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昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

[淫(あふれる想い)] 舟のない港 (三十六)日曜の昼過ぎに、

2025-07-25 08:00:39 | 物語り

 日曜の昼過ぎに、ミドリがやって来た。
兄にせかされて、と弁明した。
約束の時間は夕方のはずだった。
男は、まだパジャマ姿だった。
飲みかけのコーヒーもそこそこに 、ミドリを外に待たせて慌てて着替えた。
「いやあ、失礼。いつも休みの日はのんびりしているので……」 
「いえ、わたしが早く来すぎました。ごめんなさい」と、頭を下げた。
そして、はじめて訪れる男の部屋を見まわした。

 フロアは無垢材の床になっている。
壁際にベッドがあり、その向かい側にはパソコン・CDプレーヤーが並んでいる。
ベッド横のサイドテーブル下のに、真空断熱マグカップとビアグラスそして切り子細工文様のウィスキーグラスが入れられている。
そして朝は、起き抜けのコーヒーをとマグカップを使っている。
朝は主にマックでのハンバーガーにコーヒーセットで済ませ、昼は社食。
夜はコンビニ弁当で済ませている。

 幅広のアコーディオンドアは、白い木目調で上半分がフロスト加工されたアクリルの格子窓となっている。
「バリアフリーです」。不動産屋の説明だが、扉ぐらいしっかりと……と考える男だった。
さすがにごまかせないかと「じつは……」と、低予算のために扉をつけていないと不動産屋が白状した。

 大きな窓の外はベランダ付きで、エアコンの室外機の反対側に洗濯機がある。
そして洗濯物が風に踊らされている。。
「ああ、いつも土曜日の夜か日曜の朝に、洗濯しているんだ。
シャツ類はクリーニングだけどね。
会社がその分はみてくれているから。
今日いっぱいかけて乾くようにって」
 ミドリが聞きもしないことを、言い訳がましく告げる。

「そうですよね、おひとりですものね。
週に一回で充分ですよね。
うちなんか、まいにち母が『しんどい、しんどい』なんて言いながら洗濯していますわ。
言外に兄に『はやくお嫁さんをもらって出てってくれ』と言ってます。
あたしにもそのうち、言い出すと思いますけど」
 すこし顔を赤らめながら応じた。

「寝具だけは高級品にしている。
人生の3割ほどは就寝だろ? それに健康にも影響するしね。
そう考えて、高額ベッドに高額マットレス、高額の枕、そして高額の羽毛布団と、ボーナスを使い果たしてそろえたよ」
 すこし顔を赤らめながら聞き入っているミドリに、
「エッチなことを考えてたわけじゃないんだ。
貧乏くさい部屋にそぐわないものだからね」と、またしても言い訳がましく付け加えた。 

さらには、生活品の少なさを
「結婚したら電化製品やら家具なんかを買いそろえるつもりなんだ。
嫁さんのね、好みにあったものをね、そろえようかなあなんて考えてるんだよ」
と、頭をかきながら、弁解ともとれることばを発した。
「すてきですね、それって。お相手の女性、きっと喜びますよ。うらやましいわ」
 これ以上ないというほどの笑顔を、男に見せた。



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