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昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

[ライフ!] ボク、みつけたよ! (三十五)初恋が甘酸っぱいものだとすれば

2025-05-01 08:00:20 | 物語り

 初恋が甘酸っぱいものだとすれば、大人の恋はどうなんでしょう。
マンゴーのように甘くあま~く、そしてやっぱりおおいに甘いものでしょうか。
そんな恋を教えてくれたのは――みずから追い求めたものではなく与えられた恋のお相手は、やっぱりminakoさんでしょう。
わたしよりも年上の女性でした。といっても、高校の同級生です。
看護学校を卒業後に高校入学された方で、最終学年にしりあいました。
きっかけがなんだったのか、いまとなっては思い出せません。

 在学中から交際がはじまったのか、それとも卒業後の同窓会かなにかがきっかけだったのか……。
どうしても思い出せないのです。
思いだすのは、……体がカッと熱くなることばかりで、外でのデートではなくわたしのアパートでのこと、そしてトラックの車内でのことなのです。
ライトバンでのデートならばいざ知らず、トラックでのデートなんて、いま思いだすと申し訳ないおもいでいっぱいです。
それでもいやな顔ひとつ見せずに会ってくれたminakoさん、心内では舌打ちされていたかもしれませんね。

 あの日は、いや、あの夜は日曜日なのに仕事になってしまい、約束の昼間のデートがダメになって。
それでも逢いたい、どちらが言い出したのかそれともふたりの思いが強かったのか、取引先からの帰りに彼女を拾ったはずです。
真っ暗になった道路をはしりながら、途中で小さな川の堤防に車をとめました。
行きどまりの脇道だから駐車していても咎められる心配はなく、車のフロントガラスには満面の星空が映っていて。
目をこらすと、その小川に点々とちいさな光が。
ふたり同時に「蛍だ!」と、目を合わせて……。
しばらく見つめあったあとに、わたしの目は彼女の唇を見つめて……。

――・――・――
(三十五)の2

 12月のある日にアパートで小さなこたつにふたりで入り、「お正月、ご来光が見たいわね」、「ひるがの高原の山頂なら……」と語りあったなあ。
「除夜の鐘を聞きたいね」。「あたしの実家に、むかえにきてくれる?」。
そのことばになんの意味があったのか、まるで気がつきませんでした。
とにかく、唇が、彼女のちいさくうごくくちびるが気になって。

 しっかりと約束を交わしたはずなのに、あの時はどうしたんだろう。
友人らと大晦日年越し麻雀をすることになり途中でぬける約束をかわしながら、5人目のひとりが「すこし遅れる」と連絡がはいったことでおかしくなっちゃって。
午前2時、3時となり、もう出かけなければ間に合わない。

「いっしょに除夜の鐘を聞きたいね」。そんな彼女のちいさな願いを、踏みにじってしまった。
“家のまえで寒さにこごえながら待っていてくれるだろうか”。
“ちいさなしろい手にはあはあと息を吹きかけながら立っているだろうか”。
“あかい格子がらの袢纏をかぶって、ひょっとして大通りで立っているだろうか”。
“いま行くから、もうすこし待ってて”。
けれど、その声はとどかない。いやとどいていても、ぼくはまだ行けない。

 ほんの些細ないきちがい――わたしにとってはそうでも、彼女にとっては人生をかけた大勝負? のようなものだったかもしれません。
オーバーじゃないんです、後になって、そのことを知りました。
重大性のたっぷり詰まった、衝撃の事実を。(推理小説じゃないのに、オーバーな)。
そののち彼女は奈良県橿原市の病院にうつり、3年ほどして戻ってから、見合い結婚をしたとか。
もしもあの大晦日の夜に、麻雀にうつつを抜かすことなくご来光を見に出かけていたら……。


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