「松田宣子さん予想師・笠松競馬立て直しガンバレ記念」として競馬関連のネタでも(笑)
地方競馬の厳しい現状とその対策(PFI手法を導入したESCO事業)についてレポートを書いた(3年後期)ことがあるので、ここに載せておきます。お題は「自分の居住地か出身地のNPOの活動またはPFI事業のいずれかについて1つのケースを挙げてまとめた上で、それについて自らの見解を述べよ」でした。
1.地方競馬の現状とPFI導入の誘因
昭和23年7月に制定された競馬法に基づいて開催される地方競馬は、地方自治体もしくは一部事務組合によって主催されている(平成16年4月現在、道県、市2、一部事務組合13の合計18) 。石川県にも、地方競馬場である金沢競馬場が存在する。地方競馬主催者の主流は、先に見たとおり、一部事務組合(競馬組合)であるが、金沢競馬場の主催者は、石川県と金沢市である(昭和31年から昭和45年までは災害復興資金獲得のための競馬組合も主催していた )。
その地方競馬は現在、厳しい経営状況にある。金沢競馬でも全国と同様の状況である。より高配当の勝馬投票法の導入や、開催日の変更を行って、売り上げを増加させようとしたが、それが経営を立て直すほどの効果をもたらしているわけではない。そのため、利益を確保しようとすると、経費削減を検討する必要がある。このような状況の中で生まれてきたのが、金沢競馬場省エネルギー対策事業(以下金沢競馬省エネ事業)である。
2.金沢競馬省エネ事業の概観
金沢競馬省エネ事業は、石川県内初のPFI(Private Finance Initiative)事業である。PFI事業とは、「公共サービス(公共施設等の建設、維持管理、運営等)に民間の資金、経営能力および技術的能力を導入し、国や地方公共団体が直接実施するよりも効率的かつ効果的に公共サービスを提供する」 事業である。この事業は、「民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律(PFI法)」に基づき実施される。
この事業の発注者は、石川県競馬事業局競馬総務課である。競馬事業局は、競馬総務課と競馬業務課によって構成される。競馬総務課の所掌範囲において、「金沢競馬場施設の管理等に関すること」 が挙げられている。そのため、発注者は、競馬総務課となっている。
事業分野としては、ESCO(Energy Service Company)事業に分類することができる。ESCO事業とは、「省エネルギーを民間の企業活動として行い、顧客にエネルギーサービスを包括的に提供する事業」 である。現在、多くの分野でESCO事業が進められている。その発展型として、PFIによるESCO事業も行われている。この金沢競馬省エネ事業は、全国的にもPFIによるESCO事業のリーディングケース(国内初)として位置づけられる。
事業の目的は、「金沢競馬場の各施設の性能を低下させることなく電力消費量を削減する」 ことである。つまり、その目的を達成するためには、どのような方式をとっても構わないということである。
事業方式は、BTO(Build Transfer Operate)である。これを金沢競馬省エネ事業に当てはめると、事業者が省エネルギー機器を設計・施工(Build)し、石川県に省エネルギー機器を引き渡す(所有権移転 Transfer)。その代わりに事業期間内(最長9年間)において、事業者が省エネルギー機器の維持管理業務を実施(Operate)する権利を得る方式である。
3.事業者選定の過程と分析
金沢競馬省エネ事業者選定の過程においては、基本的なPFI事業者選定の形を踏襲している。表1では、その時間的経過を示した。
表1.金沢競馬省エネ事業者選定の過程
H13.10.9 実施方針の公表
H13.10.9~16 実施方針に関する意見の受付(※1)
H13.10.19 特定事業の選定及び公表(※2)
H13.10.19 技術提案の募集公告
H13.11.1 説明会開催、資料提供及び現場ウォークスルー調査
H13.11.2 募集公告に関する質問の受付
H13.11.7 募集公告に関する質問に対する回答
H13.11.9 参加表明書の受付
H13.11.13 参加資格確認結果の通知
H13.11.25 技術提案書の提出
H13.12.25 最優秀提案者の決定(※3)
H14.1.15 契約締結(※4)
