快読日記

日々の読書記録

「つまらない住宅地のすべての家」津村記久子

2021年06月09日 | 日本の小説
5月4日(火)

「つまらない住宅地のすべての家」津村記久子(双葉社 2021年)を読了。

普通の町の普通の住宅地に並ぶ10軒の家の話。

そう聞くと「ディス・イズ・ザ・デイ」みたいなのを想像しますが、
それより初期の「とにかく家に帰りたい」が近い感じがしました。

人と人とのつながり(一般的にいう“つながり”に加えて、ゆるいつながりも濃すぎるつながりも。“断絶”さえもつながりの一形態だという意味で)が、
このあたりに来ているかもしれない“逃走犯”という補助線によってみごとに描かれています。
この補助線は、「とにかく…」では“大雨”でした。


中でもすごいと思ったのは、ある家の家長的立場にいるおばあさんの描かれ方です。
人を見下したり利用したり踏みつけたりしながら生きてきて、そのまま石みたいに固まって死んでいく人。
それを孫娘の目線から見るので、単純に批判的にというよりは、そういう人間に対する諦念や悲しみが感じられました。
こうやって何十年も生きてきた人にいまさら何を言っても無駄だ、という絶望と、だからといって完全に切り離せない“この人も家族なんだ”という絶望も。

出番は少ないけど、このおばあさんの娘というのが、全ての判断を放棄しておばあさん(彼女にとっては母親)に依存している人で、めっちゃリアルです。
おばあさんよりむしろこの娘が怖かった。