2022/10/29 いろいろと加筆修正
ASUS Chromebook CZ1 (10.1-inch 1920x1200 タブレット)を入手したので使用感などを併せて書いてみたい。
背景
筆者はアイルランド在住時(~今年8月)、在宅時はPC以外ではほぼFire HD 8 Gen 7 (2017)でWebをブラウジングしていた。しかし、古くなってきたこともあり(後述)引越の際に処分したため後継機種を探していたのだが、結論から言えばCZ1に乗り換えた。
先に断っておくと、CZ1自体は2022年10月にわざわざ取り上げるような機種ではない。
筆者(欧州在住)の場合は主に入手性が理由でCZ1となった(Amazon.deで€180だった)が、日本在住の方であればLenovo IdeaPad Duet (無印)の方がメジャーかもしれない。スペックの詳細は後述するとして、CZ1と同じASUS製のCM3、そしてIdeaPad Duetは多くの部分が共通しており、筆者がここで述べるCZ1に関する内容は他機種でも当て嵌まる部分は多いと思われる。
CZ1は2021年8月頃に発表された機種だが、2021年3月発表のCM3や2020年6月発表のIdeaPad Duet、さらにはAmazon Fire HD 10の2019年モデル・2021年モデルについてもOSこそ異なるがハードウェアのスペックは共通しており、言ってみれば2019年~の$300クラスの廉価10インチタブレットとしては何ら特筆する部分の無い標準的なスペックといえる。
選定理由:サポートライフサイクル
そもそもの話だが、Webをブラウジングする程度ならばモダンなWebブラウザーさえあれば端末のOSは関係ないかもしれない。オンライン動画や電子書籍などを閲覧するため幾つかアプリが必要になるとしてもメジャーなOSであれば困ることはないし、ハードウェアについてもゲーマーならともかくWeb・動画・電子書籍の視聴・閲覧程度であれば廉価版タブレットで事足りてしまう。つまりタブレットのような用途ではOSは機種選定の決め手となり難い。
筆者の場合、機種選定で重要な要素となったのがサポート期間である。
例えば、Apple iOS/iPadOS端末の場合は5年間に渡ってアップデートが提供されるが、Android端末の場合は端末ベンダーにもよるがアップデートが提供される期間は3年間程度と比較的短いケースが多いように思われる。ここでは話を単純化するため「アップデート」としたが、これはOSのメジャーアップグレード(例:Android 12→Android 13)もあれば、セキュリティーなどの問題を修正するアップデートも含まれる。
例えばSamsungの場合、同社はサポート期間の延長を2021年・2022年にアナウンスしており、2022年2月以降に発表されたSamsung製の全Android端末のサポート期間を4年間となっている。
ここでいう「X年間サポート」というのは「X年間はOSのメジャーアップデートを行う」上で「セキュリティーアップデートはX年間経過後もハードウェアが対応していれば続くかもしれない」という意味で、ハードウェア性能の高い上位機種の方がサポート期間が長くなる可能性があるが、それは保証されているわけではない。割り切って低価格でサポート期間の短い機種を短期間で交換していくというのも選択肢のひとつとなっている。
Amazon Fireタブレットの場合はさらに事情が特殊である。Fireタブレットに搭載されるFire OSはAndroidがベースとなっているが、過去に単一の機種でAndroidがメジャーアップデートされたことはない(Wikipedia Fire OSの項を参照)。
AmazonはGoogleがオープンソースで提供したAndroidを基にFireOSを開発しているからバージョンは相対的に古めである。筆者の場合で言えば2017年に購入したFire HD 8にはAndroid 5.1ベースのFire OS 5が搭載されていたが、これはGoogleが2015年に発表したAndroidで、2017年当時の最新版はAndroid 8.0だった。筆者はFire HD 8を2017~2022年の5年間ほど使用していたわけであるが、セキュリティーアップデートは2022年でも提供されていたものの、OSのメジャーアップグレードは5年間で1度も行われなかった。言い換えれば、筆者は7年も前のOS=Android 5.1を使い続けていたことになる。
この状況は現在でも同様で、今年発売されたFire HD 8 Gen 12 (2022)に搭載されているFire OS 8は、Googleが2020年に発表したAndroid 11ベースである。そして過去の例に倣うなら、恐らくこの機種のサポートライフサイクル中にAndroidバージョンが更新されることはない。
恐らく、このようなFire OSのサポートモデルはAmazon視点では問題ないのだろうが、ユーザー視点で問題無いか否かは別問題となる可能性もある。実際、筆者の場合も2021~22年ともなると一部のアプリが動作しなくなっていた。ちなみに2022年8月時点でのAndroid 5.1のシェアは2.2%ほどとされている。
