goo blog サービス終了のお知らせ 

チリチリリン

風にゆれる風鈴のように
こころ休まる音を届けたい

「新聞記者」

2019年08月08日 | 映画の話

 

 

少し前に「ペンタゴン ペーパーズ」というアメリカ映画があった。政府に不利益な情報を手に入れた新聞社が、その記事を新聞に載せようと奔走する話で、当然政府からは強い圧力がかかる。取引銀行からの圧力もあって、会社の存亡の危機にまでなるが、社長の最終判断で「 GO」が出て、輪転機が回り始める。輪転機のうなりと振動を感じながら記者が感慨にふける場面が感動的だった。

「新聞記者」は同じような状況の日本映画だ。日本の新聞社はGOは出さないだろう、企画倒れで終わる映画ではないかと考えていたが、なんと発行した! 印刷機から新聞が刷り出される場面ではやっぱりグッときた。

政府の不利益などという大問題でなくても、最近の吉本興業やジャニーズ社長の性暴力問題などでも、マスコミは情報操作をして真実を伝えてないのではないかと不信感いっぱいだったので、ちょっと意外で嬉しかった。

映画では情報をリークした若手官僚に甘い罠が迫る。「お前のキャリアは守ってやる、手に入れた情報は全て忘れてしばらく海外勤務しろ」と迫ってくる。そんな申し出を受けてはいけない!一度受ければ自分のキャリアを人質に、後にはもっと重い責任を押しつけられ、自ら命を絶った上司と同じ道を歩くことになる、絶対に断れ!と心の中で叫んだが...

 

チケットをネットで購入した時は埋まった席はパラパラだったが、上映時にはほぼ満席になっていた。アニメや娯楽映画に混じって、社会派映画が人を集めるのは頼もしいと思う。

 


「天気の子」

2019年07月23日 | 映画の話

新海誠監督の映画は高校生の純愛ストーリーの後ろに、2つに分断された日本だとか、巨大隕石で消滅する町だとか、やたらスケールの大きな背景が語られていて、それでいてそこに何故かイタコとか巫女とか古風な日本がスパイスのように効いている。今回も気候変動が著しい今の地球の状況に、なんと”人柱”が出てきた。

絵はいつものように馴染みの街が描かれていて綺麗だし、一途に少女を思う少年の心に打たれ映画は面白かったです。ただ両者の生活背景が全く語られず、出会って離れる、ほんの1、2ヶ月(のように思われた)の話なのに薄っぺらさを感じました。

ネタバレになりますが、少女を人柱に立て気候変動を正すことより、少女を選び、何年も雨が続き東京の半分が水没する気候をも甘受した少年の純愛に喝采を送りました。若者はこうでなくちゃ!


「Girl/ガール」

2019年07月08日 | 映画の話

 

トランスジェンダーのララはホルモン療法を受けながら難関のバレエスクールで厳しい練習の日々を送っている。性転換手術の説明が実に赤裸々に医師から語られる。ほー、そこまでできるんだとびっくり。当然のことながら簡単ではない。男性の性徴を抑え、人工的に女性の性徴を起こさせる、そして手術と長期間かかる。

ララは女性としても十分美しいのだが、どっちつかずの体の劣等感から心から笑うことができず、モナリザのような微妙な微笑みを顔に張り付かせている。それが哀れで見ていて辛い。ホルモン療法はなかなか成果が現れず、そのストレスと練習の疲れから倒れ、バレエスクールも休む、手術も先送りになるという厳しい結果が訪れる。

早く心身ともに女性になりたいと渇望するララは、とうとう自分のペニスをハサミで切り落とすという暴挙に出る。若者の気持ちの焦りに共感できるのでこの行動はある程度予想でき、それほどショックではなかった。病院で横になるララは、身体的にどれほどの痛みを伴おうとも、心は晴れ晴れしていたのではないかと応援したくなる。

主役を演じるのはバレエスクールに通う男子生徒だという。髪を伸ばし、口紅を引いた顔は美しい女性なのに、裸になるとまぎれもない、これも美しい男性の体なのが運命の残酷さを語っている。下半身露出シーンがあるけどあれはホンモノかな?

(追)撮影当時男子は15歳だったので、全裸シーンが問題になったらしいが、監督側が勝ってそのまま上映する事になったらしい。確かに鏡に映る自分の身体を見つめ苦悩する場面で、全裸は欠かせなかったと思う。

 

 


「凪待ち」

2019年07月01日 | 映画の話

 

慎吾ちゃんの映画を見てきました。慎吾ちゃんと呼ぶにはもう立派な中年のオッさんですが、とても良かったです。

慎吾ちゃんの役はギャンブル依存症で、周りの人を裏切ってはギャンブルにのめり込み、落ちるとこまで落ちで行くダメな男です。彼の体格の良さが生きていました。大男なのが、どうしようもない男なのにダメとわかっていても離れられない女の気持ちに共感させ、ダメ男のダメさを際立たせていました。広い背中は堕ちていく男の悲しみ物語っていました。

最後に一筋の光が差した終わり方だったのでホッとしました。

香取慎吾自身は「演技が苦手、役作りはしない、僕は素材、演出家に作ってもらう」と言っていますが、良い素材だと思います。今後の活躍も期待したいです。


「アマンダと僕」

2019年06月30日 | 映画の話

 

『姉の死後、姪のアマンダ(イゾール・ミュルトリエ)をどうするか友人に問われたとき、「子育てなんて心の準備ができていないし、頼る人もいない」と泣き出すダヴィッド。父親候補としては、かなり頼りない。そんな彼に、アマンダは2つのことを気づかせる。ひとつは、彼女がダヴィッドを必要としていること。もうひとつは、アマンダをいちばん愛している人間こそが彼女の保護者になるべきだということだ。「I need you」と「I love you」。生きるうえでいちばん大切なことは何かを、この映画はみつめている。

 随所にちりばめられた自転車のシーンが印象的だ。ドラマの前半、ダヴィッドと姉は、速さを競いあいながらパリの街中を疾走する。その姉の死の現場に、ダヴィッドはペダルを踏みこんで近づいていく。そして、母を失ったアマンダは、ダヴィッドが漕ぐ自転車の後部席で彼の背中にそっと頬を押し当てる。さらに、笑顔が戻った2人は、かつての姉とダヴィッドのように、スピードを競って川沿いの道を駆け抜ける。ここでの自転車は、喜びと悲しみのターニングポイントをつなぎながら、2人の人生のロードマップを描き出していく。走ることと生きることが一体になった構成が、とびきり清々しい。(矢崎由紀子)』

 

テロで女性の命が失われた時、残されたのはまだちょっと姉に頼っていた若い弟と7歳の娘、悲しみを共有しながら次第に家族になっていく過程が自然で好もしい。東京国際映画祭でグランプリを獲ったそうだ。

映画レポートのように自転車シーンが多く、パリの街並みがつぶさに見て取れる。ダビッドはアパートの管理人の仕事をしている。アパートといっても長期住居もあるが、旅行の際の短期滞在もある。私もフランス旅行の際アパートを借りてそこを拠点に歩き回ったので、その雰囲気が懐かしく、街の景色もその時が思い出されて本当に嬉しかった。

連なる屋根の上の無数の煙突はみんな赤く塗られていて......それを初めて見たときの感動を思い起こし、その場面だけで涙が出そうになった。