弁護士法人かごしま 上山法律事務所 TOPICS

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レクサス 暴走裁判 というタイトルは トヨタに 可哀想すぎるけど・・・

2021-02-26 | 雑感
★ 刑事弁護の中ではよく遭遇する状況と感情です。

「結局、裁判所は、自らの手による再現見分を見送った。自分の目の前で石川の運転体勢を確認すれば、アクセルペダルに足が届くかどうか、仮に石川が足を縮めたりしても一目瞭然のはずなのに、それをせず、回りくどい検察、弁護側双方の再現記録をもとに判断するのか、不可解だった。」

立証責任の話になれば、裁判所が非難されることはありません。
被告人に対し、「自分の責任並びに遺族ら及び被害者らと向き合う機会を与える」と述べた裁判所は、事実(可能な限り近づける真実)に自分で向き合うことはしません。

文春オンラインの記事の引用です。

※引用
《レクサス暴走裁判》「罪と向き合え」「不当な判決だ」元事件捜査のプロと巨大組織はなぜ法廷で争ったのか

 2018年に起きたトヨタの高級車レクサスの暴走による死亡事故で、自動車運転死傷処罰法違反(過失運転致死)などで起訴された元東京地検特捜部長の石川達紘弁護士に対し、東京地裁は2月15日、禁錮3年、執行猶予5年(求刑禁錮3年)の判決を言い渡した。弁護側は「暴走は車の不具合が原因」と無罪を主張したが、裁判所は、「誤ってアクセルペダルを踏み込んだ」とする検察側に軍配を上げた。元特捜検察のエースがプライドを賭けた約1年にわたる裁判を振り返る。

「罪と向き合え」と厳しい説諭
 「禁固3年、執行猶予5年に処す」
 今年2月15日午後1時半、東京地裁818号法廷に裁判長の三上潤の声が響いた。マスクをつけた石川達紘は有罪もあり得ると想定していたのか、主文の言い渡しを受けても表情は変わらなかった。

 三上は「判決理由の朗読に約1時間かかるので」と石川を着席させたうえ、検察側が「踏み間違い」の根拠とするアクセルペダル裏の圧痕や事故記録装置(イベント・データ・レコーダー、EDR)の解析記録などについて「合理的で説得力がある」などとして、これを否定する弁護側の主張を一蹴した。
「アクセルペダルを踏んだ記憶がない」との石川の供述についても「信用できない」と断定。車の発進時やその後のハンドル操作などで「(石川が)ろうばいして」との表現を4回も使った。
 そのうえで、「本件の過失は、全体としてみれば重大で、現時点では自分の責任に向き合っているとはいえないが、前科はなく、遺族が厳罰を望まない旨記載された示談書も作成されている。責任を明確にした上で、社会内で自分の責任並びに遺族ら及び被害者らと向き合う機会を与える」と述べて言い渡しを終えた。
 石川は身じろぎもせず、三上に視線を向けていたが、閉廷後、足早に法廷を退出した。石川側は即日、東京高裁に控訴。主任弁護人の小林正樹弁護士が「電子制御技術が発達した現代の自動車に対する知見に乏しい証人らの証言を基にした検察官の主張をそのまま鵜呑みにしたものであり、かつ、被告人の運転体勢に関する弁護人らの検証請求を却下するなど、およそ真実解明の姿勢に欠けた裁判体による極めて不当な判決であって、到底受け入れることはできない」とのコメントを発表した。

 筆者は、2020年2月17日の初公判からこの日の判決まで、コロナ禍による中断をはさんで全8回の公判の一部始終を傍聴した。
 石川は知る人ぞ知る元特捜検察のエースである。1965年検事任官。76年のロッキード事件の捜査で特捜検事として頭角を現し、東京地検特捜部副部長時代の86年には、ロッキード事件以来10年ぶりの政治家訴追となる撚糸工連事件を摘発。特捜部長時代の90年には、バブル崩壊後の大型経済事件の走りとなる仕手グループ「光進」による相場操縦事件を摘発。仕手戦に便乗して株取引で儲けた稲村利幸衆院議員(当時)の脱税事件、住友銀行(当時)行員らの浮き貸し事件などを掘り起こした。

