弊社のコンプライアンスに関する取組み及び弊社所属ザブングルに対する対応について
コンプライアンスの観点から配慮すべき観点がよく分かります。
ナベプロの書面の構成
1 お詫び
・謝罪
・再度の謝罪
・被害者配慮
・事務所の責任
2 コンプライアンス体制の強化
・これまでの取組み
・ザブングルに対するフォロー
・他の社員を含めたコンプライアンス体制強化の具体策
3 ザブングルに対する弊社の対応
〇ダメージコントロール
・税務処理 修正申告
・被害者団体への返金
〇ザブングルの現在と今後
・ザブングルの意思
・会社とザブングルの具体的な取り組み
・会社の宣言
・謹慎期間の明記
★★ ポイント
「現在、世間の人々が吉本興業に求めているのは、「企業の姿勢を見せる」ことではなく、ナベプロが見せたような「騒動の具体的な内容を明らかにし、謝罪先を明確にする」こと。「企業の姿勢を見せる」前にすべきことをしていないから、イメージは回復せず下がり続けているのです。つまり、現在の明暗を分けたのは、ナベプロが世間や被害者に向けた対応をしているのに対して、吉本興業は自社や取引先に向けた対応をしているから。」
東洋経済オンラインの記事からです。
※引用
ナベプロと吉本「闇営業対策」で明暗分けた大差
7月1日、ワタナベエンターテインメント(以下、「ナベプロ」に略)は、反社会的勢力への闇営業問題で謹慎中のお笑いコンビ・ザブングル(松尾陽介さんと加藤歩さん)への処遇を改めて発表しました。
その書面は実に適切なものであり、まさにクライシス・コミュニケーション(危機管理広報)のお手本。書くべき内容がしっかり書かれていたことで、吉本興業との明暗がはっきり分かれているのです。
ナベプロの書面はどんな内容で、吉本興業との差はどこにあるのでしょうか。
■世間の人々を納得させるコンプラ対策
書面は、「1.お詫び」「2.コンプライアンス体制の強化」「3.ザブングルに対する弊社の対応について」の3項目に分ける形式を採用していました。
まず「1.お詫び」では、「特殊詐欺グループとされる反社会的勢力が主催する会合に所属タレントのザブングルの両名が参加した件につきまして、関係各位、ファンの皆様に多大なるご迷惑をお掛けしましたことを、改めまして深くお詫び申し上げます」と、あらためて騒動を謝罪。
続けて、「当該詐欺行為の被害に遭われた被害者の皆様に対して大変申し訳なく、所属芸能プロダクションとして、両名がとった軽率な行為に対し、その責任を大変重く受け止めている次第です」という被害者配慮と事務所の責任に言及しました。“再度の謝罪”“被害者配慮”“事務所の責任”という重要なポイントを冗長にならず簡潔にまとめた序盤の文章は、そつのないものだったのです。
次にふれたのは、「2.コンプライアンス体制の強化」。
真っ先に書かれていたのは、「警察関係者や顧問弁護士等からの協力を得てコンプライアンスに関する説明資料を作成しており」「日頃より所属タレント及び社員に対して、コンプライアンスを徹底して参りました」「会社を通さずに、個人的にパーティーの司会などの仕事を請け負うと、知らないうちに反社会的勢力に接触してしまう可能性があること等も明記し注意喚起しておりました」など、これまでの取り組み。
そのうえで騒動を起こしてしまったザブングルに対しては、「弊社の指導と共に既に警察庁出身でコンプライアンスを専門とする弁護士によるサポート、アドバイスを受け、両名のコンプライアンスの意識をより高め、徹底させるように致しました」と会社としての素早いフォローを明かしました。
さらにこれだけでは終わらせず、他の所属タレントや社員に対しても、「今一度コンプライアンスの意識を徹底させるべく、現在、上記のコンプライアンスを専門とする弁護士をはじめ、警察関係者も含めた弊社の社内セミナーを実施するよう調整中で、そのセミナーの内容等に関し、近日中に警察関係者と打ち合わせを行います」と宣言。専門家を取り込むことで質を高め、存在を明記することで信用性を高めようという意図がうかがえました。
