快読日記

日々の読書記録

「平場の月」朝倉かすみ

2020年07月17日 | 日本の小説
7月17日(金)

「平場の月」朝倉かすみ(光文社 2018年)を読了。

50代男女の恋愛もの、といえばたしかにそうだけど、それ以上のあれやこれやが胸に迫る作品でした。


これ、終始男性(青砥)側からの視点で描かれていますが、
女性(須藤)側から見たら全然違う話になりますよね、
そして、もしそうだったらちょっとつまらない作品になったんではないかと思うんです。
だから冒頭で須藤がすでに亡くなっていることを明らかにしているとか、この青砥目線で話が展開するしかけとか、とにかくうまい作家です。
実は業の深い、この須藤という女の厄介さを上手にくるんで読者に食わせることに成功しているから。

あと、須藤の妹とか“ウミちゃん”という同級生が出てきますが、ああ、こういう人いるいる!と叫びたくなるリアルな人物造形がすごいです。
ワンカットだけ登場したウミちゃんの娘がとてもいい。

今の50歳くらいって、自分がキラキラ若いときには社会もまだキラキラしていて、いい“思い出”みたいなものを持ちながら、中年になってもその感覚を手放せずにいる一方で、
でも自身の“老い”や“病”からは目を逸らせなくなる時期でもあり、
親の介護やら死やらの向こうに自分の死がちらつき始める、ってかんじなんですかね。

悪い言い方をすれば幼稚、未成熟なまま老いていくのはなんと残酷なことであるか、となんだか不憫に感じたのでした。
自分がまさにそんなお年頃なんですけどね。