 特捜部が摘発した金丸信元自民党副総裁の5億円闇献金事件の罰金処理が「甘すぎる」と特捜部に批判が集中した93年、最高検検事だった石川は、旧知の国税幹部が持ち込んだ金丸の蓄財資料をもとに脱税で捜査するよう最高検首脳を説得。特捜部の金丸逮捕を演出した。

 不良債権処理をめぐる大蔵省(現財務省)の金融失政に批判が集まっていた98年、東京地検検事正として金融機関の接待漬けになっていた大蔵官僚を収賄容疑で摘発する捜査を指揮したが、捜査方針をめぐり法務省幹部らと対立。99年、事実上、中央から追放される形で福岡高検検事長に転出。2001年に名古屋高検検事長で退官。弁護士を開業し、経済事件の被告人の弁護、複数の上場企業の監査役、社外役員として存在感を示してきた。
 その石川が、晩年に交通死亡事故を起こして刑事被告人となり、無罪を主張して法廷で古巣の検察と戦うこととなった。検察権力に関心を持つ筆者としては外せない取材だった。

「警察+トヨタ」との対決
 事故で家族を失ったご遺族への不謹慎を承知でいうと、裁判の争点も興味深かった。検察側が、事故車に搭載されたEDRの記録などをもとに「石川が運転操作を誤った」とするのに対し、石川側は「車に不具合があり勝手に暴走した。(石川の)過失はなかった」と主張していた。石川が無罪になれば、トヨタの技術の粋を凝らしたレクサスに何らかの不具合があったことになり、トヨタのブランドは大きく傷つく。
 EDRは、エアバッグの展開状況を事後的に検証する目的で自動車メーカーやエアバッグサプライヤーが製造し、車に設置している。データの記録方法や記録項目、その正確性などについて国土交通省などの中立機関が認証したものではない。
 警視庁は、トヨタから解析機材を借りて事故車のEDRからデータを抽出し、それをもとに交通事故捜査経験が長くデータ処理の訓練を受けた警察官が「鑑定書」を作成。検察はアクセルペダル裏についた圧痕とこの「鑑定書」を「踏み間違い」と判断する根拠としていた。
 石川がもし無罪になれば、警視庁とトヨタの関係にも焦点が当たる可能性があった。
 裁判は、かつて「特捜検察のエース」である事件捜査のプロと、日本ナンバーワンの巨大企業、警察との闘いでもあったのだ。

 のちに触れるが、筆者は、石川本人や弁護団が、事故を鑑定した警視庁の警察官やその補助をしたトヨタ社員らを法廷で厳しく問い詰める「現場」を目撃することになった。

 事故を簡単に振り返っておこう。
 判決や石川側の説明によると、検察時代の部下だった弁護士ら4人と千葉県でゴルフをする予定だった石川は、2018年2月18日朝、メンバーの女性を拾うため、東京都渋谷区内の道路わきに運転していたトヨタの高級車レクサスLS500hを停車した。車は自動的にパーキングブレーキがかかった。

 まもなく女性が現れたため、石川は車の後部トランクへの荷物の搬入を手助けしようと、トランクを開け、シートベルトを外してドアを開けて右足から外に出ようとしたところ、車が動き出し、どんどん加速。最終的に100キロを超す猛スピードで突っ走った。

 石川によると、右足をドアに挟まれた状態で、ハンドルにしがみつき、暴走を止めるため、左手をハンドルから離し、パーキングレバーを操作しようとしたが、うまくいかず、反対車線の右側歩道を超えたところで意識がなくなったという。
 車は、反対側の歩道にいた堀内貴之さんをはねて死亡させ、店舗に突っ込んだ。車の暴走距離は約320メートルに及んだ。車は大破し、石川は右足甲を骨折し救急車で港区内の病院に搬送された。警視庁が事故車を検証した結果、ブレーキコイルが焼け、部品がすり減っていた。
「足は宙に浮いていた」記憶にこだわった石川
 石川は事故当時78歳。警視庁は、事故車に搭載されていたEDRの解析結果や、アクセルペダルの裏についた圧痕などから、石川が、車から降りようとした際、誤ってアクセルペダルを踏み込んで自車を急発進させ、その後も、ブレーキと勘違いしてアクセルペダルを踏み続けた、と見立てた。