表1から言えることは、事業者選定過程の期間が非常に短いということである。それは、※1の実施方針に関する意見の受付の際にも、事業者側から指摘された点である。けれども、金沢競馬場の経営状況から判断すると、少しでも早く省エネ機器導入による恩恵を受ける必要があったと考えられる。
また、省エネ工事を平成13年度末で終了させるためには、当初3ヶ月間の工事期間を見込んでいた。そのため、実施方針の公表段階では、※3を12月上旬、※4を12月下旬と計画していた。しかし、それがずれ込み、省エネ工事は、2ヶ月間の工期で行わざるを得なかった。そのため、工期に関しては、時間的余裕がなかったのではないかと推察される。
※2に関しては、三菱総研の宮尾氏も指摘されたとおり、特定事業として実施した場合の財政負担額を正確に算出することは難しい。この財政負担額の算出をPFIアドバイザーが行う。その際に、VFM(Value For Money「最小のコストで行政サービスへの要求を満たす」という考え方 )を出すことが可能かどうかをヒアリングによって確認する。
しかし、特定事業選定段階では、事業者も多くの情報を与えられていないため、どのくらい削減可能か事業者が算出することは難しい。また、たとえ事業者が算出することができたとしても、正確な算定額を出す見込みは薄い。というのも、正確な算定額を出すことは、他の事業者に入札価格を知らせることとなる。それは当該事業者にとって、著しく不利となる。よって事業者は、必然的に高めの価格を算定額として回答する。
だが、ここでの算定額が結果的に、PFIを行うか否かの最終判断となるため、非常に大きな影響力を持つ。財政負担額の25%縮減が可能との結果を受けて、最終的な判断が下されたことになる。しかし、この算定方式の詳細な説明はない(前段の理由によるものであろう)。正確な算定方式を確立するためには、PFI事業の事例を多くすることが最も重要であると考えられる。つまり、PFI事業を多く行うことにより、同様の事例への当てはめを通じて、算定方式はかなり正確なものとなるはずである。
※3に関しては、インターネット上での情報公開が徹底していない。ホームページ上では、最優秀提案者とその提案の概要について示してある 。当然、入札に参加した企業は、なぜ提案が受け入れられなかったかの説明は県側から受けていると思われる。しかし、入札に参加していない企業が、今後どのような姿勢でPFI事業にかかわっていけばよいのかは、このホームページを見ても全く分からない。県内企業のPFI事業の受注を増やすためにどうしたらよいかを考える際には、多くの事例情報を提供することが肝要である。
4.まとめ
省エネルギー機器を導入した金沢競馬場の電力消費量は、平成14年度に年間削減額1055万円(削減率15.5%)を記録し、予定削減額の945万円(同15%)を達成した。平成15年度には、年間削減額1241万円(同18.3%)を記録し、順調に推移している 。そのため、この金沢競馬省エネ事業は、「金沢競馬場の各施設の性能を低下させることなく電力消費量を削減する」という事業目的を現段階では達成している。しかし、そのような経営努力もむなしく、今年度、金沢競馬は買得額が過去最低となり、赤字も2億円台と見込む。谷本知事も今年度赤字なら廃止を視野に入れる意向を示している。そのため、廃止が現実味を帯びてきた 。
石川県も新行財政改革大綱の投資的経費抑制欄でPFIの導入促進をうたっている 。これから、財政状況が厳しくなるにつれて、投資的経費の抑制を図らなければならない。しかしながら、学校や病院といった必要不可欠の社会資本に関しては、当然改築しなくてはならない時期がやってくる。すべての公共事業をPFIで行うことは難しいが、PFIの導入により従来型公共事業の見直しをせざるを得ないとの指摘が宮尾氏からあった。日本は、公共事業において高コスト体質が染み付いている。PFIがそれを変える一因となるのではないか。そして、現在は経済的要因からPFIの導入が進んでいるが、それが行政改革に結びつく形がいずれ到来すると考えられる。
3年の時に書いたものなので、少し粗い議論をしていますね(笑)
ただ、さまざまな取り組みをしても追いつかない地方競馬の現状が理解できると思います。これを書いていたので、松田さんの試みや頑張りに期待しているというわけです。あと、文中の「宮尾氏」とは元・三菱総研研究員で、昨年10月の加賀市長選に出馬された宮尾三郎氏です。
詳しく知りたい人は
「金沢競馬場省エネルギー対策事業」も読んでみてください。