萬文習作帖

山の青年医師の物語+警視庁山岳救助隊員ミステリー(陽はまた昇る宮田と湯原その後)ほか小説×写真×文学閑話

one scene 或日、学校にてact.13 ―another,side story「陽はまた昇る」

2012-08-23 05:51:17 | 陽はまた昇るanother,side story
言われたことが、



one scene 或日、学校にてact.13 ―another,side story「陽はまた昇る」

目覚めると、かすかな鉄の匂いがする。
この匂いは知っている、立籠事件の時と、この間の雲取山で感じた血の匂い。
なにがあったのだろう?不安こみあげて隣を見上げると、あわい朝陽のなか切長い目が笑ってくれた。

「おはよう、周太。俺の花嫁さん、」
「おはようございます、…あの、怪我とかした?」

尋ねた先、英二の目がすこし大きくなる。
どうしたのかな?何があったのかな?疑問と見つめた周太を、長い腕は抱きしめた。

「怪我はしてないよ、でも言ったら周太、怒るかも?」

怒るようなことって何だろう?
不思議に思いながら周太は素直に訊いてみた。

「怒るようなこと?…でも血の匂いだよね、どうしたの?」
「じゃあ言うけど、周太、」

すこし悪戯っぽく切長い目が笑いかける。
そして綺麗な低い声が、正直に教えてくれた。

「女の子になった周太に処女を貰った夢、見たんだよ。それで鼻血を噴いちゃったんだ、」

しょじょをもらったゆめってなに?

言われた言葉に理解が追いつかない。
けれど追いついた途端に首筋から一挙に熱が昇って、ほら額までもう熱い。
恥ずかしくて仕方ない、けれど訊いてみたくて周太は何とか口を開いた。

「…あの、やっぱり女の子のほうがよかった?…あかちゃん生めるし…」

もし自分が女の子だったら?

そうしたら英二の子供に恵まれるかもしれない、そして家族を贈ってあげられる。
社会的に認められやすい結婚が出来る、それなら英二の母親も受容れやすかったろう。
このことを時おり考えてしまう、本当に自分が女性だったら英二は、今より楽な生き方を選べたのに?
そんな想いに心裡ため息が零れて、瞳に熱が籠りだす。このままだと泣いてしまいそう?
泣きそうな瞳を閉じて唇も結ぶ、その唇に優しいキスがふれた。

「男でも女でも、周太が好きだよ。どっちが良いとか無いな、」

キスの唇が微笑んで、切長い目は真直ぐ見つめてくれる。
きっと本心を言ってくれている、そう解るけれど周太は遠慮がちに訊いた。

「…ほんとに?」

確認したくて訊いてしまう、不安だから。
男同士で伴侶となることはリスクが多い、だから自分の性別へ自信が揺らぐときがある。
この揺らぎが瞳から熱をこぼれさす、また自分は泣いてしまう?恥ずかしくて伏せかけた顔に、婚約者は頬よせてくれた。

「ほんとだよ、だって男同士だから寮で隣になれたんだろ?そうじゃなかったら、こんなに好きになれなかったかもな、」

頬よせて笑って、唇を重ねてくれる。
ふれるキスが優しくて、ほろ苦い甘さが心ほどいて涙ひとつ零れた。

「俺が男で、良かった?…ほんとにそう思ってくれるの?」
「うん、思う。風呂だって一緒に入れるしさ、いろいろ都合が良いこと、いっぱいあるだろ?」

綺麗な低い声は、笑って告げてくれる。
その言葉が嬉しくて、こんなふうに受けとめて貰えることが温かい。
嬉しい想いに微笑んだ周太に、綺麗に笑って英二は言ってくれた。

「まあ、もし女の子だったら、周太のセックスの負担が少なくて良いなっては思うけど。そしたらもっと出来るだろ?」

こんなときなんてこというのこのひと?

言われた単語が恥ずかしい、きっともう顔は真赤だろう。
それでも訊いてみたくて周太は口を開いた。

「…もしかして、そういう理由で、そんな夢みたの?」
「うん、きっとそうだな。夢でかなりしちゃったし、」

さらっと即答して「本当だよ?」と切長い目が微笑んだ。
この即答も眼差しも恥ずかしい、恥ずかしくて睫伏せていると英二は幸せそうに教えてくれた。

「女の子の周太もすごく可愛かったよ?同じように色っぽくて、喘いでる顔もきれいで。喘ぎ声も可愛くてさ、俺、誘惑されっぱなし。
だから何回もして、周太もいっぱい感じてくれてさ。すげえ幸せだったよ?それで興奮しすぎたかな、鼻血ふいたのって。ね、周太?」

そんな夢かってにみないでくれますか?

そして、そこまで正直に申告しなくていいです、恥ずかしすぎますから?
それに、女の子になってもそんなにまで自分はえっちだと思われてるってこと?
こんなの本当に恥ずかしくて分からない、恥ずかしいまま素直に周太は言葉を投げつけた。

「えいじのばかえっちへんたいっ、なんてゆめみてるの?そんなことばっかいうなんてしらない、」

恥ずかしくて布団に顔隠そうとするのに、抱きしめられて動けない。
こんなの恥ずかしすぎて困る、どうしよう?そう困っている顔にキスが降らされた。

「可愛い、周太。夢でも同じように恥ずかしがってたよ?どっちも可愛い、大好きだよ、」
「やっ、はずかしいったらえっちへんたいちかんっ、そんなゆめみるなんてばかっ」
「睨みながら真赤なんて可愛すぎだよ、そういう貌すると誘われちゃうんだけど?今夜はいっぱいさせて、周太?」
「…っあさからそんなこというなんてへんたいばかっ」

こんなに罵っているのに、ふれるキスは優しい。
やわらかにキスは額に頬にふれて、幸せをくれる。
そして唇にキスは降りて、やさしい熱が唇から交わされだす。
こんなキスされたら幸せで抵抗できない、ほどかれた想いに見つめると英二は綺麗に笑ってくれた。

「周太のこと好き過ぎて俺、ばかで変態なんだよ?だから今夜は責任とってよ、周太?」

綺麗な笑顔でねだってくれる、こんな貌されると弱いのに?
こんなこと言うのに笑顔は綺麗なだんて、なんだか反則でずるい。

けれど言われたことの全てが、幸せなのも本当で。



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