 石川が警視庁の見立てを受け入れれば、よくある、高齢者の踏み間違い事故として粛々と処理され、世間の注目も集まらずに終わっていただろう。しかし、石川には、車が発進した際、アクセルペダルを踏んだ記憶がなかった。踏み続けた記憶もなかった。自由な左足は宙に浮いたままだった感覚が残っていた。アクセルペダルを踏んでいないとすれば、車が何らかの不具合で勝手に動き出したことになり、自分に暴走の責任はないのではないか、と考えた。
 石川は警視庁の捜査員に「アクセルペダルを踏み込んだ記憶がない」と訴えたが、警視庁側は、「衝突4・6秒前から衝突時まで、常にアクセル開度が100%(アクセルペダルを最大限踏み込んだ状態)を記録している」とするEDRの解析記録やアクセルペダル裏の圧痕の存在を石川に示し、石川から「自由になる左足でアクセルペダルを踏んだ記憶はまったくないが、踏んだかもしれない」との供述調書をとり、事件を18年12月21日、東京地検に送致した。

 納得がいかない石川は、東京地検に対し、事故時の運転体勢を再現する実況見分を要請。同地検は翌19年1月24日、警視庁を指揮して東京都交通局都営バス品川自動車営業所港南支所でシート位置などを事故車と同じにした同型車を使って再現見分を行った。
 石川によると、両手でハンドルを握ることは可能だったが、左足はどうやってもアクセルペダルにもブレーキペダルにも届かなかったという。
「事故車の座席位置に座った瞬間、事故前に座席を後ろに下げ少し背もたれも倒していたことを思い出した。前傾して運転する癖があり、停車して時間があると、いつも、リラックスするためにそうしていた」

 石川によると、警視庁側は、足の届かない場面を含めて写真を撮影。「事実が固まった」として引き上げようとしたところ、捜査員が追いかけてきて再度、石川に乗車を求め、普通の座席位置で写真を撮ったという。

 その後、警視庁は19年2月8日、事故現場で防犯カメラなどの映像をもとにシート位置を事故時と同じにセットした車に石川と身長、体重が同じ警官を乗せて、事故時の石川の運転体勢の再現見分を行い、左足でアクセルペダルを踏むことができた、とする見分結果をまとめた。しかし、この再現見分を含め、捜査段階で右足をドアに挟んだ状態での再現見分は行われなかった。
 石川は1月24日の実況見分で撮影した「足が届いていない」ものを含む写真を判断資料にするよう検察に求めたが、警視庁は提出に応じなかったという。石川は「左足がアクセルペダルに届かない以上、車に何らかの機械的、電子的な不具合があって暴走した」と主張したが、東京地検は、「事故車には電子的・機械的な異常は認められなかった」とし、石川が左足でアクセルペダルを踏んだことが暴走の原因だとして3月22日、起訴した。
略式処分を視野に入れた検察幹部
 交通事故で歩道の人を死なせると、公判請求するのが当時の検察の起訴基準だった。禁固以上の刑が言い渡されると、石川は弁護士資格を失う。

 実は、検察部内では石川の起訴前に、公判請求ではなく略式命令による罰金処分の可能性についても検討していた。その場合、被害者側への慰謝を尽くし、「踏み間違い」による過失の容疑を認めたうえ、略式手続について異議がない旨を書面で明らかにする必要があった。
 起訴後の19年3月25日、石川の事件の決裁ラインの検察幹部は筆者にこう語った。
「(検察に貢献した)OBを法廷に立たせたくなかった。石川さんがまだ弁護士をやりたいのなら、前科はつくが、罰金でよかった。容疑を認めれば、求略(求略式命令)の道もあった。要は、記憶の問題。パニックになっているのだから、本当は何が起きたかわからないはず。踏んだか踏まないか、曖昧なままにしておけばよかった。ところが、踏んだことは一切ない、と言ってしまっている。それでは罰金処理は無理だった」
 この幹部の意図するところが、石川側に伝わったかどうかは定かでないが、石川は、自らの記憶に基づく事実を無視できなかった。検事、弁護士として法曹人生55年。事実認定のプロとして生きてきたプライドがあった。さらに、罰金処理を受け入れると古巣との裏取引のように見られることも危惧し、公判で白黒をつける道を選んだとみられる。(#2に続く)

