年俸制を導入した場合でも、実際の労働時間が一週又は一日の労働時間の法定労働時間を超えれば、原則として、割増賃金を支払わなければなりません。したがって、年俸制であることを理由として割増賃金の支払いを免れることはできません。
「原則として」とあるのは、労働基準法41条により、以下の労働者には、労働時間、休憩及び休日に関する規定が適用されないためです。
(1)土地の耕作若しくは開墾又は植物の栽植、栽培、採取若しくは伐採の事業その他農林の事業(林業を除く。)または動物の飼育又は水産動植物の採捕若しくは養殖の事業その他の畜産、養蚕又は水産の事業に従事する者
(2)事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者又は機密の事務を取り扱う者
(3)監視又は断続的労働に従事する者で、使用者が行政官庁の許可を受けたもの
割増賃金の支給が原則であること
労基法37は、同法32から32の5まで若しくは同法40の労働時間を超える時間の労働、同法35の休日における労働又は午後10時から午前5時までの間に従事した労働(以下「深夜労働」という。)に対して、割増賃金を支払うべきことを使用者に義務付けることによって、同法が規定する法定労働時間及び週休制の原則の維持を図るとともに、過重な労働に対する労働者への補償を行おうとするものであって、どのような賃金体系であっても、時間外、休日又は深夜の労働に対する割増賃金を支払わなければなりません。なお、当然のことながら、同法36①の協定によらない違法な時間外、休日労働であっても割増賃金を支払わなければなりません。
割増賃金の算定基礎額と年俸制
労基法37⑤では、「割増賃金の基礎となる賃金には、家族手当、通勤手当その他厚生労働省令で定める賃金は参入しない。」とし、労基則21では、家族手当及び通勤手当のほか、以下の5つの手当や賃金を割増賃金の基礎となる賃金には算入しないと規定しています。
(1)別居手当
(2)子女教育手当
(3)住宅手当
(4)臨時に支払われた賃金
(5)一箇月を超える期間ごとに支払われる賃金
ところで、年俸制における代表的な賃金の支払方法には、
①年俸額の12分の1を月例給与として支給する
②年俸額の一部を賞与支給時に支給するもの(例えば、年俸の17分の1を、月例給与として支給し、年俸の17分の5を二分して、6月と12月に賞与として支給する。)
があります。
問題は②の場合の賞与時の支給額が、割増賃金の算定基礎額に含まれるか否かですが、この点に関しては、②のような場合に「賞与として支払われている賃金は、労基則21条4号の『臨時に支払われた賃金』及び同条5号の『一箇月を超える期間ごとに支払われる賃金』のいずれにも該当しないものであるから、割増賃金の算定基礎から除外できない」との通達(H12.03.08 基収78)があり賞与時支給部分を含めて確定した年俸額を算定の基礎として割増賃金を支払う必要があります。
深夜労働の割増賃金
労基法41の各号に該当する労働者が適用の除外を受けるのは、労基法の第4章、第6章及び第6章の2で定められている労働時間、休憩及び休日に関する規定であり労基法37に規定される深夜労働に対する割増賃金の支払は除外の対象に含まれないと解され、労基法41の各号に該当する労働者が深夜労働に従事した深場合には割増賃金は支払わなければなりません。