コンプライアンス対策で大切なのは、問題が起きないようにすることだけではありません。世間の人々に「ここまでやれば問題は起きにくいだろう」「もし何か起きたとしたら、よほど個人に問題があるのでは?」と思わせるほどの具体的な強化体制を示しておくことも重要なのです。
■人々が知りたかったギャラと税申告に言及
ただ、今回の書面が優れていたのは、そのあとに書かれた「3.ザブングルに対する弊社の対応について」でした。
まず臆測を呼んでいた闇営業のギャラについて、「入江氏より各自それぞれ7万5000円の金銭を受領した旨申告し」と明言。そのうえで、「かかる金銭につき両名が適切に税務申告を行っていないことが分かったため、既に税理士を通じて修正申告を致しました」と脱税に関する疑念をシャットアウトしました。
さらに、「両名が受領した金銭については、然るべき団体にお支払いするようその支払先について警察関係者等を交えて協議をしているところです」とコメント。税金を納める一方で、「もらったお金も自分のものとみなさず、被害者団体などの最もふさわしいところに返したい」という姿勢を明確に示したのです。
「これぞダメージコントロール」と言える対応であり、同社や2人にとって金銭的なダメージが小さいにもかかわらず、人々の印象は劇的にアップ。騒動によるダメージどころか、「ナベプロはお金の感覚がしっかりしている」「彼らのやることに間違いはないのだろう」というプラスのイメージを抱かせることにつながっています。
次に2人の現在と今後についても、ナベプロはスキのない対応を見せました。
書面では「本人たちとの話し合いの中で、謹慎期間中は、ボランティア先を見つけて活動する等の社会貢献を行い、自分自身を真摯に見つめなおすと共に、今回の件について真剣に反省し、人として成長できるようにしたいとの申し出がありました」と本人たちの意思を説明。
これまでに彼らが発表したコメントは「よく見る謝罪の定型文」というイメージにすぎませんでしたが、今回は適切な対応をした所属事務所が彼らの意思を代弁したことで、人々に「本当に反省してそう思っているのだろうな」という感覚を持たせました。
また、「弊社としても本人たちと話し合いながら、ボランティア先を探している」「ボランティア活動以外の時間においては、両名が社会人としての常識を高めることができるよう、弊社の事務サポート業務等を行わせる予定」という補足文も抜かりなし。書面の発表後に発生するであろう、「ボランティア先はどこなのか」「ボランティア以外の時間は何もしないのではないか」などの疑問や臆測を未然に防いだのです。
■「8月末日まで」謹慎期間を最後に書いた理由
ナベプロは書面の最後で、「今回の事件の重大さを痛感しておりますが、過ちを犯した所属タレントに対しては、過ちを厳しく追及し、真摯に反省させ、今後同様の行為が行われないよう再発防止策を講じることが多くのタレントを抱える芸能プロダクションとしての弊社の役割、使命であると考えております」と力強く宣言しました。
さらに注目すべきは、直後のコメント。「本人たちが今回の事態を重く受け止め、反省し、両名より社会貢献を行う等の申し出がなされたこと等を勘案し、弊社としてはザブングルの謹慎期間を2019年8月末日までとすることと致しました」と具体的な謹慎期間を明記したのです。あえて最後に配置したのは、人々が知りたいことをすべて書き、力強い宣言をしたあとに書くことで、「謹慎期間が短いのではないか」という印象を持たれにくくするためでしょう。
ナベプロがこの先、どんな姿勢と取り組みを見せるかはわかりませんが、少なくとも今回の対応は期待感を抱かせるものに違いありません。そんな同社の対応を見た世間の人々は、すぐに反応しました。その声はナベプロにとって光であり、吉本興業にとって闇のようだったのです。
「間違ったことをしても、誠意を尽くした対応をしたら許されるべき。最近、吉本の対応にガッカリしてばかりだったから、ナベプロがちゃんとした会社に見える」
「吉本の芸人たちと比べたらザブングルは被害者。9月からの復帰は妥当」
