先日、イーロン・マスク氏が所有するスペースX社は、世界最大のロケットであるファルコン・ヘビーの打ち上げに成功。燃料が足りずメイン・ロケットの回収には失敗したが、補助ロケット2基の回収にも成功した。
その一方で、マスク氏がCEOをつとめるテスラ社では、電気自動車モデル3の生産が遅れている。
リチウム電池に関係する生産ラインに大きなボトルネックが存在するとの指摘はあったが、これまでそれ以上のことは明らかにされてこなかった。
そうした中で私は、テスラは自動化を進めすぎて生産停滞を招いているのではないかとひそかに考えていた。
下はモデル3の生産ラインの動画。一見するとどこにでもある普通の自動化ラインにみえるが、実はかなり自動化が進んでいる。
Tesla Model 3 Production Line Automation
テスラの工場は、トヨタとGMの合弁企業NUMMI(ヌーミ)の工場を譲りうけたもの(大元はGMのフリーモント工場)。
しかし動画から、生産工程をかなり変えていることがわかる。
私はこれまで日本やアメリカでたくさんの自動車工場を見てきたが、この動画のようにシートやフロントパネルを完全自動で組付けしている工場はみたことがない。動画にでているのは、世界でもっとも自動化が進んだ生産ラインではないかと思う。
こうした中、フィナンシャル・タイムズ(FT紙)に私の考えを裏づけるような記事がでた。
FT紙によると、マスク氏は、リチウム電池を生産するネバダ州のギガ・ファクトリーの自動組み立てラインに問題があると明言。それに代わる新しい生産ライン設備が現在ドイツで試験中で、3月までに出荷される予定だと述べている。
マスク氏はこれにより、3月末までには週2,500台の生産が可能になるとしている。
またマスク氏は、週5千台の生産目標を達成するには、さらに工場内で部品を自動で各所に配達するコンベアシステムのソフト・ウェアの改良も必要だと述べている。
そしてマスク氏は、他の自動車メーカーは自動車生産にまだどれだけ改善の余地があるかわかっていない、現在の生産ラインのスピードはゆっくり歩くぐらいだが、これを時速30-40キロぐらいにすることができると述べている。
マスク氏は、究極まで生産の自動化を進めようとしているようだ。
しかしここで気になるのは、これまで自動車産業で自動化を徹底して推し進める試みはことごとく失敗してきたということである。
80年代、GMは低価格の日本車に対し、自動化を極限まですすめた工場で対抗しようとしたが、おもったように効率を上げることができず大失敗におわった。これは、ロジャー会長退任の一因になったともいわれている。
日本でもバブル末の1991年、トヨタが田原工場に自動化を徹底して進めた第4組み立てラインを作ったが、効率が上がらずほどなく休止となった(最近、破棄された)。
いろいろな理由が考えられるが、自動化を進めると、不良品の発生や機械の故障などさまざまな変化に(機械は)柔軟に対応することができないため、結局は生産効率が大きく損なわれることがあるのではないかと思う。
また日本の工場では、部品はかんばん方式により人が運搬している。部品をすべてラインに自動で運ぶという発想は以前からあるが(MRP方式など)、結局は人が運搬するのに勝る結果は出せていない。
テスラはこうした問題を解決するため、スペースX社の技術者を活用したり、生産自動化を支援するパービクス社を買収したりしているが、はたしてうまくいくのであろうか?
もしこの問題を解決することができたら、モデル3の大量生産をつうじて電気自動車の地球規模での普及をうながすだけでなく、自動車の生産方式にも革命的な変化をおこすことになるだろう。
マスク氏は、再利用できるロケットの開発など、これまで誰もが不可能だと思ったことを短期間のうちに実現している。
マスク氏がモデル3の大量生産に成功するかどうか、目を皿のようにしてみていきたい。
2019/3/28追記
その後、テスラは自動化の行き過ぎを修正する方向にうごいている。
たとえば動画にある全自動(無人)でのフロントパネルの取り付けは、両側で二人が補助する形に変更されたが、それであればほとんどすべての自動車メーカーがやっていることと同じである(むしろ全自動の投資をしている分だけテスラが非効率)。
また、テスラは仮設テントを使って工場建屋の隣にラインを新設。人海戦術で生産量のアップをはかっている(これは成功している)。
最近はマスク氏から、自動化を進め効率化を進めるという発言はとんと聞かれなくなった。
テスラは自動化を徹底的に進めることで、電気自動車を安価に生産するモデルを目指していたので、大きな方向転換だといえる。
他社の追い上げも進んでいるなか、今後、テスラがどのように生産効率の向上をはかっていくのか大いに注目される。