映画と渓流釣り

物忘れしないための処方箋

向う側にあるという理想郷に辿り着いたのか ビヨンド ユートピア

2024-01-30 21:28:00 | 新作映画

命をかけて脱北し、ようやく人心地のつく場所まで逃げてきた  
それなのに、老女も幼子も史上最悪の指導者を正義として崇めている
あんなにも辛く酷い経験をしてきたというのにも

人は一体何を信じて生きて行けば良いのか
わたくしには分からなくなってしまった
国そのものが監獄だと言ってた人も出てきたから、きっとその通りなんだろう

苦しい逃避行の末、ソウルのマンションの一室に辿り着いた家族はそれでも故郷を懐かしむ
生まれ育った国を捨てるのは、その場所を否定することではないんだ
そんな国にしてしまった指導者を作り上げたのは誰だ

我々日本人も半島を統治していた時代があるのだから、少なからず要因の一端を担っている

何人かの脱北者にインタビューしているけど、誰一人として「自由を求めて」国を捨ててはいない
究極の地獄から逃避するためだったり、死を逃れるための決断の末であったりする
所謂亡命とは違うし、ボートピープルのような希望を求めた脱出とも違うように思える

このドキュメンタリーでは主に2組の話が中心に語られる

80歳のお婆ちゃんとまだ幼い女の子二人を抱えた五人家族が、白頭山から広大な中国を南下しベトナム・ラオスを経由しタイまでの道のりを闇に紛れて進む姿。極め付けのジャングルを10時間彷徨いながら自由の地へ辿り着く様は、作り物の薄っぺらさがないので緊迫感溢れる映像だ

もう一組は、そこに置いてきた息子を脱北させようと画策する母親に焦点を当てる。もう一歩のところで息子は送還され、ブローカーにお金を積もうがもう二度と会うことの叶わない収容所送りになるまでが淡々と描かれる。電話のやりとりだけの映像なのに、母が子を思う切実さに涙を流さずに観ることはできなかった

どちらの脱北にも関わっているのが韓国の牧師
布教中に北朝鮮で働く女性と恋仲になって脱北させた過去をもつから、神に仕えるためだけに身を呈しているわけではないように思える。もっと人間臭い根っこのところに強さを感じる。本来なら国連とかがやらなきゃならないことを、一握りの個人が行なっている事実に心沈む思いだ


同じアジアの東端に生まれたのに、生まれ落ちた地が多少違っただけでこれ程までに生き方が変わる
そんな無力感に苛まれながらも、果たしてわたくしたちはユートピアに住んでいるのかを問われる
人として最低限の生きる保証はあるけれど、ここが幸せな地だと毎日感謝できている人がどれほどいよう

この先、逃げのびた五人家族の幼い姉妹が成長するに従って、日々の幸せに膿んだりしないだろうか
昨日より今日の方が幸せだと感じられる日々がいつまで続くのか
人の欲はとどまることを知らない

いつまでも向こう側にあるという理想郷を求めて彷徨うのが人の性なのか
単なる脱北家族の真実を伝えるだけのドキュメントではない奥深さに平伏す




あとは静かに祈るだけ

2024-01-27 21:55:00 | お遊び

横浜ベイクォーターでシュラスコ食べ放題
と言っても、全く元なんぞ取れるほど食べられやしません
暫くお肉は要らないかな

さぁて、
あいみょん2024ー2025ライブツアー申し込みましたよ

幕開けの千葉公演×2
東京有明アリーナ×2
本命の横浜Kアリーナ×2

神さま
この老い先短いオトウサンの願いを叶えてください

「今年はKアリーナであいみょんに逢えますように」





カラオケ行こ! 2024年映画始め

2024-01-15 15:26:00 | 新作映画

今年初めての映画鑑賞です

監督山下敦弘、脚本野木亜紀子と聞いて食指の動かない映画ファンはいないでしょう
実はこのコンビ、テレビドラマ「コタキ兄弟と四苦八苦」で組んでいました
思い起こせばヒロインは芳根京子でした!だからこの作品での彼女は誰よりも生き生きしていたんですネ



ヤクザ達に歌のレクチャーするシーンはわたくしだけじゃなくて観客皆んなが大笑いしていました。小ネタのキティちゃんの彫り物はめちゃくちゃ面白く、暫くその絵を見ると笑いが止まらないほどでした
それなのに全体的には湿っぽい後味が尾を引き、新春笑い始めとはならなかったのです

