夢のもつれ

なんとなく考えたことを生の全般ともつれさせながら、書いていこうと思います。

題詠:西風の警告

2007-12-30 | poetry
  西風の警告

 例えば夜になってからウィーンから北に向かう街道をずっとクルマを走らせる。それは東京から中山道を行くなんてこととは全く違っていて、何もない真っ暗な道をしばらく行くと細い石畳になって町に入り、市役所と教会のあるナトリウム光線に浮かぶ広場(人影は全くなくて、それは日本の田舎を訪れると2時間ほど遅い時間のように感じる人なら、あの感覚をもっと強めたものと言えばわかるかもしれない)をあっという間に通り過ぎ、また真っ直ぐの闇に沈む道になるという具合なのだ。そうした単調な繰り返しは幻想あるいは記憶を招き寄せるもので、だからといって助手席にそれまで付き合った女の子が次々と現れるというのはラジオ・ドラマだけのことだろう。ぼくはあの脚本誰々、演出誰々と最後に告げるナレーションがとても好きで、別の誰かに生まれ変わる時もああいう声でこのごちゃごちゃした人生を片付けてくれたらすっきりと目が覚めるように思う。
 また別の町に入って、そこはエゴン・シーレの生まれ故郷だった。剥き出しの瓦礫のような人物ばかり描いた彼と軒の低いマジパンでできたような小さな町はなんの関係もなさそうだったが、ドナウ川は絶望すら優雅な街へと流れている。
「知らんぷりするのね」
「室内楽の演奏家は楽譜だけ見て勝手に弾いてるようだけど、互いの音を聴いているよ」
 どうしてため息が返ってくるだけの警句を相も変わらずぼくは口にするのだろう。こんな西の果ての河畔まで来てくれたというのに。もう東京は夜明けだろう。曙光が墓標のような高層ビルを浮かび上がらせ、想像の中でも限りなく眩しい。
「そう。眠いの」
 秋風は毛布から覗く脚を見ていたのだろうか。彼女の声とにおいがここがどこでもなく、今がいつでもなく、ぼくが誰でもなくなったことを告げていた。


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なんかいろんなものがあるサイトです。



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2 コメント

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追想は新年向きでしょw (夢のもつれ)
2008-01-03 15:15:55
幻想っていえば全部幻想ですね。ならばウィーンがいちばんふさわしいかなってことで。

あのナレーションに同じような感覚を持ってる人がいてくれてうれしいです。
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ちょっと懐かしいですw (ぽけっと)
2008-01-02 22:02:07
物語の舞台とその雰囲気が。
幻想と現実の境目がはっきりしませんが、それは読み手に委ねられているのかな。

「脚本誰々…」あれ、私もなんとなく好きです。
突然視野が開けたような遥かな気持ちになりますね。
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