このように、Androidタブレットではサポート期間は問題となるが、Chrome OSは異なるライフサイクルを採用しており、長期間のサポートが期待できる。これは、恐らくGoogleのビジネス戦略的な事情もあるのだろうが、Chrome OS端末はAndroidとは異なりOSはGoogleが直接提供しているからである。
Chrome OS端末に配信されるOSイメージは恐らく機種毎に個別であるが、端末ベンダーはハードウェアとLinuxカーネル・ドライバーなどハードウェア固有の部分を用意するが、その上で動作するChrome OSのユーザーランド部分はGoogleが用意しており、Androidとは異なりアップデートは端末ベンダーではなくGoogleが配信している。
Chrome OSのサポート期間は端末ベンダーが設定した期間となっており、Googleのサポートページ上で確認できる。それによると筆者の入手したCZ1および同じSoCを搭載するCM3やIdeaPad Duetは2028年6月までのサポートとなっている。恐らくMT8183の製品寿命がその程度という見積なのだろう。2020年製の端末を2028年6月まで(約7-8年間)最新版のChrome OS/Chromeブラウザーを使用し続けられると考えると非常に優秀だと思う。
より具体的に比較すると、Googleは先日の発表会でPixel Tabletを発表したが、2023年の登場予定で5年間サポートが提供される(~2028年)。もちろん、廉価Chrome OSタブレットとPixel Tabletを単純比較することはできないが、サポート期間という点に限って言えばChrome OSの優秀さが解るのではと思う。
ちなみに、AndroidほかiOS/Windowsと比較するとChrome OSの普及率が芳しくないことから開発打切を危惧される方もおられるかと思うが、筆者は心配していない。その理由は大きく2つある。
(1) まず、Chrome OSはコミュニティーが20年以上も開発してきたGentoo LinuxにGoogleがカスタマイズを施したLinuxにChrome Webブラウザーベースのユーザーインターフェースを載せたもので、Androidとは異なりChrome OS独自で開発されている部分は限定的である。(2) この「GoogleがGentooをカスタマイズしたLinux」であるが、通称CrOSと呼ばれており、Google Cloud PlatformでKubernetesコンテナーのホスト=Container-Optimized OSのベースとなっている。
言い換えれば、Chrome OS自体はメジャーと呼べないかもしれないが、OS部分はGoogle Cloud Platform(Googleのコアビジネスのひとつ)向けに、ユーザーインターフェース部分はChrome Webブラウザー(Googleのコアビジネスのひとつ)向けにGoogleが開発しているものを組み合わせたものなので、Chrome OS自体の開発コストは小さいはずで、簡単に打ち切られるとは考え難い。
ハードウェア
ここまでは机上の話をしてきたが、ここからは実機の使用感・運用方法について考えていきたいと思う。
まず、Android 8インチタブレットから乗り換えた視点でCZ1を使ってみて気になるのはその重量だろう。8インチタブレット(300~400g)より10インチタブレットが重いのは当たり前だが、Chrome OSタブレットの場合はAndroidタブレットとは異なりキーボードやスタイラスによる操作が想定されている=付属品が多いから重量が増えやすい。10インチクラスのAndroidタブレットやiPad(~500g)と比べてもChrome OSタブレットはやや重く感じられ、CZ1の場合はフル装備で1 kgに達する。とはいえ、CZ1やIdeaPad Duetの場合はケースやタイプカバーをすべて取り外すとAndroidタブレットやiPadと同等まで軽量化でき、CZ1もタブレット単体では約500gとなっている。
Chrome OSは処理やデータの大部分はクラウド(というかGoogleのWebサービス)で行い、端末上ではChrome Webブラウザーで閲覧するだけというシンクライアント的なコンセプトのはずで、それならばハードウェアのスペックはChrome OSとWebブラウザーを快適に動かせれば良い筈である。とはいえ、Chrome OS端末でも他のPC機種と同様にハードウェアが高性能な方が高速に動作することは事実で、実際、過去に登場したGoogle純正のPixelブランドChromebookはいずれもハードウェアが高スペックである。
実際にCZ1を使ってみた感想を述べるとすれば、Webブラウジングのような低負荷な使い方では可もなく不可もなく、それなりに快適に動かせるが、高負荷時(筆者の場合はVPNに接続中など)にラグが発生し、操作中に指が引っ掛かるような感じを受けることがある。
