昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

水たまりの中の青空 ~第二部~(三百四)

2022-12-29 08:00:25 | 物語り

「いいかい、勝利。あの娘さんはだめだよ。
小夜子奥さまには申し訳ないけれども、あの千勢ってむすめは卑しい。
生まれがどうのと言っているじゃないよ。
それを言ったら、我が家だって大したことはないんだから」
 キッと竹田を睨み付ける母親で、その意思は固いものだった。
「そりゃね。料理もまあまあだろうし、気性もおとなしそうだ。
でもね、顔に品がない。なにかしら、卑しさが感じられるんだよ。
勝利には合わない。あたしだってね、ただ宗教に狂ってたわけじゃない。
それなりの勉強もしたんだ。人相見なんか、自分で言うのもなんだけどね、大したものだと思ってるよ」

「それにしちゃ、悪い奴だと分からなかったじゃないか。
金を巻き上げるだけの、悪い宗教だったんだ。
しまいには、得たいの知れない修験者なんてのも現れたし。
加藤専務の力がなかったら、今ごろはどうなっていたことか!」
ボソボソとした小声が、次第にその声に熱を帯びはじめて、最後には怒鳴りつけてしまった。
「勝利! 以前のことは言わない約束でしょ。
母さんもよ。千勢さんのことを、そこまでひどく言うことはないでしょうに。
小夜子さんの前よ、恥ずかしいったらありゃしないわ」

「いや、あのね。母さんの言いたいことはね、人間には陰と陽があるんだってことなの。男と女があるようにね。
小夜子さまは、典型的な陽ですよ。社長さまはね、豪放に見えても、実は陰なんだよ。
だからうまく行くんだよ。正三さまとおっしゃいましたね? 官吏さまは。
その方はどうも陰は陰でも、他の陽の影響を強く受けてなさる。
いえいえご両親ではありません。ご両親は陰陽に関係なく、多くの影響を与えなさる。
それは当たり前のこと。それに離れてらっしゃるんだから。
そうではなくて、近くに強い影響力を持ったお方がいらっしゃるはず。
その方の影響で、小夜子さまから遠ざかられたのです。
ご本人はね、とても小夜子さまに近づかれたたいのですよ。
ですけれども、もう一方の陽に吸い寄せられています」

「母さん、やめてくれ。小夜子奥さまのことは言うなよ。
もういい加減に宗教から離れてくれよ。忘れてしまったのかい、ひどい目にあったことを」
「勝利。そのことについては、散々にあたしをなじったじゃないか。
あたしも謝ったろうに。親に、何度も土下座をさせたじゃないか。
まだ足りないのかい。何だったら、小夜子奥さまの前でまた土下座しょうか?」
「お母さんは悪くない。竹田が悪い! お母さんに謝りなさい。
いいこと。お母さんのお話は、宗教の話じゃないの。
あたしが不幸にならないようにって、ためになるお話をして下さってるんでしょ!」と、竹田を叱り付けた。



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