昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

青春群像 ご め ん ね…… 祭り (八)

2023-08-13 08:00:59 | 物語り

「あの赤ら顔の言うことなんて、みんなうそっぱちだ。
ヘビしか食べさせてないんだ、きっと。だって、考えてもみろよ。
もしもぼくらと同じごはんを食べるようになったらだぜ、ヘビなんか食べなくなるだろ? 
そうしたら、見世物にならないじゃないか! だれが好きこのんでヘビなんか食べるんだよ」
 口をとがらせて話しつづける友人の顔は、たしかに怒りの表情をみせていた。
キッと一点をにらみつけながら、肩をいからせて歩いた。
次つぎに人びとを押しのけるように追いぬき、肩が当たるたびに「チッ!」と舌打ちされることもしばしばだった。

 彼はぶつぶつとなにかつぶやきながら歩いていく。
しだいに早足となり、ぼくはかけ足ぎみになった。
長身の彼にたいして背のひくいぼくだ。
やせ気味の彼にたいし、太っちょのぼくだ。
クラスで一番の成績優秀の彼だ。いつも平均点すれすれの点数しかとれないぼくだ。
周囲からみれば彼がご主人さまでぼくは従者だ。
かげ口をたたかれていることは知っていた。しかし彼がぼくを見くだすことはなかった。

 祭りの会場からぬけだすと、「助けださなきゃ、世界中から笑われちゃうぜ。
いや、笑われるだけならまだましだ。バカにされて、軽蔑されてしまう。
野蛮な国だって、思われちゃうんだぜ」と、怒りの表情を見せつづた。
 舗道の中央にたつ彼に、祭りにむかう人が不きげんな顔をみせる。
あわててぼくは彼を路地に誘い込んだ。すると彼がいつもの哲学論を打ち始めた。
「人間はまず実存し、本質というのはそのあとで作り上げられるものなんだ。
人間は主体的に生きなければならない。
人間は偶然に生まれ出たのであって、自分の考えで道を歩かねばならないんだ」

 正直のところ、ぼくには理解のできないことばだった。
実存という言葉自体は、フランスの哲学者サルトルが唱えている思想のことだと、高校を中退したおなじ町内の不良だと蔑視されている賢治さんから聞かされていた。
なぜ賢治さんが不良なのか、ぼくにはわからない。
ただ、かつて警察の補導を受けたとは聞かされている。
夜間に――ある人は九時頃だといいまたある人は深夜だという――繁華街の柳ヶ瀬で数人のグループでたむろしていたからだ、とは聞かされた。
「夜に出あるくのは不良のやることだ」。ぼくも両親からいわれたものだ。



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