goo blog サービス終了のお知らせ 

ALH84001

私的コラム&雑記(&メモ)

最近の興味深かった話題(2024年第52週)

2024-12-28 | 興味深かった話題

TP-Linkは何処の会社か?

 日本の大手ITニュースサイトでTP-Linkの「米国TP-Linkは中国TP-LINKとは無関係」という趣旨の声明を報じているのだが…TP-Linkの主張はそうだとして、それを鵜呑みにして報じるのはプロの仕事じゃない。

 筆者が軽く調べた結論を先に言うと、「米国TP-Linkと中国TP-LINKの関係は「不明」(→使うなら個人の自己責任で)」ということになる。もっとも、筆者からするとASUSやNetgearなど他の選択肢があるのにあえてTP-Link製品を選択する動機が解らないが。

 そもそもの話をすると、米国TP-Linkは同様の主張を以前から繰り返しており、英語版Wikipediaの項目を引用すると以下のようになる:

In a 2023 patent dispute lawsuit, a U.S. federal judge rejected the company's argument that there was no link between its U.S. and China businesses.
In May 2024, the government of India issued a warning saying that TP-Link routers present a security risk.
In May 2024, TP-Link announced the completion of corporate restructuring, with secondary headquarters in the United States and Singapore.

※以下筆者による抄訳
2023年の特許紛争の裁判で、米国裁判所は当該企業(注:TP-Linkのこと)の米国ビジネスと中国ビジネスに関係は無いという主張を却下した。
2024年5月、インド政府はTP-Link製ルーターのセキュリティーリスク存在するという警告を発行した。
2024年5月、TP-Linkは完了し第二ヘッドクォーターを米国とシンガポールに置く企業再編が完了したと発表した。

※英語版Wikipediaの書きっぷりは一貫して米国TP-Linkと中国TP-LINKを同一企業として扱っている。ただし、それは書き手の主張というより米国政府/司法の現時点での公式なステータスと一致している。

 要するに、米国TP-Linkは今回と同様の主張を以前から繰り返しており、2024年には企業再編が行われているものの、各国政府は懸念を取り下げていない。

 余談だが、少し調べてみても疑問は深まるばかりである。
 例えば米国TP-Link製品とソックリな製品が某中国系通販で中国TP-LINK製品かのように販売されていたり(例えばこれこれ。ただし、販売会社の不手際の可能性もある)、米国TP-Linkサイトには企業幹部の名前が表示されておらず、少し調べるとCEO等の幹部が中華系のように見える(ただし、家系図まで遡ってはいないので、中華系米国人やシンガポール等を経由した華僑という可能性もある)。

 ただ、そもそもTP-LinkはDJIのような「業界でダントツ」な製品を作っているわけでもなくASUSやNetgearなど他の選択肢があるので、あえてTP-Link製品を選ぶ必要性は薄いように思われる。
 いずれにせよ、企業の公式発表を裏取りもせず記事にするのはプロの仕事とは言い難い(ましてや企業の主張部分を太字で強調するとかどうなっているのか)。恐らくニュースメディアもコネなどシガラミはあり(広告主だったりとか)するのだろうが、こういうのはステルスマーケティングと同類なので、ちゃんと裏取りする気が無いのであれば「PR」等明示すべきである。

Intelの「AIシフト」と時系列

Intelの苦境と変わりゆくデバイス――“AIシフト”の影響を受け続けた2024年のテック業界 - ITMedia

 ITMediaの記事だが…2024年のニュースの総括という趣旨は理解できるのだが、なんだか時系列や因果関係がおかしい。
 Pat Gelsinger氏の退任が電撃的・衝撃的だったことは否定しないが、恐らくライターは時系列を勘違いしている。Pat GelsInger氏がCEOに就いたのは2021年で、NVIDIA等競合他社もIntelも既に「AIシフト(※それが何を意味するにせよ)」していた。

 例えばNVIDIAがTensor処理をVectorプロセッサーであるStreaming MultiprocessorからTensorCoreに処理を移したのがVolta/Turingで2017/2018年のことであるが、IntelがDeep Learningに舵を切り始めたのもNervana(2016年)・Movidius(2016年)・MobilEye(2017年)・HabanaLabs(2019年)の買収を通してである。またIntelは自社開発のData Center GPU Max "Ponte Vecchio"の開発にあたりRaja Koduri氏を雇ったのが2017年である。いずれもGelsinger氏がIntelに復帰する以前の話である。

 生成AI等のブームによる関連銘柄の株価暴騰は上述の2016~2019年時点では予測不可能にしても、Deep Learningの隆盛自体は見えており、「何時」「どの程度」かは予測できなかっただけだ。
 筆者が推測するに、IT業界で働いていてDeep Learningが隆盛すること自体は明確だったはずだ。これは「工業で冶金技術等の素材技術が鍵になる」というのと同じ話で、様々な分野に適用・応用でき、多くの経済的利益を生み出せる基盤技術が産業の鍵になる、という話である。
 Deep Learningの場合、従来人間が行っていた判断を数万~数億倍の速度で実行でき多種多様な場面に応用できる。例えば株取引では「数理モデルの出した予測」を参考に人が「過去の経験や知識に基づき判断」して取引していたところ、数理モデルとDeep Learningを組み合わせで、より高精度な判断を数万~数億倍の速度で実行できるならビジネスになると容易に予測できる。同様の応用例は幾らでも考えられる。疑問は「何時」「どの程度」である。
 これはAMDが良い例で、同社はCDNA = InstinctシリーズでDeep Leaning自体はサポートしたが、現在でもNVIDIA GPUと比較して最適化されているとは言い難く、その結果としてNVIDIAの後塵を拝している。悪い言い方をするなら「Deep Learningへの投資は判断できていた」ものの「NVIDIAに比べDeep Learningへの早期の傾倒が足りなかった」ということになる。