「税金の修正申告や被害者への返金を表明しただけでも、ナベプロは信用できる。それに比べて吉本は脱税や被害者対応を考えていない」
「嘘をついてないザブングルの2人には頑張ってほしいけど、嘘をついた吉本の芸人たちは今でも許せない」
なぜここまで印象の差がついてしまったのでしょうか? その理由は決して「関わった芸人が多いから」「先導役のカラテカ・入江慎也さんの所属事務所だから」ではありません。やはり対応の差があったからなのです。
■トップのコメントに意味がないケース
もう一度、吉本興業の主な対応を振り返ってみましょう。
6月6日(『FRIDAY』発売前日)、カラテカ・入江慎也さんの契約解除と、参加メンバーの厳重注意処分を発表。その後、雨上がり決死隊・宮迫博之さんやロンドンブーツ1号2号・田村亮さんらが謝罪したものの「ギャラはもらっていない」とコメントし、吉本興業もそれを受け入れたことで、人々の不信感が高まっていきました。
6月24日、所属芸人11人の謹慎処分を発表しましたが、受領金額、所得の申告、返金の姿勢、被害者への対応などに関する具体的な言及はなし。コンプライアンスへの取り組みに関しても、同様に具体的な言及はなく、本人たちの謝罪コメントを一覧にしてみせただけにとどまりました。
6月27日、スリムクラブが暴力団関係者の同席する会合に参加し、金銭を受領していたとして無期限謹慎処分を発表。そのうえで、コンプライアンスに対する今後の取り組みを「決意表明」しました。
その宣言には、「現在の吉本興業においては、あらゆる反社会的勢力との関係は一切有しておらず、今後も一切の関わりをもたないことを固く誓約・宣言いたします」「約6000人の所属タレント及び約1000人の社員のあらゆる行いについてはすべて当社の責任です」と書かれていたように、内容として責められるところはありませんでした。
しかし、今回の騒動に対する具体的な対応がまたも書かれていなかったことで、世間の人々は「騒動を過去のことにして、話を今後のことにすり替えられた」と感じ、むしろ吉本興業への不信感を募らせていったのです。
6月28日、吉本興業ホールディングスの大崎洋会長が共同通信のインタビューに答え、「(会社を)非上場とし、反社会勢力の人たちには出て行ってもらった。関わった役員や先輩も追い出し、この10年やってきたつもり」と話しつつ、「本当に申し訳なく思うし、個人的にはじくじたる思いもある」と謝罪しました。
トップがコメントすることは、「企業の姿勢を見せる」という意味で重要なものですが、その内容が「ほとんど意味をなさなかった」というケースは少なくありません。現在、世間の人々が吉本興業に求めているのは、「企業の姿勢を見せる」ことではなく、ナベプロが見せたような「騒動の具体的な内容を明らかにし、謝罪先を明確にする」こと。「企業の姿勢を見せる」前にすべきことをしていないから、イメージは回復せず下がり続けているのです。
■吉本興業が今からでもすべきこと
つまり、現在の明暗を分けたのは、ナベプロが世間や被害者に向けた対応をしているのに対して、吉本興業は自社や取引先に向けた対応をしているから。ナベプロがイメージ回復どころかプラスの効果を生んでいることを見れば、今回のような「ピンチはチャンス」であることは明らかです。
例えば、今日これからでも「遅すぎる」ことはありません。吉本興業はナベプロのコメントを踏襲してでも、受領金額、所得の申告、被害者への対応、今後の取り組みなどを明らかにすることで、信頼回復の第一歩につなげたほうがいいのではないでしょうか。
また、ここまで対応が後手に回ってしまった以上、誰もが「本人同席による会見が望ましい」と感じているだけに、書面でのコメントは避けたいところ。吉本興業には日本中の人々を楽しませられるタレントが多いだけに、マネジメントの責任は重大であり、今後の対応にも多くの注目を集めるでしょう。
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