の所属議員約20人が3日、東京・霞が関の東京地検を視察した。カメラやマイクが配備された模擬取調室で担当者の説明を受け、取り調べがどのように記録されるか確認した。

 警察・検察とも既に可視化を試行しているが、法案は裁判員裁判の対象事件と検察独自捜査事件で逮捕・勾留された容疑者の取り調べの全過程で可視化を義務付けている。

 議員らはこの日、警視庁原宿署も視察。終了後、弁護士でもある柴山昌彦議員(自民)は「警察署ではその都度録音録画のために機材をセットするなど、(検察に比べて)対応が少し遅れていると感じた」と語った。


えー、選挙違反事件とか対象から外されているのですが・・・・