 ITMedia記事では何故か唐突にSoCの話が始まっているが…これは「AIシフト」とは直接は何の関係もない。
 半導体の統合=SoC化は、半導体の微細化とコストとユーザーの要求性能のバランスの問題でしかない。そもそも、PC用の半導体だって点数は減り続けており、2000年頃までは3チップソリューション(CPU + North Bridge + South Bridge)が基本だったが、現在ではすべて統合されたSoCも普通になった。
 半導体は微細化で集積度が上がるため、2000年頃の時点で既にNorth BridgeとSouth Bridgeがスカスカになってきており、North BridgeへのGPUの統合・North BridgeのCPUへの統合などの統廃合はロードマップに入ってきていた。ちなみに、Intelの場合、最先端製造プロセス=CPU用・一世代前の製造プロセス=North Bridge用・二世代前の製造プロセス=South Bridge用としていたため、チップセットの統廃合が行われると二世代前の製造プロセスが空いてしまう。それを社外に提供するサービスに転用しようという試みが2015年頃にIntelが推進していた初代Intel Foundryである。

 マイクロプロセッサーのSoC化自体はIntelの不振と直接関係は無いが、SoCが実現できるほどマイクロプロセッサーの性能・機能が成熟しているとなると、(1) マイクロプロセッサーの分散化 (2) CPUのバイパスが当然発生し、これはIntel CPUが売れない原因となりうる。
 アイデアは単純で、昨今のスマートフォンのレベルのマイクロプロセッサーが実現可能なら、わざわざネットワークの先にある一極集中されたサーバーと通信しなくても分散されたノード/エッジで可能な処理がでてくる。それが飛躍すると、一極集中されたサーバーとほとんど通信しなくても分散されたノードだけで通信して処理すれば通信コストが省けることになる。結果としてNVIDIAやAWS等の他社が投資してきた市場は拡大しており、Intel CPUの重要性・出荷台数は減ることになる。
 もっとも、それもRDMA(2011年)が登場した時点で既定路線で、2018年6月にTop500に登場したIBM SummitはCPUの搭載台数より多くのGPUの搭載台数でTop500首位を獲得した初めてのHPCだが、GPUはMellanox InfiniBandでGPUDirectによりCPUをバイパスして相互通信が可能である。Pat GelsingerがIntel CEOに就任した2021年や今年2024年に始まったような話ではない。

 Intelの場合、「Intelの不振」と一言で語られることが多いが、実際には問題は多岐に渡っている。例えば (1) 製造部門が成果を出していない (2) Intel Architecture(x86系)CPUビジネスから脱却できない、といった問題点は互いに無関係な別問題である。
 ITMedia記事では「リスク分散」についても指摘されているが、リソースは無限ではないので分散だけでなく「選択と集中」はある程度必要になる(バランスの問題)。そうなるとIntelが「AIシフト」で行っている、(後者)MobilEye独立・HabanaLabs NPUとData Center Max GPUの両方への投資は無駄が多過ぎるように感じられ、これらを別の問題(前者)Intel Foundryの問題と並列して対応するのだから大変である。ただし、上述の通り前者と後者には直接的な因果関係は無い。

 前者は半導体の微細化が進み製造技術の確立の技術的難易度が向上しているからである。ただし、関連するIntelの動きは業界の競合他社の神経を逆撫でし続けているようにしか見えない。以前も記事にしたが実績が散々なのに威勢だけがよかったり((1) (2))、当のGelsinger氏もTSMCから反感を買ったりしている。

 後者については「Intelが2006~2017年頃の経営判断でx86一本鎗を選択したのだから、経営判断の問題」だとしか言いようがない。
 Intelは2006年頃にx86への集中を選択したと見られ、ARMv5TE互換CPUコアXScaleを2006年を売却・2009年にはNVIDIA・AMDが進めつつあったGeneral Purpose GPU(GPGPU)もx86系CPUで実現すべくLarrabeeを発表している。IntelはGPGPUの標準化を狙って2009年に開発されたOpenCLのデモですらIntel CPUのAVXで実行させていた、根っからの反GPGPU/アクセラレーター派である。その態度が変わったのは上述のNPU・GPUへの投資の頃からだ。
 つまり2006~2024年の過去18年間において、Intelは2006~2017年の11年間は反GPGPU/アクセラレーター派でx86に固執し続けていた(CPUシェア90%の会社の主張なので、単に意見が対立したというよりPC自体がスマートフォンよりGPGPU/アクセラレーター対応が遅れた元凶と言って間違いない)。このためNVIDIAやAMDから対応が遅れているのは当然だし、過去の11年間の経営判断ミスが現在の経営状況の悪化に結びついているとしたら自業自得としか言いようがなかろう。
 ちなみに、Pat Gelsinger氏は2001~2009年のIntel CTOとしてIntelのCPU戦略を主導した人物であり他人事ではない。