先日PC WatchでLenovo IdeaPad Duet 370のレビュー記事が掲載されており、記事中では、Qualcomm Snapdragon 7c搭載Chrome OS端末の高性能ぶりが示されているので、参考程度にスペックを比較してみる(以下はSnapdragon 7c Gen 1のスペックであるが、Gen 2は1割ほどクロックアップした程度である)。
Qualcomm Snapdragon 7c (Gen 1) | MediaTek Kompanio 500 | ||
---|---|---|---|
SoC | Model | SC7180 | MT8183 |
CPU (big) | Arm Cortex-A76 x2 | Arm Cortex-A73 x4 | |
2.4 GHz | 2.0 GHz | ||
CPU (LITTLE) | Arm Cortex-A55 x6 | Arm Cortex-A53 x4 | |
2.4 GHz (?) | 2.0 GHz (?) | ||
GPU | Adreno 618 | Arm Mali-G72 MP3 | |
825 MHz (422.4 GFLOPS) | 800 MHz (86.2 GFLOPS) | ||
RAM | LPDDR4X x32 | LPDDR4X x32 | |
2133 MHz (17.1 GB/s) | 2133 MHz (17.1 GB/s) |
Cortex-A76のシングルスレッド性能はCortex-A73の約1.5倍程度なので、20%高い動作周波数では+80%程度高速になる。また、ハードウェアの高速化に加えLinux KernelやChrome Webブラウザーの高性能化が含まれている可能性もあるので、PC Watchの記事中にあるように2倍高速というのは妥当な結果に思える。
bigコアの数がMT8183は4コア・Snapdragon 7cは2コアなので、理屈の上ではMT8183の方が高速になるワークロードもありそうだが…タブレット端末ではフォアグラウンド処理に特化した使い方となるのでMT8183の方が高速になるケースは稀だろう。
差が大きいのはCPUよりもGPUで、Snapdragon 7cはMT8183の約5倍も高速だが、メモリー帯域が狭いのが気になる(スマートフォンなどでもLPDDR4Xメモリーは使用されるがx64コンフィグで約2倍の帯域であることが多い)。ホーム画面操作やWebページのブラウジング程度であればGPU性能が効いてくるかもしれないが、ゲーム向きとは言えず、ChromebookでゲームをしたいならSnapdragon 8cかIntel Core/AMD Ryzen搭載機種を選んだ方が無難だろう。
以上の通り、MT8183搭載端末は必要最低限の性能といった感じであるが、それら性能面での不満はSnapdragon 7c等の高性能なSoC搭載端末を選択すれば改善されそうである。ただし、前者が$300クラスに対し後者は$500~となるため、その性能差に$200~の価値を見出せるかどうかはユーザー個人次第ではないかと思う。ちなみに筆者なら$500出すならiPadを買うが。
ソフトウェア:Androidタブレットとの使用感の違い
Androidタブレットから乗り換えることを考えると、気になるのは使用感の違いかもしれない。結論から言えば、Chrome OS端末はWeb・動画・電子書籍の視聴・閲覧専用のシンクライアント的な運用が想定された端末なので、Androidタブレットで可能な別の用途を想定しているのであれば適していない可能性が高い。
まず、Chrome OSとAndroidの見かけの違いから見ていく。
例えば設定を変更する場合には設定アプリを起動するわけだが、Chrome OSのUIはほぼChrome Webブラウザーだから、Chrome Webブラウザーとほぼ同様の設定変更画面で行うことになる(大雑把に言えば、Chrome Webブラウザーの設定chrome://settings/にOS用の設定項目を追加した感じ)。ところが、Androidアプリに関する設定だとAndroidの設定画面にリダイレクトされることになる。
つまりAndroidだとOSの設定やアプリの管理は統合されており、例えばWebブラウザーなどのアプリ固有の設定はアプリ内で行っていたわけだが、Chrome OS (+Android環境)だとOS・Webブラウザーの設定が共通化されておりWebブラウザー以外(Androidアプリ)の設定画面が別に存在することになるので、整頓されていない感触を受ける。
Chrome OSのOSの設定は設定アプリから、Chrome Webブラウザーの設定はPC版と同じくWebブラウザーの設定メニューから設定を行う(個別に存在する。見た目が酷似しているため当初は共通化されていると誤解していた)。両者の設定画面の外観や使用感は酷似するが、Androidアプリの設定画面はChrome OSの設定画面からリダイレクトされる上にAndroidのままなので使用感が少し異なる。やや整頓されていない感触を受ける(もっとも、たかが設定画面なので頻繁に使用することはないと思うが…)。
