ファウンドリー各社の近況
TSMC一強に死角なし 半導体受託製造業界を分析 - EETimes
EETimesが2024年Q1・Q2期のファウンドリー各社のTrendForceの統計データを基に解説しているのだが…標題の「TSMC一強~」に反して「SamsungもIntelも悲惨」という内容なのがなんとも言えない。
Samsung Foundryについては最近は話題自体が皆無に近い。
例えば~4nmノード頃までであればQualcommやNVIDIAから受注しており、歩留まりが悪いというユーザー企業の近況がニュースになっていた。例えばNVIDIA GeForce 3000シリーズ(Ampere)はSamsung 8Nプロセスだったし、Snapdragon 8/8+ Gen 1 はSamsung 4LPXプロセスだったが歩留まりの悪さが報じられていた(Wikipedia List of Qualcomm SoCs List of NVIDIA GPUs)。そして「恐らく大幅にディスカウントしてQualcommやNVIDIAから受注したのだろう」などと陰口を叩かれていた。
それが、最近の話題はというと「年間数千億円の赤字を出して苦戦している」という話題(参考:EE Times・Gigazine)ぐらいのものである。一応、6月にロードマップを更新しているものの、少なくとも筆者個人は2022年頃からペーパープラン以上の報道を見ていない。
Intelについては…記事中の「Intelの名前がトップ10から消えている」がすべてではないかと思う。大々的にIDM2.0を立ち上げAWS・IBM・Microsoft・Qualcommなど大企業の賛同を発表こそしたが、実態は記事中にもある「トップ10にすら入らない」というのが現実であろう。以前から何度も指摘しているが、EDA/IPベンダーすら味方につけられていないファウンドリーが利用される理由が無い。
Intelというと、少し前の報道でSEI PlayStation 6のSoCを失注したという報道もあった。
PlayStation/XBoxのSoCというと、AMDが本業のCPUで苦戦し苦境に陥っていた2011~2017年にIntelと競合の上勝ち取り、同社を支えていたビジネスと言えるかもしれない(参考)。ゲームコンソール用セミカスタムSoCはSony製品・Microsoft製品で利幅は小さいと思われるが、数は出るし、ゲームコンソール用SoCのiGPUの利用を通じてPC用のdGPUの対応拡大も期待できる。同様にIntelがゲームコンソール用SoCを受注できればIntel Foundryの顧客獲得にも繋がるわけだが、そもそもIntelがPlayStation 4/Xbox OneでIntelが敗れたのも、2006~2011年当時Intelがx86に固執しGPUを軽視していたからで受注できる理由がなかった。
今回の記事の内容は、Samsung Foundry・Intel Foundryの苦しさを裏付ける内容となっているが、これは日本にとってこれは他人事ではない。日本政府肝入りのRapidusが上手く行く未来を想像することは絶望的だからである。
ただし、東洋経済の指摘はまったく的外れだと思う。
半導体のラピダスはこのままでは99.7%失敗する 成功するためにはいったい何をすればいいのか - 東洋経済オンライン
まず、他社との業務提携自体は正しい。半導体製造プロセスの研究開発予算は莫大なので他社との提携は欠かせないからである。
例えば総合電機メーカーSamsungは収益1982.4億ドル・総資産3490.5億ドルの企業で、これは日本で一位のトヨタ(収益4108.9億ドル・総資産8210.9億ドル)にこそ及ばないものの、二位を争う三菱商事(収益834.5億ドル・総資産1207.1億ドル)・本田・ソニーよりも巨大である。そんな企業が半導体を内製するため2005年頃から継続的に莫大な投資を行っているSamsung Foundryですら膨大な損失を垂れ流しながら事業を継続しているのが実態である。また、Samsung Foundry(一応は業界2位)に勝っているTSMCの研究開発予算はトヨタのそれに匹敵する。RapidusにSamsung並のバックやTSMC並の研究開発予算が供給されるとは思えないのだが…
そこで、同業他社とプロセス開発で提携したり、製品の製品化でファブレス半導体企業と提携して出資を受けたり、ということはザラである。
首位TSMCを除けば同業社との提携は有効だろう。製造で過度に競合してしまうより、IBMが自社ファブを維持していた時代もGlobalFoundries・Samsung Foundryと提携・共同開発してCommon Platformを形成していたように顧客が複数の製造会社から製造枠を融通できる方が都合が良い。さらにIBMというと、研究室レベル(≠量産レベル)ではあるが2021年に他社に先駆けて2nm GAAプロセス開発を発表し、関連技術をIntelと提携やRapidusと提携して供与している。
ファブレス半導体企業の他社との提携も有効だろう。例えばTSMCの最先端プロセスはAppleが独占することが慣例となっているが、これはAppleがTSMCの開発に出資して補助する代わりに製造枠を買い取っているからである。半導体メーカーがファウンドリーと共同で、あたかも自社ファブがあるかのように製品計画を実現することをバーチャルファブと呼んでいる。
東洋経済の記事は提携先が勝ち組でないと主張するわけだが、まともなサンプルさえ発表できていないRapidusと現時点で提携したがる企業など中小ベンチャー企業以外にありえるはずがない。
もっとも、東洋経済の記事の「Rapidusの目的がはっきりしない」という指摘は正しい。以前も説明したが、米国がTSMC・Samsung Foundry・Intel Foundryの工場を誘致するのは有効である。なぜなら多くの先端半導体企業(例:NVIDIA・Intel・AMD・Apple・Qualcommなど)が米国に所在しているため、Designed in USAの半導体をMade in TaiwanやMade in South KoreaではなくMade in USAにできるという意味で、経済・雇用・軍事の面でも有効と思われる。
これに対し日本には先端半導体企業が無いので、仮にRapidusが成功しても外国の主に半導体企業の製品を製造することになる。トヨタ/デンソーやルネサスが扱っているような車載半導体は最先端から数世代遅れなので当面は顧客にならない。もしTSMCのように既に成功しているならそれでも構わないのだろうが、最悪の場合、日本国民の税金を無限に食い続けることになるかもしれない(Rapidusの資本金73億はトヨタやソフトバンクなど日本企業から賄われているが、日本政府が2023年に2600億円・2024年に5900億円支援している)。
ノジマがVAIOを買収
10年間“卒業”できなかったVAIOがノジマ傘下に入る理由 - - ITmedia PC USER
ITMediaの記事は心底ツマラナイが、事実を時系列でおさらいするという点ではよく纏まっている。
記事中にはいろいろと書いてはあるのだが、B2Bで成功というのがノジマの狙いというのは弱い気がしてならない。
確かにノジマが家電量販店でB2C中心でVAIOがB2B中心なら「補完関係」と言えなくもないが、そもそもノジマに比べればVAIOは販路も異なるが売上自体が少ない。売上はノジマの7613億円に対しVAIO 421億円・PCに限っても個人向け・法人向け共シェアトップ5位にすら入らない(2021/22年度の古い数字だが)。補完関係というにはほど遠く、強いて補完関係というなら実店舗で販売が主体のノジマに対しオンライン販売が主体のVAIOという補完関係の方が重要では?と思ってしまう。
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