送電鉄塔の見える場所

稜線の向こうに消えてゆく鉄塔の列はどこへ続いているんだろう

もうひとつの苓北火力線

2010-09-28 11:14:22 | 苓北火力線
    
                             現在の苓北火力線と旧206号

2002年12月、苓北火力線は220kVから500kVに昇圧されて新設の中九州変電所に引き込まれるようになった。
その時に延長された電線路を踏破し、この先は開設当時からの部分に踏み込んでいく。でもその前に見ておきたいものがある。
それは役目を終えた後も以前のままの姿で残っている廃線の鉄塔たち。

 

元の最終鉄塔だった旧211号。番号札に記載されている建設年月が1995年2月だ。札自体にもちょっと年季が入ってる感じ。
道路際なので柵に囲まれていて番号札までが遠い。ちょうど陰の側で光量も不足気味だし。きれいに写らなかった。  ̄△ ̄;
見上げるとこれまで見てきた苓北火力線の鉄塔より碍子連がずっと短い。それで全体がこじんまりした印象になってるのかな。
真ん中で打ち切られたジャンパ線が宙を泳いでいて・・・切ないなぁ。
その先は画面で言うと左側へ続いていたようだ。今は南熊本緑川線が出ている中央下の画像の左の鉄構に入ってたんだろうか。
若番側へは送電線が続いている。この電気の通わなくなった電線路をたどってみよう。

 

210号は畑に囲まれた場所だった。意外に荒れてなくて結界にも簡単に入れた。
眠っている鉄塔からはどんな音が聞こえるのか、興味が湧いて目の前の斜材に耳を寄せた。伝わってきたのは音じゃなくて振動。
鉄塔がぶるぶる震えている。かなり強い風が吹いていたけどこんなに揺れるとは。鉄塔にかかる風の力ってすごいんだな。
主柱にも耳を付けてみた。さすがに震えてはいなくて風の唸りが響き渡っていた。自分が風を感じるより一呼吸早く音が来る。
鉄塔と送電線には地上までは届かない風も吹いている。これは空の世界に属してるものなんだ・・・。

 

次の209号はすぐ近くだけど山の中。道は大丈夫なのかなぁ。廃線になってからもう8年経つ。標柱は今でもアテにしていいのか?
まだ登りにもかからないうちから溜池の縁で道が崩れ落ちていたり。やれやれ。木に掴まりながらどうにか跨ぎ越してクリア。
積もった落ち葉からところどころ覗いている階段を追っていると木の間から鉄塔の脚が見えてきた。
予想通り結界に木が生えている。花屋なんかで売ってる鳥かご入り観葉植物の超巨大版だ。結界中心には到底入れない。
上が見えるのは右の画像の位置が限界だった。まあそんなもんか。あと5年・10年経ったらどうなっちゃうのかね。

  

「この調子ならなんとかなるかな」と次へ向かうと途中で道は竹林の中へ。うわ、ヤバいかも。
竹林は鬼門だ。大量の落ち葉が積もっていて踏み跡が付かない。どの方向にもほぼ等間隔に無個性な竹が生えている。
以前に他の山で道を見失ってぐるぐる歩き回ったあげく山の反対側に降りてしまったことがあった。
傾斜の急なうちは階段を探して行ける。平坦な場所に出てから続きが分からなくなった。鉄塔があるはずの方向へ強引に行くか。
竹林の途切れた先に208号の姿。よーし、いいぞ。・・・と思っていたら鉄塔の敷地より少し上に出てしまった。腰まで伸びたシダの
斜面を降りるんかい。足元がまったく見えない。ヘビでもいたらイヤだなー、急に崖になってるとか言わんよなー。
元は敷地の端とおぼしき薮の中に傾いた標柱があった。巡視路の標識じゃない。「九州電力(株)」の文字が見える。
あー、あれだ。現206号への巡視路の脇にたくさん置いてあったやつだ。「境界標」だったっけ。何の境界?

 

208号の結界にもやっぱりいろいろ生えてはいたけど入り込めないというほどではなかった。まだかろうじて上も見えている。
それにしても鉄塔自体が傷んでなくても植物に呑まれかかってるとがぜん廃墟っぽい雰囲気が漂うね。夏草や兵どもが夢の跡。
「絶縁架空地線設置」の表示が掲げてある。これも207号も紅白じゃないから206号の航空障害灯用だったんだろう。
さて、ここからどうするか。次へ向かう道があるようには見えない。
たしか山の向こう側で207号の標柱を見掛けた。また竹林を通るのは気が進まないけど仕方ない、引き返そう。
問題の場所も戻り道では迷わなかった。これさー、竹林の画像の真ん中の隙間が正しい道だなんて分かるわけないでしょうが!

 

207号へは車で行ける道が通じていた。かなり怪しくなってたけどまだ大丈夫。結界も大丈夫そう、と思ったけどちっと危ういな。
どこも中央に木がある。脚の周りは基礎が入ってるから根が伸ばしにくいのか。ピラミッドパワーってことはなかろう(古い!)w
本当の中心に立つと上部が見えないのでビミョーにずれた結界画像。繁みの内外で光量差もかなり。来年はもう撮れないかも。
こういうのって毎年の写真を残しておくと興味深いんだろうけど年々荒れていくであろう山道を行かなきゃいけない・・・うーん。
これも絶縁架空地線設置鉄塔だった。やはり206号まで連続らしい。

       

いよいよ206号へ。梨畑の先に巡視用の車道が「あった」。過去形だ。今は落石で塞がっている。徒歩なら問題ないが車は無理。
谷あいで陽が射さないのでコンクリート舗装が苔の絨毯に変わっている。かなりの急坂だ。滑らないよう慎重に歩かないと。
敷地は開けていて明るくてさほど湿気も感じなかったけど紅白の鉄塔は妙に苔むしていた。霧が溜まりやすい地形なんだろうな。
ここは下草くらいしかなくて各脚を見て回るのが楽でいい。「静電誘導式航空障害灯設置鉄塔」。うんうん。
現在は電流が来ないから点灯不能。航空障害灯は運用中であろうがなかろうが鉄塔が建っている限り点けなくてはならない
ものだけど、ここは近くに現206号と204号があるから問題ない。(たぶん。規定をよく読むと両端の鉄塔の頂上を結ぶ直線から
150m以内とか3/5勾配以内とかあって、ホントに当てはまってんのか?と思うけどほじくるとキリがないのでいずれどこかで。)

 

あてもなく風の中を漂っているような、切られてしまった電線の端は何度見ても哀しい。
この鉄塔たちに新しい路線が架かり再び電気が送られてくることはあるんだろうか。それともいつか解体されてしまうんだろうか。
最初から期限付きで生まれてきた鉄塔群。
運用中の500kV鉄塔と比べると幾分小柄な気がする。でも一般的な220kV鉄塔とはまるで違う。
もうしばらくはその姿を見ていられるのかな。