Chrome OSはAndroidやiOSと比較して用途が極めて限定的に思える。
例えばAndroid端末をGPSカーナビゲーション代わりに使うことが普通なように、その用途はWeb・動画・電子書籍の視聴・閲覧に限定されないが、Chrome OSで同様のことはできない可能性が高く、どちらかと言うと電子書籍端末(例:Kindle)の高性能版のような印象を受ける。CZ1のようにGPSがそもそも搭載されていない場合もあるし、そもそもChrome OSにおいて標準のアプリケーション(Chrome Webブラウザーと一部の手書きメモアプリ)以外=Androidアプリは、あくまで補助的なもので、正常に動作しないことも多い。
より具体的には、Google Keep・YouTube・KindleなどのWeb・動画・電子書籍の視聴・閲覧アプリは正常に動作する。しかしWeb・動画・電子書籍の視聴・閲覧から離れた用途になればなるほど動作が怪しくなる印象であるが、いずれにせよ、Androidアプリについてはインストールできても正常に使用できるとは限らないため、ユーザー側で実際に試す必要がありそうだ。
もっとも、Web・動画・電子書籍の視聴・閲覧についても、YouTubeやKindleのようにインターネット上のコンテンツを閲覧する場合は運用しやすいが、上述の通り、シンクライアント的な使い方が想定されているせいだろう、PCに保存したePubなどを閲覧する場合は正常に使用可能だが手間がかかるので注意が必要である。
多くのタブレットタイプのChrome OS端末ではSDカードスロットが非搭載となっているが、そもそも、Chrome OSはUSB OTGモードに対応しておらずPCからUSBデバイスとして接続すてデータを転送することはできない。SoCはAndroidタブレット由来だったりするのでハードウェアの問題ではなくソフトウェア側の問題と思われる。
筆者の場合、上述の通りFire HD 8の用途のひとつに電子書籍リーダーも含まれていたのだが、これをChrome OS端末で実現してPCに保存されているePub形式やCBZ形式の電子書籍類を転送するには、(1) Google Driveを経由するか、(2) 一時的にUSBメモリースティックにデータを移してPC→USBメモリースティック・USBメモリースティック→Chrome OSタブレットといったように二段階でデータを転送する必要がある。
筆者がFire HD 8を使用していた時は、MicroSDカードに閲覧したいデータ(主にePubなど)を保存しておき、普段はタブレット内に常時搭載しておいて、必要に応じて、取り外し→PCでデータを追加・削除したり編集していた。PCでの編集作業は多少の手間はかかるが、編集するにもMicroSDカードを直接編集するのでデータの追加・削除は高速だし、数カ月に1回の作業だったため苦ではなかった。
しかしChrome OSデバイスでは、上述のようにPC→USBメモリースティック・USBメモリースティック→Chrome OSタブレットといったように二段階でデータを転送するとなると手間は単純に2倍になる。
この問題(?)についての対応策は現時点でも思索中で解決できていないのであるが、MicroSDカードの代わりにUSBメモリーを常時接続する運用にできないかと考えている。USB Type-AであればUSBコネクターサイズのメモリースティックが存在したため邪魔にならなかったのだが(例:Buffalo RUF3シリーズ)、USB Type-Cではコネクターが小さいせいだろうが、筆者の知る限りではUSBコネクターサイズのメモリースティックは存在しない。かと言って親指サイズのUSBメモリースティックをタブレットに常時接続というのも邪魔なので、こういった製品を物色中である。
追記:筆者個人の感想としては、やはりePUB等のローカルのデータを使用する場合(Googleの想定するもの≒シンクライアント的な使い方とは異なる使い方をする場合)、USB接続のメモリーの常時接続を前提に運用した方が快適なので、上述の通りUSB Type-Cコネクターサイズで邪魔にならないUSBメモリーの使用を検討すべきと思う。しかし問題は、メジャーブランドはそのような製品を展開していない点で、筆者の場合はAliExpressから購入した。
おまけ
Web・動画・電子書籍の視聴・閲覧がメインのChrome OSで唯一クリエイティブに使えるのが、(手書きを含む)メモやドローイングであるが、CZ1標準のスタイラスと液晶では、画面に傷がつかないか心配である。
CZ1とIdeaPad Duetの画面サイズやフロントカメラの配置は完全に同一で、液晶プロテクターは同じものが使用できる。筆者の場合はIdeaPad Duet用の強化ガラスを入手したがきれいにフィットした。
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