原作がそうなっているんでしょうが、声変わりが始まった合唱部部長の男の子とヤクザの若頭代理の二人に焦点が当たり過ぎて息苦しさを感じてしまいました。ヤクザも合唱部の中学生も5vs5の団体バトルなら枝葉が伸びて絶対面白くなったと思います。野木亜紀子はそんな脚本の方が実力を発揮できる作家だし、山下敦弘監督もシリアスな話よりゆる〜い笑いを得意としているのだからプロデュースのミスでしょう

それにしても綾野剛は黒装束だと色気がありますね
良い役者です
中学生の男の子、頑張ってました。将来有望な役者になりそうです
齋藤潤、覚えておきましょう

ただこの映画で記憶に残るのは前述したように、芳根京子の山下演出にドップリ浸かったユルサでした。矢口監督作品「スウィングガールズ」の白石美帆演じる音楽教師に通じるホッコリさがあって、可愛らしかったですね

面白かったのですが、なんだか中途半端な作りになってしまい、期待したほどのことはありませんでした












紅白歌合戦について日本放送協会に聞いて欲しいこと

2024-01-15 15:25:00 | 歳時記雑感

メディアは未だ視聴率の事で紅白の存在意義を云々しているけど、もう視聴率が上がった下がったの話はどうでも良くて、折角年間20,000円くらいのお金を払っているのだから前向きにこうした紅白が観たいと意見をしよう

演歌を敵視するような演出はやめたほうがいい
けん玉とかドミノとかは歌い手に失礼でしか無い。そんなんで連続出場させても誰のため?
このご時世、演歌のヒット曲は難しいからどうしたって往年の名曲の再演になるのは仕方ない。それなら年代別の名曲特集や歴史的な意義ある曲や作家の特集コーナーをやってもらうのはどうだろう
Z世代だって良いものは絶対分かるのだから、日本の歌謡史としての意味も踏まえた企画コーナーを設けてほしい
今回もウクライナの伝統的な楽器とコラボした津軽海峡は聞き応えがあった

K−POPが悪いわけじゃない
現在のグローバルチャートを席巻しているのは事実。それでも、安直に呼びやすいからといって一辺倒になるのは頂けない。NHKなんだから、世界の各地域から代表的な歌曲を集めてほしい。クイーンだけじゃなくて、アフリカにも南アメリカにも中東にだって有名な歌手はいるはずだし、其処此処での大ヒット曲を披露するようなお祭りこそがボーダーレスと違うだろうか
おんなじ顔の男の子や女の子たちに画一化された踊りとビートで見せられても、それはビヨンセとかの二番煎じにしか感じられなくて興ざめ。唯一、New Jeansはアジアの女性が持つ可憐さを見せてくれて面白かった

あの忙しなさも紅白のリズムだから一概に否定するつもりはないけど、じっくり一年を振り返る時間は必要だろう
それは本道であるその年を代表するヒット曲のお披露目であるわけだが、一世を風靡しこの世を去った偉大な作家や歌手をトリビュートする時間をとってほしい。2023年であれば谷村新司(アリス)、坂本龍一(YMO)を追悼すべきだった。暮れに亡くなった八代亜紀は間に合わなくとも、次回75年目の紅白では日本歌謡史における検証時間は欲しい
JUJUの歌った時の流れに身をまかせという歌が、亡きテレサ・テンの代表曲だということを若い人は知らないかもしれないし、全キャン連のおじさま達の熱狂的な応援の中メドレーを聞かせてくれた伊藤蘭(キャンディーズ)の歴史的意義も触れることで、今のJ−POPの立ち位置も炙り出てくる

これも毎年のことだが、ディズニーよりジブリや日本アニメの披露こそが世界に向けて日本の公共放送であるNHKがやるべきことだと思うのだけど、皆さんどうだろう?
韓国のように国を挙げて文化輸出をしたほうがいいとは思わないけど、世界のあちこちで日本の文化を楽しんでいる人たちはいるのだから、積極的にアピールすべきだと思う。日本国内の視聴率に拘っているより、全世界の数多の人に配信されて楽しんでもらってナンボだと思うけど。その意味ではYOASOBIのアイドルに東アジアの偶像(idol)が集い歌い踊る姿は今回のテーマとも相まって白眉なシーンだった