「命を返して欲しい」元特捜検察のエースとトヨタ…レクサス暴走致死事件“アクセルペダルの行方”と重い量刑

「足が届いたかどうか」をめぐる攻防
 さて、公判。2019年1月24日の再現検証で、事故時の運転体勢からして左足がアクセルペダルに届いていなかった、と確信する石川は、その事実が固まれば、EDRの解析など以前に暴走の責任がないことがはっきりすると考えていた。
 そのため、2020年2月18日の第2回公判で、石川側は、19年1月24日、2月8日の再現検証にも立ち会っていた検察側証人の警視庁交通捜査課交通鑑識係警部補の寛隆司を攻め立てた。

 寛は整備士資格のほかEDRデータの解析ツールメーカーのアナリスト資格、警視庁の交通事故解析研究員の資格を持ち、事故車のEDRデータを解析した鑑定書を作成していた。

 松井巖弁護士がまず、2月8日の再現見分について質問した。松井は元福岡高検検事長。検察でも有数の捜査、公判のプロだった。大柄で貫録がある。松井は、石川の代役の警官の右足をドアに挟んだ状態での見分でないことを寛に確認したうえで、左足がアクセルペダルに「届いた」とする写真について「とてもアクセルを底まで踏み込んでいるように見えない。あなたにはそう見えるのか」と突っ込んだ。寛は「写真ではなくて、私は肉眼で、目視で踏まれているのを確認していますので、先生がおっしゃっているのは写真の撮れ具合で。実際には、これはちゃんと踏めています」
「私の目には、左足がアクセルペダルに触るか触らないか分からないようにしか見えない」
「踏んでいると見えます」
「あなたの目じゃなくて、はっきりとわかる形の写真、ないしビデオを証拠化してここに付けるべきだったのでは」
 後輩の立ち会い検事が「異議。誤導だ」と指摘したが、松井は引かなかった。
「なぜ、完全に踏み込んだ写真を撮らなかったのか」
「その写真がそうなんですとしか申し上げられない」
「カミソリ達紘」と立ち会い検事の問答
 続いて、被告人の石川本人が質問に立つ。現役時代は「カミソリ達紘」の異名をとった。
 1月24日の見分について「あなたは、私の目の前で事故車の座席の位置を測定してきて、曲尺(かねじゃく)で私の目の前で示されましたね」
「私が計測しました」

「はい」
「座った後に足はどうなってましたか」

「足は届かないということで」
「あなたは、その場で目で見ているでしょう」
 立ち会い検事がここで遠慮がちに異議を唱える。
「言い合いの様相。必要であれば、弁護人からお尋ねいただくか」
 裁判長も「冷静に」と諭すが、石川の追及は続く。80歳とは思えない迫力だ。
「それで、あなた、背後にカメラマンがいて、右背後から私の足の写真を撮ったのは見ておられますね」
「はい、計測しながら」
「その写真が、全然出てこないのはどうしてですか」
「わかりません」
「だって、実況見分を、調書をあのとき作ったでしょう。そのとき撮った写真が、警察に要求しても全然出てこないんですけれども、どうしてですか」
 検事がたまりかねたように異議を申し立てる。
「証拠開示のやり取りを警察官に求めるのは意味がない」「意見を押し付ける尋問になっている」
 石川は尋問を撤回したが、追及を続ける。
「あなたの鑑定書には、1月24日に実際に私がその現場にいて、足の長さを見て、どういう状況かをあなたが見ていながら、その内容は鑑定書に盛られなくて、その後の2月8日に改めてあなたが仮想運転者を使ってやったのは、それを鑑定書に書いているのはどうしてですか。私が実際にいたのに、どうして私のことを書かなかったんですか。あの実況見分を」
「それは、記憶に基づく再現で出来上がった資料なので、これを鑑定書の疎明資料として使うことはちょっとできないという判断です」

