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私的コラム&雑記(&メモ)

廉価ゲーミングコンソール代替の廉価PCを考える: 1. 検討編

2024-03-09 | ガジェット / PC DIY

動機

 第9世代ゲームコンソールが登場したのは2020年後半のことである。これは3年=36ヶ月以上というムーアの法則でいえば2回分相当で、つまり集積回路の集積度は2倍×2回=4倍を達成できる計算になる。

 そこで、本稿のテーマは廉価ゲーミングコンソール(Xbox Series S)相当の性能を同価格帯のPCで代替できないか検討することとなる。
 2020年時点のPCでもフルスペックのゲーミングコンソールと同等以上の性能を達成することは可能だったが2倍程度の費用が必要だった。つまり本稿の検証内容とは、3年間を経て廉価PCの性能が底上げされて廉価ゲーミングコンソール相当の性能を同価格帯のPCで代替できないか?というものである。

 結論から言えば、机上のスペックに基づくと2024年現在どころか現在の路線のCPU/GPUでは3年先まで達成できそうにない。ただし、ユーザー体験というのは机上のスペックの話だけではないので、その辺りも併せて考えてみたい。

 尚、本稿では可能な限り高いコストパフォーマンスを達成するためAmazon・AliExpressなどのオンラインショップで販売されているAMD APU搭載PCをベースに検討している。

スペックの比較検証

 以下は比較的手頃なAMD製APUと、ローエンドのゲームコンソールとを比較したものである。一見して判るのは、RDNA2以降のAPUではスペックシート上ではXbox Series S相当の理論上の演算性能(GFLOPS)を達成可能だが、その一方でメモリー帯域が低くBytes/FLOPSは悪化し続けている。


PC
7840HS
PC
7640HS
PC
7735HS/6800H
PC
5700U
Steam DeckXbox Series S
Price range?> EUR 500???> EUR 350> EUR 200EUR 450EUR 250
SoC codenamePhoenixRembrandtLucienneAerithScarlett
CPUuArchZen 4Zen 3+Zen 2
core#868848
Base freq38004300320018002400
Turbo freq510050004750430035003400
GPUuArchRDNA3 780MRDNA3 760MRDNA2 680MGCN5 Vega8RDNA2RDNA2
CU12 CU
768 SP
8 CU
512 SP
12 CU
768 SP
8 CU
512 SP
8 CU
512 SP
20 CU
1280 SP
Base freq8008004003001000
Turbo freq270026002200190016001565
GFLOPS (FP32)82945324
3380190016004000
MemoryTypeLPDDR5X-7500DDR5-5600LPDDR5X-7500DDR5-5600LPDDR5-6400DDR5-4800DDR4-3200LPDDR5GDDR6
Configx32 4chx64 2chx32 4chx64 2chx32 4chx64 2chx64 2chx32 4chx256
CapacityN/AN/AN/AN/A16 GB10 GB
Bandwidth120.0 GB/s89.6 GB/s120.0 GB/s89.6 GB/s102.4 GB/s76.8 GB/s51.2 GB/s88 GB/s225 GB/s
B/F0.01450.01080.02250.01680.03030.02270.02690.05500.0563

 あまり話題になることがないが、メモリーの性能とは大まかに「遅延」と「帯域」であり、膨大な数の座標データやテクスチャーなどを扱うGPU性能に関わるのは主に「帯域」の方である。
 ゲーミングコンソールやPC用dGPUで高コストながら広帯域のGDDR系メモリー256~512 bit幅で接続されているのはこのためで、上の表でもゲーミングコンソールではBytes/FLOP(B/F)が0.05以上が確保されている。これに対し、汎用的なPC用メモリーを使うAPUではメモリー帯域により性能が制限される。

 そもそも、Ryzen APUファミリーの場合、Zen世代~Zen3世代(2017~2022年)の5年間に渡ってGCN5系GPU最大8~11CUという構成で停滞してきたが、Zen3+世代"Rembrandt"~Zen4世代"Phoenix"/"Hawk Point"ではRDNA系GPUで理論上の演算性能は大幅に向上する一方でB/Fは大幅に悪化し続けている。DDR5/LPDDR5メモリーの採用によりDDR4/LPDDR4メモリー以上の帯域を確保できているが、AMD Ryzen APUファミリーのiGPUの性能向上がメモリー帯域の向上を上回っているためである。

 以下の表の通り、過去のRyzen APUではBytes/FLOPSが概ね0.02付近で設定されてきたが、RDNA3 iGPU搭載の"Phoenix"世代APUから0.01程度に大幅に悪化している。

