現在、日銀は年間80兆円程度をめどに国債購入をおこなっているが、買い入れの限界に近づいていると思われるような兆候がでてきた。
2015年度、日本政府は借り換え分を除いて約52兆円の国債を発行した。これをすべて買っても80兆円にならない。したがって日銀が年80兆円国債を買おうとしたら、国債をすでに保有している機関投資家(年金基金、銀行、生命保険会社など)から残り(約30兆円)を買うしかない。
これに対しIMFは、2017年ないし2018年に機関投資家の国債保有残高はこれ以上減らせない水準にまで低下(国債をそれ以上売れない状態に達)し、日銀は政策の転換を余儀なくされるとするレポートを公表している。
その最初の兆候と思えるものが最近発生した。
日経新聞(2017/3/25)によれば、市場で国債不足が発生し、2017年3月24日、日銀は約1兆円の国債を売却した(一定期間後に買い戻す条件付き)。
その後も国債不足はおさまらず、結局、3月中に日銀は6.5兆円、4月にはいってもすでに9千億円もの国債を市場に売却(一定期間後に買い戻す条件付き)している(日経 2017/4/7)。
日銀が国債の大量買入れをおこないながら、その一方で大量の国債を貸し出すという異例の事態が生じているのである。
上記の日経は決算期のためとくに国債需要が高まったとしているが、それとは別に短期国債(1年以内)の不足が進んでいるようだ。日銀に加え外国人投資家が短期国債を大量に買い入れている。
フィナンシャル・タイムズ(2017/3/21)によれば、短期国債の発行額117兆円に対し、日銀と外国人投資家の保有高はそれぞれ50兆円と60兆円。国内の銀行、保険会社の保有はたったの7兆円にまで低下している(2010年には外国人投資家の保有割合はわずか15%だった)。
FT紙は、とくに外国人投資家が短期国債を買っている理由として、活発な通貨スワップ(外国人がドル・円の交換で得た円の待機場所として短期国債を買う)があると指摘している。
結局、今回の国債不足は決算や通貨スワップにからむ一時的な現象なのかもしれない。
しかし、いつかはわからないが、いずれ日銀の国債買い入れが限界を迎えるのは明らかである。
これからも日銀そして国債の動きを注視していきたい。
2017年5月4日(木)追記1
国債の品薄感がつよまっているため、日銀は国債の買い入れを縮小している。この状態が続くと、日銀の年間国債買い入れ額は60兆円程度にまで落ち込む見込(日経 5/1)。
ステルス・テーパリング(隠れた量的緩和の縮小)のはじまりかもしれない。
2017年5月4日(木)追記2
連休の谷間、長期国債の売買が細り1日半にわたって売買が成立しない(値がつかない)事態が発生。20年近く、このような事態はおこったことがなかった(日経 5/3)。
これもまた、日銀の国債買い入れが限界に近づいている兆候と思われる。
2017年6月30日(金)追記
2017年6月29日(木)にふたたび長期国債の売買が一日中成立しない事態が発生した(日経 6/30)。
2018年3月1日(水)追記
昨年末から朝日新聞や外国系通信社が伝えるところによると、日銀の国債買い入れは40兆円強にまで縮小している。
2018年3月14日(水)追記
3月13日(火)、8か月半ぶりに長期国債の売買が一日中成立しない事態が発生した(日経 2018/3/13)
2019/5/22追記
日経新聞によれば、2019年3月におこなわれた日銀の金融政策決定会合において「金融機関の国債保有額が資金調達の担保として最低限、必要な水準まで近づいている可能性がある」との発言があった。日経は、ここから日銀は2019年4月に銀行が日銀から資金調達する際の担保の要件を緩和することを決めたとしている。
2019/9/12追記
日経新聞によれば、日銀の2019年8月末における国債残高は1年前とくらべ24兆円増となり、異次元緩和をはじめる前の水準にまで低下していることが明らかになった。
日銀の国債爆買はいつまでもつのか (2016/9/12)