足が届くかどうか、自分の目で確認しなかった裁判官
 石川側は、公判前整理手続きの段階から、事故時の運転体勢について裁判所による再現見分を求めてきたが、裁判所は検察の反対を受けて判断を留保し、双方の立証が終わった段階で見分を行うかどうか判断するとした。
 そのため、石川側は改めて、シート位置などを事故車と同じにした同型車を使っての実況見分を自前で行い、その写真とビデオを裁判所に提出した。裁判所は、このビデオと警視庁が事故現場で行った見分ビデオを法廷のモニターで検証した。
 弁護側のビデオについては、筆者が傍聴席から見た限りでは、画面が暗く、撮影角度のせいもあるのか石川の左足とアクセルペダルの距離感はよくわからなかった。先に証拠調べをした2月8日の仮想運転者による再現見分のビデオも同様だった。
 結局、裁判所は、自らの手による再現見分を見送った。自分の目の前で石川の運転体勢を確認すれば、アクセルペダルに足が届くかどうか、仮に石川が足を縮めたりしても一目瞭然のはずなのに、それをせず、回りくどい検察、弁護側双方の再現記録をもとに判断するのか、不可解だった。

 結局、公判の最大の争点は、(1)アクセルペダル裏に残った圧痕が、石川の踏み込みによって生じたものか、(2)警察が、石川がアクセルペダルを踏み込み続けた根拠としたEDRデータは信用できるか、の2つとなった。いずれも、専門技術知識にかかわる問題だ。
 検察側は、警視庁の寛と、トヨタ自動車お客様関連部主査の吉田一美、タイヤ構造力学、交通事故解析の専門家である技術コンサルタントの山崎俊一の3人を証人に立てた。
 吉田は、トヨタで車両の完了検査業務やアフターサービス、事故対応などを担当。制御用コンピュータープログラムの開発などに携わった経験はなかった。トヨタはこの事故で、警視庁にEDRデータの解析ツールなどの機材を貸しており、吉田は警視庁が行う再現検証や車の機能検査などに「作業補助」として立ち会っていた。

 一方、弁護側は、元独立行政法人「交通安全環境研究所」(現独立行政法人自動車技術総合機構)リコール技術検証部リコール技術検証官(みなし公務員)で技術コンサルタントの出川洋を証人に立てた。
 1972年横浜国大工学部機械工学科卒。日産自動車でエンジン開発、制動プログラム開発に携わり、日産退職後の2011年にリコール技術検証官。16年に退官するまで約50件の調査に携わった自動車技術の専門家だ。

EDRデータの信用性をめぐる攻防
 寛は「本件車両は、センサー及びコンピュータ内部の制御CPUなどに異常が出た場合、燃料や電気の供給が遮断・抑制されるよう設計されており、車両の構造上、制御CPUなどの異常によりエンジンやモーターの回転数が異常に上昇する(暴走する)ことはない」とし、自らが作成した「鑑定書」をもとに、石川が右足から降車しようとして誤って左足でアクセルペダルを踏み込んだため、車が急発進した、と主張。
 アクセルペダル裏にあった圧痕も、石川がアクセルペダルを全開に踏み込んだ状態で衝突したことを裏付ける、とした。吉田もこの証言に沿う証言をした。
 これに対し、出川は、石川側の依頼で、車載のドライブレコーダーや法廷に提出されたEDRの解析データを詳細に検討した結果として、「事故車はブレーキ制御コンピュータなど電動パーキングブレーキの不具合で、ブレーキが解除され、または制動力が弱まり、クリープ現象で発進。その後、急加速し途中でパーキングブレーキがかかったが、そのまま暴走した、との結論に至った」などと証言。
 さらに、「EDRデータでは、衝突直前の約5秒間、事故車のアクセル開度が100%になっているが、同データには、同時にブレーキペダルを踏んだとみられる記録もある。左足でブレーキペダルを踏みながら、同時にアクセルペダルも開度100%で踏み込むという、説明のつかない相互に矛盾するデータが認められる」として、EDRデータの信用性に疑問を投げかけた。

