日本でも詳しく報道されているように、2019年6月7日(金)、アメリカとメキシコは不法移民抑制について合意し、メキシコへの関税は「無期限」で延期された。
今回メキシコは、(1)新たに6千人からなる国境警備隊を創設し、おもに南部国境に配置する、(2)難民申請者のうち申請が通る可能性がとくに低いと思われる人を、審査の期間、メキシコに戻して待機させる制度(MPP)を拡充する、ことで合意した(注1)。
なおアメリカが強く要求していた、(アメリカへの)難民申請者は最初に入国した国(ホンジュラスとエルサルバドルの人についてはグアテマラ、グアテマラの人についてはメキシコ)で難民申請をおこなわなければならない-つまり最初に入国した国にアメリカから強制送還される-仕組みについてはメキシコの強い反対で合意に至らなかった(注2)。
今回の騒動の発端は、アメリカにおける不法移民の急増。
この数年、アメリカで拘束される不法入国者数は年30万人から40万人の間にとどまっていたが、今年2月から拘束される人が急増。2019年度(9月が最終月)は拘束者数が100万人をこえる可能性がでてきた。
またトランプ政権が不法入国者とならんで問題にしているのが難民申請者。
米国務省(外務省)によれば現在、アメリカでは約80万人の難民申請者の審査がおこなわれているが、申請者が多いため審査には数年がかかっている。
アメリカでは、申請者が未成年をともなう家族の場合などは審査期間中アメリカ国内に滞在することが許可されてきたが、国土安全保障省はそのまま行方不明となるケースが少なくないとしている(注3)。
ちなみに2019年度は難民申請者のうち28万人の審査が終了し、そのうち3万人程度が申請を認められる見込みとされている(申請9人に1人程度の認定)。参考までに日本の状況をのべると、2018年の難民申請者数は10,493人。在留を認められたのは82人となっている(申請の1%未満)。
今回、ひとまず関税は回避された。
しかし、今回の合意では90日以内に追加対策について合意するとされている。
このため、今後90日間にアメリカへの不法入国者が顕著に減少しなかった場合は、追加対策をめぐってアメリカとメキシコの対立がふたたび激化する可能性も残されている。
しばらくアメリカとメキシコの関係に注意していきたい。
注1:アメリカとメキシコは2018年12月、難民申請者のうち申請が通る可能性がとくに低いと思われる人を、審査の期間、メキシコに戻して待機させる制度(MPP)について合意した。しかしメキシコ政府は受け入れに制限をかけており、制度開始から6か月間の受け入れは約8,500人にとどまっている。
なお、アメリカではMPPが国内法および国際法で難民に認められた権利を侵害しているとして、その差し止めを求める訴訟がおこされた。そして2019年4月9日、サンフランシスコの連邦地裁は、MPPを違法としてその難民申請者のメキシコへの移送中止を命じる判決を下した。しかし、2019年5月8日、第9連邦巡回控訴審(高裁)は、地裁の移送中止を取り消し、難民申請者のメキシコ移送を認める判決をくだした。最終的な判断は、連邦最高裁において下されることになる。
注2:アメリカとメキシコは、合意から45日後と90日後に不法移民抑制の実態について検証をおこない必要な追加措置を決定するとしている。このときまでに不法移民抑制が十分に進まない場合、あらためて「難民申請者は最初に入国した国で難民申請をする」仕組みが両国の大きな争点になるとみられている。
⇒ ウォールストリートジャーナルによれば、メキシコ政府は2019年6月14日(金)、協定締結(6/7)の45日後、不法入国者を減らせなかったとアメリカが認めた場合、「難民申請者は最初に入国した国で難民申請をする(safe third country)」仕組みを導入することをアメリカに約束していたことを明らかにした。
注3:実際は、難民申請の審査中に行方不明になる人はやや増加傾向にあるもの、けっして大きな割合ではない。UCLAロースクールのイングリッド教授らによる研究によれば、2001年から2016年にかけて拘束を解かれた難民申請者(家族)の場合、その96%が審査に出ているとされている。