(1)管理組合の財務会計に関する問題点
管理組合の財務会計については、多くの管理組合では管理事務を管理会社に委託しており、管理会社毎に定められた財務会計書式や会計処理方法で処理されている。また、管理事務を管理会社に委託していない管理組合では、事務局や会計担当理事などが独自の会計処理を行うことも多く、一部には、外部の専門家に委託していることもある。マンションの管理の適正化に関する指針(平成 13 年8 月1 日国土交通省告示第1288 号)では、管理組合の管理費及び特別修繕費等について、これらの費目を明確に区分して経理を行い、適正に管理する必要があることを定めている。しかし、この指針以外には、管理組合の会計基準の定めはなく、また、会計処理の統一性もないというのが現状である。公益法人又は特定非営利活動法人では、それぞれ、公益法人会計基準(昭和60 年9 月17 日公益法人指導監督連絡
会議決定)又は特定非営利活動促進法(第27 条)で会計原則が定められている。
(2) 管理組合会計の特性
管理組合の会計は、既存の「公益法人会計」や「企業会計」にはない、次のような特性
がある。
① 管理組合の業務の目的は、利益を追求する企業とは異なり、共用部分の維持管理を適
切に実施することにある。このため、管理規約に定められた業務を収支予算の範囲内で実施することが必要であり、予算と実績を適正に管理することが重要である(予算準拠の原則)。
② 管理組合の業務には、日常の維持管理、大規模な修繕工事、その他駐車場や駐輪場な
どの管理がある。それぞれの業務には収支が伴うため明瞭に会計処理される必要がある。特に、大規模な修繕工事のためには修繕積立金を定期的に積み立てていくことが必要であるため、修繕積立金会計を管理費会計と区分して管理する必要がある。
③ 管理組合は、マンションの規模、利用形態、団地型管理組合、管理形態、そして法人格の有無など様々な形態があり、資産の規模も異なる。しかし、企業会計や公益法人会計などで採用されている一般原則(正規の簿記の原則、真実性の原則、明瞭性の原則、継続性の原則)は、管理組合会計の基本原則にも適用されるべきものと考えられる。
④ 管理組合の財務会計についての書類や情報の引継ぎは重要である。特に、管理組合で
は、役員の任期が短い場合が多く、財務会計についての知識が十分でないことが多い。また、財務会計についての書類や情報は、一般の組合員に提供されるべきものであるが、正確性を担保した上で、「わかりやすい」情報提供の方法が必要である。
(3)会計書類の整備
管理組合は、会計帳簿に基づき収支状況及び財務状況を正確に反映した会計書類を整備す
る必要がある。理事長は、通常総会において、新会計年度の収支予算案を提出するとともに、収支決算案を監事の会計監査を経て報告し、総会の承認を得なければならない。このため、収支予算書、収支計算書及び貸借対照表を作成するとともに、必要に応じて、財産目録及び附属書類を作成する(管理組合法人は、区分所有法で財産目録を作成することを義務付けられている。)。また、理事会等においては、毎月の収支を確認し、未収金を管理する必要があることから、未収金明細書及び月次収支計算書を整備する必要がある。
① 収支予算書
収支予算書は、管理規約で定められた業務を行うため、翌会計年度の収入と支出を見積もり、収入予算と支出予算を一覧表にまとめたものである。その内容は、次のとおりである。・ 翌会計年度に予定される収入と支出の内容と金額を表示すること。・ 管理費会計(一般会計)及び修繕積立金会計(特別会計)に区分して作成すること。・ 経常的に発生する費用と、臨時で発生する予定の費用を明示すること。また、必要に応じて、駐車場、駐輪場、集会施設等の施設使用料を管理する特別会計を設けることもできる。収支予算書は、毎年、通常総会で承認され確定することになるが、確定した収支予算は管理組合の事業計画の基礎となる。したがって、収支予算書に準拠して管理組合の事業(計画)が執行される必要がある(予算準拠主義)。
② 収支計算書
収支計算書は、一定期間における管理組合の収入と支出の状況を示した会計書類である。
収支予算書に基づく管理組合の業務執行の結果が収支計算書に反映されるので、勘定科目
は基本的に収支予算書と一致させる。その内容は、次のとおりである。・ 会計年度における収支の内容、その結果の収支尻がどうであったかを表示すること。・ 原則として、記帳方法は発生主義とすること。現金主義の場合はその旨を表示する必要があること。・ 収支計算書は、収支予算書との対比がしやすいように、書式、勘定科目などが同じであることが望ましいこと。・ 管理費会計と修繕積立金会計などを区分して経理すること。なお、管理組合としては、予算の適正な管理を行うことが重要であることから、月次収支計算書などで月次ごとに予算に対する収支実績を確認することも必要と考えられる。
③ 貸借対照表
貸借対照表は、会計年度末現在において、管理組合が所有している資産及び負債、正味
財産の状況を示したものである。その基本事項は、次のとおりである。・ 資産-負債=正味財産・ 借入金がある場合の借入金残高については、負債の欄に借入金残高を計上する。・ 管理費会計及び修繕積立金会計などの貸借対照表は、別表にして作成することが望ましい。管理費会計及び修繕積立金会計などの貸借対照表を一表で作成する場合でも、それぞれの会計の貸借対照表に区分することができることが必要であると考えられる。
④ 財産目録及び什器備品台帳
財産目録は、管理組合の資産及び負債を科目ごとにそれらの金額を表したもので、前年度との比較をすることもできる。管理組合法人の場合には、法律上、作成する義務がある。一方、什器備品台帳とは、管理組合が所有する事務机、椅子、収納キャビネット、コピー機械、テレビなどの什器を管理するための台帳である。通常、什器備品ごとに、取得した年月日、金額などを明示する。
⑤ 未収金明細書
未収金明細書は、会計書類の附属明細書として位置づけられる。該当する期間の末日に、
管理費や修繕積立金の受け入れがない金額を計上するもので、未収金明細書により、滞納
者への対応を行うことができる。未収金明細書は、重要な管理資料として作成が必須と考えられるが、決算資料として管理組合の通常総会で組合員へ報告する場合には、プライバシーの侵害にならないよう配慮する必要がある。
(4) 会計監査の実施
一般に、管理規約により監事を定めて、会計監査を行うことが重要である。標準管理規約
では、「理事長は、毎会計年度の収支決算案を監事の会計監査を経て、通常総会に報告し、その承認を得なければならない。」としており(中高層共同住宅標準管理規約(単棟型)第56
条)、総会への報告にあっては監事の会計監査を経る必要があると考えられる。一方、管理組合法人では、監事は必須の機関であり、法人の財産の状況を監査する義務がある(区分所有法第50 条)。監事が作成した監査報告書の中には、収支計算書の欄外に適正に処理していた旨を付記する場合がみられるが、監査の目的から別様に作成することが望ましい。