Cosmos Factory

伊那谷の境界域から見えること、思ったことを遺します

わたしたちの選択①

2009-05-09 20:33:17 | ひとから学ぶ
 ”中間層”崩壊の危機と題したNHKの番組「あすの日本」は、現実的な問題を踏まえ国民の意見に注視しながら取り組んでいるものである。そんななか、土曜ドラマでかつて放映された「ハゲタカ」の再放送が、この連休中に3日間連続で行われた。視る予定でいたわけでもなかったが、第1回放送を見たらそのまま引きずり込まれるように6回分をすべて視ることになった。モノを作るのではなく、紙っぺらである紙幣を操って儲ける人たちが台頭するなか、アメリカ型経済が日本を席巻してきた。しかし、そのアメリカもサブプライム問題をきっかけに金融危機に陥り、それは世界を不況におとしめた。汗水を流すのではなく、頭脳だけで儲ける世界がいかに脆弱かということを教えているが、もはや汗水を流すことを望まなくなった人たちは多い。その理由は明快で、汗水流したところで報酬はけして増えるものではなく、恰好のよいものとは思われていないからだ。

 とはいえ、モノ作りの技術はアイディアだけで一人前になれるものとは違い、長年の経験が必要となる。もちろん器用な人と不器用な人で差が出るのは解るが、手先を使わなくなったこの時代において器用さを求めることじたいが難しい「教え」となっている。人件費が高いと騒がれる時代にあって、時間と手間のかかることが「悪」と捉えられても仕方のないことであるが、退化した人間の身体はモノ作りに対して対応できなくなっている。

 さて、番組紹介の中でこんなことが書かれている。「私たちは、さまざまなデータをもとに、「20年後の日本の姿」を未来予測することにしました。浮かび上がってきたのは、恐ろしい現実です。今のまま何も手が打たれないとすると、日本社会の中核を担う30代の相当数が、安定した収入を得る手段を断たれて、家庭を持てない、子どもを産めないという社会が到来します。中核世代が支えられない社会は、税収や消費が落ち込む一方で、生活保護などの福祉コストが嵩んでいきます。その結果、社会全体の活力は削がれ、日本は衰退の一途をたどるというわけです。」そして「将来に希望を持てる社会にするには」と番組はその方向性を模索する。同テーマで組まれたホームページに製作に関わっている記者たちの意見が掲載されている。前橋局の小島康英記者は鹿児島県出水市へ取材した際のことについて触れている。出水市では長年営業をしてきたパイオニアとNECが撤退するという。地方の小さな町にとってその影響が大きいことは言うまでもない。「出水市にNEC(その後パイオニアとNECになった)が来たのは、昭和44年のことでした。当時NECの誘致を担当した80代後半の市の元幹部は、「『金の卵』と言われた若者がみな、集団就職列車に乗って大阪や東京へ向かっていた。出水には農業や漁業以外に仕事がないから、若者が全然残らない。何としても企業を誘致して出水に仕事をもたらし、若者を戻して活気ある出水にしよう。企業の誘致は出水の悲願だった」と昔を振り返ります。工場誘致が決定した当時の新聞をみると、地元の悲願達成の喜びを大きく伝えています」と言う。そして出水=NECとばかりに行政も企業に頼ってきたわけである。「歴代の出水市長は、式典や行事で必ずと言っていいほど、「NECのある街、出水です。NECの発展は出水の発展となります。出水はNECとともに未来へ向かいます」という趣旨の挨拶」をしていたと言うあたりにも伺える。

 「若者が離れ始め、小中学生の子どもの数も減りつつあります。また、タクシーや飲食店の売上げも落ち込んできました。空き家も一気に増え、工場閉鎖の影響はボディーブローのようにじわじわと効いてきています。出水市は、いわば昭和44年以前に向かって後戻りしています」という小島記者は言う。企業に頼りきった地域作がもろいものだと言うことがよく解るわけで、大規模小売店やもっと身近ではコンビニのように状況次第ではすぐに撤退してしまい廃墟のような印象を与えてしまうのは地方の定めということになってしまう。だからこそそうではない地域作りをしなくてはならないのだ。「若者がいなくなる」という危機感だけでそれを引き止める方策は、その場しのぎに陥り易い。それは行政も顔が変わっていく以上、とりあえずの間際を見ざるをえないという実情もある。とりあえず助けてくれなければ、その体制を維持できない、あるいはさせないという環境にも要因がある。小島記者が「昭和44年以前に向かって後戻りしています」と言うが、そもそもこれは後戻りではなく、長い年月で教わったものなのではないだろうか。そして「良い時代」にこの地で恩恵を受けた人たちもいたわけで、ここから教訓の上にどう地域を考えていくかという出発なのではないだろうか。

 (続く)

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