Family
ExampleGPU
uArch
GPU perf
(GFLOPS)
DRAM SpecDRAM Bandwidth
(GB/sec)
B/F
Ryzen 2000DesktopRyzen 2400GGCN5 Vega 111760.0DDR4-2933 x 2ch46.930.0267
MobileRyzen 2800H1830.4DDR4-2400 x 2ch38.400.0210
Ryzen 3000DesktopRyzen 3400GGCN5 Vega 111971.2DDR4-2933 x 2ch46.930.0238
MobileRyzen 3780U1971.2DDR4-2400 x 2ch38.400.0195
Ryzen 4000DesktopRyzen 4700GGCN5 Vega 82150.4DDR4-3200 x 2ch51.200.0238
MobileRyzen 4800H1792.0DDR4-3200 x 2ch51.200.0286
Ryzen 5000DesktopRyzen 5700GGCN5 Vega 82048.0DDR4-3200 x 2ch51.200.0250
MobileRyzen 5980HX2150.4DDR4-3200 x 2ch51.200.0238
Ryzen 6000MobileRyzen 6980HXRDNA2 680M3686.4DDR5-4800 x 2ch76.800.0208
Ryzen 7000MobileRyzen 7940HSRDNA3 780M8600.0DDR5-5600 x 2ch89.600.0104
Ryzen 8000DesktopRyzen 8700G8907.1DDR5-5200 x 2ch83.200.0093

 ところで、調べていくとRDNA3がスペックシート上の性能と実際の性能とが乖離していることに気付かされる(この辺りの詳細な検証は別記事にする予定である)。
 各メディアによる解説記事を見ると、RDNA3はRDNA2に比してCU内の演算ユニット数が倍増しており、同じCU数なら2倍の理論上の演算性能を発揮することになっている(参考:ASCII.jp4Gamer)。このため、RDNA2世代のRadeon 680MとRDNA3世代のRadeon 780Mとでは同じ12 CUだが理論上の性能が2倍となっている。ところが、実性能では780Mと680Mとでは2倍も性能差は見られずGPUの動作速度向上とメモリー帯域の向上で説明がつく程度に留まっている。

 以下はレビューサイトNotebookCheckに掲載されている3DMarkのGPU周りのスコアを抜き出したもので、RDNA2世代はGCN5世代・RDNA3世代はRDNA2世代と比較した伸び率を記載してある。

3DMarkTheoretical
Performance
(GFLOPS)
Time Spy
Graphics
Ice Storm Unlimited
Graphics
Cloud Gate
Graphics
Fire Strike
Standard Graphics
7840HS (RDNA3 780M)
vs 680M
8294 (+145%)2642 (+19%)430970 (+31%)44721 (+10%)7526 (+13%)
7640HS (RDNA3 760M)
vs 680M
5324 (+58%)2116 (-4%)N/A41767 (+3%)6142 (-7%)
7735HS (RDNA2 680M)
vs Vega8
3380 (+78%)2221 (+92%)329446 (+23%)40724 (+51%)6660 (+81%)
5700U (GCN5 Vega8)19001156267505
26945
3677

 Vega8→680MはiGPU単体で理論上+78%の性能向上なのでシステム全体の実測値で+23%~+92%・平均+61%の性能向上ということで順当な結果となっているが、680M→780Mは理論上+145%の性能向上ながら+10%~+31%・平均+18%の性能向上に留まる。確かに性能は向上しているのだが、理論上の性能向上幅からすると疑問が残る数字となっている。

 メモリー帯域の狭さによって性能向上が制限されているのでは?という疑問もあろうが、それは恐らく違う。なぜなら理論上ではGPU性能もメモリー帯域も上のはずのRyzen 7640HS(Zen 4 6コア+Radeon 760M)はRyzen 7735HS(Zen 3 8コア+Radeon 680M)に比して0~10%ほど劣っているからである(Ryzen 7640HS vs 7735HSRadeon 760M vs 680M)。
 恐らく、筆者の想像ではRDNA3には2種類のバージョンが存在し、下位モデルの構造はRDNA2と同等構成の改良版ではないかと想像している。実際、RDNA3=演算性能がRDNA2の2倍と想定しないならば780M・760Mの理論上の性能は680M比でそれぞれ+23%・-21%で、メモリーの性能向上も鑑みれば、それぞれ+10~+35%・-10~0%というのは概ね順当な数字に思える。

Ryzen 7735HS

 スペックシート上の比較検証と説明は上述の通りだが、実際に実験する検証用マシンとしてRyzen 7735HS搭載機を使用することとする。

 本稿の企画の趣旨からすると、2022年初頭に登場したAPUを採用というのもおかしな話だが、Ryzen 7840HS搭載PCは実際の性能が+10~35%ほど上回る一方で価格もRyzen 7735HS搭載PCの+45%程度・Xbox Series Sの約2倍ほど高価なため趣旨に反すると判断したためである。

 次回はRyzen 7735HS搭載PCのゲームコンソール化を行っていきたい。

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