 弁護側は、出川証言で検察側のEDRデータをもとにした起訴事実がぐらついたとの心証を固め、「検察側の立証不十分で無罪の可能性もある」と希望を膨らませたが、判決はその思いを木っ端みじんに砕いた。
 判決は、弁護側が、「専門性に欠ける」と指摘した検察側証人について「適格性や資質に問題は認められない」と一蹴。圧痕をめぐる論争について「アクセルペダルを最大に踏み込んだ状態でさらに前方から衝突などの強い力がかかることで生じるものである」との寛証言はEDRデータにも整合し合理的で信用できるとした。
 EDRデータの信用性についても「私企業の設計・製造に係るものとはいえ(略)記録されたデータの正確性の高さから交通事故解析の資料としても使われ(略)自己診断機能も付いている。専用のツールを用いて正しい手順によれば誰が読みだしても同じデータが得られる上、システム上データの改変はできない仕様になっている」と認定。EDRデータに相互に矛盾する記録がある、との弁護側の主張について、それを否定する寛や吉田の証言に整合性、合理性がある、として退けた。

 そのうえで「本件車両の構造上、その一部に不具合が生じたとしても不具合の連鎖が生じて暴走状態に陥る可能性を低減させ、また生じた不具合が記録され易くする工夫が施されている」と認定。「事故時の発進・走行の原因となるような不具合が本件車両に存在したという現実的な可能性は考え難い」と結論づけた。
 石川側の「足が届かなかった」との主張については、「運転シート上における臀部の位置等によっては、被告人の左足がアクセルペダルを踏み込むことは可能であった(略)具体的な被告人の姿勢等については証拠上不明であるが、本件における罪となるべき事実の認定に支障を来すものではない」とし、さらに「被告人自身の再現には恣意性を完全には排除できない」とした。つまり、石川が「ずる」をして足を実際より縮めていた疑いが残る、との判断だ。これは石川のプライドを大いに傷つけたとみられる。

 事故の被害者側についても触れておかなければならない。石川が無罪を主張して起訴事実を争ったことが、事故の被害者遺族らにとっては責任逃れに映ったようだ。
 20年10月2日、検察側の論告に先立って行われた被害者側の意見陳述で、事故で亡くなった堀内の妻は「(法廷では)謝罪の言葉を聞きたかったが、被告は、自分は被害者だ、などと言い、胸をえぐられるようだった。命を返してほしい。今後は人を傷つけたり悲しませたりしない生き方をしてほしい」と声を震わせた。人一人死んでいるのに責任を認めないのか、という素朴な感情の発露だった。陳述後、石川は、堀内の妻に深々と頭を下げた。
 続いて意見陳述した店舗兼住宅を破壊された被害者は「過失がないとか、自分も被害者だとか、自分のことしか頭にない。執行猶予ではだめ」とさらに厳しかった。

 判決によると、石川が加入していた任意保険により堀内の遺族には1億1000万円を支払う示談が成立。建物被害者側とは示談交渉継続中だが、5000万円を超す損害賠償金が支払われたという。
 石川にくだされた禁固3年、執行猶予5年の判決は、同様の交通死亡事件と比較すると重い。被害者側が厳しい意見陳述をしたからといって裁判所の有罪無罪の判断に影響することはないとみられるが、量刑には一定の影響があったかもしれない。
第2ラウンドは
 かくして、かつて「特捜検察のエース」と呼ばれた男と古巣検察との闘いの第一幕は、元エースの完敗となった。だが、当の石川はさほどショックは受けておらず、さばさばとしているようだ。
「それほど、落ち込んでいない。かといって、かんかんに怒っているわけでもない。しょうがないね。(裁判所は)ちゃんと判断しないで、という感じ。控訴については弁護団と基本的に同じ考えだった」(小林弁護士)
 今年夏以降に審理が始まるとみられる控訴審では、一審判決について論理則、経験則と証拠の矛盾を主張するだけでは展望がない。頼りにしていた技術専門家証言を一蹴されているだけに、一審では審理されなかった新たな証拠がないと厳しい戦いとなる。

 弁護側は「控訴審において、本判決の不当性を明らかにし、被告人に対する無罪判決を勝ち取ることとする」と自信満々だ。何か、状況を変える「隠し玉」があるのだろうか。

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1 コメント

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Unknown (とらとら)
2021-12-15 12:54:36
私はプリウスでブレーキを踏んで止まろうとしているのに、アクセルが吹き上がり駐車していた車に衝突して止まりました。
ディーラーに調査を依頼したら、アクセルてブレーキが同時に踏まれ、アクセル開度100%との回答だったのでトヨタに確認したところ、間違いないとの返答あり。追求するも以後はシカトされている。
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