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旧武石村の自然石道祖神 外編

2024-06-26 23:19:09 | 民俗学

 旧武石村の自然石道祖を追っているが、何度も触れている小林大二氏の『依田窪の道祖神』は大変参考になる。自然石道祖神の岩質のことにも触れているし、道祖神信仰と修験とのかかわりについても触れている。これらはまた次の機会に触れるとして、小林氏の著されたもの以外にこの地域の自然石道祖神やその周辺について理解の深まる資料はないのか、と探している。そうしたなか、最もそれらしいものとしていわゆる村誌を紐解いてみた。

 平成元年に刊行された『武石村誌 民俗』は、A5版308ページというもの。そこで道祖神がどう扱われているか、と探してみたのだが、詳しいことは触れられていない。とくに「自然石」の道祖神についてはまったく触れておらず、同書を見た限り、この村に自然石の道祖神が「ある」ということもわからない。そもそも信仰を扱った「民間信仰と祭り」の章には、道祖神はいっさい触れられていない。あえて拾うとすれば、疫病送りの項で余里のことが触れられていて、「子供が三歳になるとターランバセに赤い紙で御幣を切って立て四方から細縄でつり、道祖神の見える川端につり下げて無事に疱瘡がすぎることを願った」という記述くらいだ。神様の近くでこうした疫病送りの所作がされたようで、余里ではその対象が「道祖神」だったということになるのだろう。先日触れた余里の最も奥、3班のある集落の道祖神はどれも近くに祀られていて、それぞれの道祖神がどこの道祖神からも「見える」とまではいかなくとも祭祀空間のすぐ近くが望める。そしてまさに川端に祀られていて、そこには橋がある。武石村誌の記述がイメージできる空間がそこにはあった。

 それ以外の同書での道祖神の記述も触れておく。年中行事の章では春の行事として「道祖神祭り」が取り上げられている。「二月八日は、道祖神または道陸神といって、各戸に餅をつき、わらのつつっこ(俵)に入れ、わらで作った馬に二俵付け、板車にのせて子供が引き、道祖神にお参りをした。持って行った餅は、一俵は道祖神に供え、一俵は家に持ち帰り家中で食べた。これを食べると風邪をひかないと言われた。わら馬は各家の屋根に投げ上げておいた。」という。さらに「部落によっては、男の子供だけで、秋のうちに道祖神のそばに小屋掛けの柱の穴を掘っておいて、前日に杉の枝やむしろ・わらなどで小屋掛けをし、夜になって灯ろうなどともし、太鼓をたたいて各戸を回り、お払いをして歩き、おさい銭などを頂いた。その時「どうじどうじ こんがらどうじ せいたかどうじ やくびょうからめるどうじはないかい どうじどうじ」など唱えごとを言って回る所もあった。八日の朝食は、道祖神にあがったお餅などを頂き、昼には親方や当番の家で、五目飯などを作ってもらって食べて、一日楽しく遊び、帰りにはおさい銭で買ったノートや鉛筆などを、分けてもらって来た。」と記されている。これらから西内のような獅子舞が行われていたという様子はうかがえない。

 さらに「社会生活」の章において年齢集団について触れられていて、子供組による道祖神祭りの事例として沖と薮合の例が取り上げられている。沖は依田川沿いにあたり、旧長門町と旧丸子町腰越のあいだにある地域。いっみれば武石村の入口に当る。二月八日が祭日で、前述したように小屋掛けを行う。そして旧長門町に隣接しているということもあり、長門同様に獅子舞が子ども達によって行われる。「宵祭りは獅子とおかめを先頭に、太鼓をたたきながら船を引いて各戸を回り、獅子が家ごとに悪魔払いをした。このときお経係が「さいじょうのはらい きたなきことも たまわりなければ あらじいちどうのたまわく きよくきよしともうす きんじょうさいはい さいはい おそれみおそれみをもうす 六根清浄 六根清浄」と唱え、赤い着物に白足袋をはいたおかめは、桐の木を削った二尺ぐらいの棒を持っておかしな身振りをして、「道祖神のおんまらさまは なーがいともなーがいとも 二尺八寸どーけーし どーげーし」と言った。毎年当番宅が交替で宿をやり、親方・獅子・おかめは寒中休み中小屋に泊まりこんだ。沖の御岳行者K氏がよく面倒をみてくれた」とある。

 薮合も沖の西隣で、武石村では入口の方に当る。ここでは獅子舞はないが、舟を担いで初子の生まれた家や拝むことを依頼された家々を回るという。同書には船の写真が掲載されており(251頁)、確かに船の形をしている。「御岳行者の御座立て形を模倣したものである」とあり、やはり行者がかかわっていたのではないか、と想像させる。


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