雪が降りません。
もう12月も後半だというのに、平野部には全く雪がありません。
何でも、今年は4年ぶりのエルニーニョ現象がおきているらしくて、昨年の豪雪とはうってかわって暖冬になる模様なのです。
でも、だからといってこの時期、日本海側の地域の天気がすっきり晴れるなどということはなく、空は例年のごとく灰色の雲が低くたれ込め、強風が雨を叩きつける日々が続いています。
つまり、気温が少し高いだけで、雪ではなく雨が降っているだけなんですね・・・。
それでも、除雪の手間暇とか、市内の渋滞とか、積雪による煩わしさが無いというだけで、雪国生活者は本当に大助かりです。
でもでもでも・・・、本当は心の奥底では雪が無くて心配しているのですが・・・。(暖冬の年は不作だと言うし・・・)
複雑な心境です。
写真は、庄内の冬の風物詩、田んぼで落ち穂拾いする白鳥たちです。
白鳥たちも、雪が無くて餌探しが楽チンのはずですが・・・、これこれ、喧嘩しないでね~。
蒼鉛の空へ
永訣の朝
~宮沢賢治~
けふのうちに
とほくへいってしまふ わたくしの いもうとよ
みぞれがふって おもては へんにあかるいのだ
(あめゆじゅ とてちて けんじゃ)
うすあかく いっさう陰惨(いんざん)な雲から
みぞれは びちょびちょ ふってくる
(あめゆじゅ とてちて けんじゃ)
青い蓴菜(じゅんさい)の もやうのついた
これらふたつの かけた陶椀(たうわん)に
おまへが たべる あめゆきを とらうとして
わたくしは まがった てっぽうだまのやうに
この くらい みぞれのなかに 飛びだした
(あめゆじゅ とてちて けんじゃ)
蒼鉛(さうえん)いろの 暗い雲から
みぞれは びちょびちょ 沈んでくる
ああ とし子
死ぬといふ いまごろになって
わたくしを いっしゃう あかるく するために
こんな さっぱりした雪のひとわんを
おまへは わたくしに たのんだのだ
ありがたう わたくしの けなげな いもうとよ
わたくしも まっすぐに すすんでいくから
(あめゆじゅ とてちて けんじゃ)
はげしい はげしい 熱や あえぎの あひだから
おまへは わたくしに たのんだのだ
銀河や 太陽、気圏(きけん)などと よばれたせかいの
そらからおちた 雪の さいごのひとわんを・・・・・・
・・・ふたきれの みかげせきざいに
みぞれは さびしく たまってゐる
わたくしは そのうへに あぶなくたち
雪と水との まっしろな 二相系(にさうけい)をたもち
すきとほる つめたい雫に みちた
この つややかな 松のえだから
わたくしの やさしい いもうとの
さいごの たべものを もらっていかう
わたしたちが いっしょに そだってきた あひだ
みなれた ちゃわんの この藍のもやうにも
もう けふ おまへは わかれてしまふ
(Ora Orade Shitori egumo)
ほんたうに けふ おまへは わかれてしまふ
ああ あの とざされた病室の
くらい びゃうぶや かやのなかに
やさしく あをじろく 燃えてゐる
わたくしの けなげな いもうとよ
この雪は どこを えらばうにも
あんまり どこも まっしろなのだ
あんな おそろしい みだれた そらから
このうつくしい 雪が きたのだ
(うまれで くるたて
こんどは こたに わりやの ごとばかりで
くるしまなあよに うまれてくる)
おまへが たべる この ふたわんの ゆきに
わたくしは いま こころから いのる
どうかこれが天上のアイスクリームになって
おまへと みんなとに 聖い資糧をもたらすやうに
わたくしの すべての さいはひをかけて ねがふ
心象スケッチ『春と修羅』より-「永訣の朝」-
無声慟哭
- 『永訣の朝』 宮沢賢治詩集 -