以前のブログに書いたように、アメリカの大統領選挙は基本的にスイング・ステーツといわれる州を押さえた候補が勝つようになっている。ほかの州は、選挙前からほぼ結果が決まっているからである。
ところで、スイング・ステーツでトランプ氏の支持率が急伸している。
RealClear Politicsというサイトが州別の世論調査の結果をまとめて公開しているが、スイング・ステーツの中でもとくに票が多いフロリダ州とオハイオ州そしてコロラド州でトランプ氏の支持率がクリントン氏を上回るとする調査結果が増えている。またミシガン州などこれまではクリントン氏で決まりと考えられてきたいくつかの州で両氏の支持率が近づくという事態も生じている。
クリントン氏の健康問題もあるのだろうが、これは果たして一時的な現象なのだろうか。
昨夜、CNNでトランプ氏の経済政策の演説を見た。
演説の骨子は、1)減税といろいろな規制撤廃によりGDPを年3.5%成長させる、2)アメリカから高賃金の仕事を国外に流出させたNAFTA(アメリカ、カナダ、メキシコの自由貿易協定)を見直す、TPPは認めない、3)中国など外国の為替操作、知的財産の侵害には断固たる立場をとる、といったもの。
3.5%の経済成長の見通しはあまりに楽観的だが、それより気になったのは演説でトランプ氏が、その日にフォードが数年内に小型自動車の生産をメキシコに移転すると発表したことを取り上げ、NAFTA見直しに話をつなげていたことである。
民主党を支持する労働組合はもともとNAFTAには強く反対していた。雇用が流出するという理由からである。トランプ氏の主張は、これとまったく同じものである。労働者のなかで、トランプ氏の主張に共感するものは少なくないと思う。ちなみに、フォードは小型自動車の生産を移管した後、もとの米国工場で利幅の大きいSUVの生産をおこなう予定で、この先、ガソリン価格が急騰しSUVが突然売れなくなるということがなければ(過去にはたびたび起こってきたが)、実際に工場が閉鎖されたり、雇用が減少することはないとされている。
一方クリントン氏は、こうした問題への感度が低いように思う。クリントン氏の最近の演説は、トランプ氏の人格批判ばかり目立つような感じで(そういう選挙戦略なのだろうが)、雇用流出をどうするかという問題意識は希薄なように感じられる。労働者のひとたちが、いまひとつクリントン氏に熱中できないのもうなずける。
演説を聞いて、トランプ氏の高支持の背景を少し理解できた気がした。これからも選挙の行方を注視していきたい。
2016年10月22日追記
トランプ氏の女性に対する暴言が暴露され、同氏にセクハラを受けたと訴える女性も多数出現。クリントン氏の優位が、全国そしてスイング・ステーツで拡大している。全3回のテレビ討論会もすでに終了。クリントン氏が倒れるなどよっぽどのことがないかぎり、クリントン氏の当選が確実な情勢となった。
2016年11月5日追記
今週、国務省から問題となったメールが公開されたが、問題がある内容は含まれていなかった。しかし、FBI長官がメール問題の捜査再開を公言したことで(サプライズがおこった)、クリントン氏にあたかも機密情報の漏えいなど大きな疑惑があるかのような誤ったイメージが拡散し、トランプ氏の支持が急伸。投票結果をみるまで、どちらが勝つかわからない状況になった。