個人的にはあいみょんが歌う愛の花に涙する浜辺美波ちゃん 
おじさん、キュンとしたのだけどね









2023 マスクなしでの映画BEST10

2024-01-04 09:52:00 | 映画ベストテン

新年早々辛い出来事ばかりで、嫌な2024年の幕開けとなりました
ここからは良いことの多い笑顔の一年になりますように

2023年を振り返って、好きな映画を並べてみました


❶愛にイナズマ
ほぼ同時期に公開された「月」の方が目立っていたし、実際わたくしも期待していたのだが思っていたのと違っていたため、やっぱり石井監督とは相性が悪いんだろうと諦めていた。だからあんまり期待していなかったんだけど、この家族映画には心底惚れてしまったのだ。どれ程汚い言葉で罵り合っても血縁の絆は太く強いことが描かれた

❷福田村事件
地震の多いこの国において関東大震災の教訓は長らく語られてきた。その中のひとつが流言飛語に気をつけろ
この映画は隠された日本人の差別意識を曝け出すことで、今でも行われているヘイトの意識を炙り出そうとした。一人一人は優しくて思慮深い人でも災害時の環境の中では、大多数の人が信じる方へ向かってしまう恐ろしさを痛烈に描写している

❸すべてうまくいきますように
個人主義の国フランスでも肉親の死は我々日本人と同じ感情で捉えているんだと、変なところで感心した。まあ、それでも父親の尊厳死を理解し認めて行くところはなかなか日本では難しいなとも感じる
人は生まれてくることは自分では選べないけど、死んで行くことは選択する能力があることもこの映画で知ることになる

❹市子
戸籍を持たないままこの国で生きて行くのは辛いことなんだろうなと思うけど、親の勝手でそんな負目だらけの人生を押し付けられるのはたまったもんじゃない。根底にあるのは貧困、それを引き起こす教育とか介護とかの環境の劣悪さ。日本は一人で生きて行くには充分豊かな国だけど、家族の誰もが笑っていられる国ではないようだ

❺怪物
是枝監督がこのところ新しい映画作りに挑んでいると感じていたが、この作品では脚本を他人に任せるという挑戦が正解か否かは判断できなかった。光の刺す草原へ駆け出して行く子供たちに、希望を感じるのか悲しい結末の暗示と捉えるのかは観客の感性に委ねられた。わたくしは無邪気な喜びとしてこの映画に寄り添うことを選ぶ

❻こんにちは、母さん
山田洋次の母三部作が完成したように思う。これまでの二作はそれほど感心できなかったけど、吉永小百合を神格化することなく下町の老婦人として描くことでようやく日本の母親像が心に響いた。現在進行形の日本社会とのズレは感じてしまうものの、人と人の繋がりを描く才は衰えることなく一流の職人技を楽しませてもらった

❼フェイブルマンズ
これもスピルバーグの母親に対する複雑な感情を織り交ぜながら、自分史に取り組もうとした作品となった
自伝的要素の高い作品なので、監督がどの様に映画に魅せられてのめり込んでいったのかも分かる。わたくしの個人的な感想として、ジョン・フォードとのエピソードは無くてもいいんじゃないかとも思う

❽PERFECT DAYS
役所広司は本当にいい役者なんだと再認識させてくれた。ドイツ人の目から見た東京の街は綺麗なんだということもなんだか新鮮な発見。毎日が同じことの繰り返しで、過ぎて行った一刻を振り返ることなんてないけど、その一日も微妙に違う特別で完璧な日々なんだとヴェンダースは教えてくれた

❾君たちはどう生きるか
やっと宮崎駿がジブリという足枷を断ち切って自分のやりたい事だけをやれたのじゃないかな。本当にこれが最後になりそうだからより一層思うのだけど、死後の世界を描くことに注力しているようだ。そしてこちらもファンタジー色がかなり強いけれど、自伝的なエピソードが散りばめられている。少年時代への郷愁は歳とともに強くなるのか

❿非常宣言
韓国の航空機パニック映画。この手の映画のお約束は、多少の犠牲を出しながらハラハラさせられるけど最後はメデタシメデタシの結末なんだけど、欧米人のメンタルと違うのは自己犠牲を美徳とするアジア人の崇高さだと思う
自衛隊が旅客機に攻撃する描写など荒唐無稽な部分もあるけれど、涙しながら最後まで楽しめるエンタメ

次点
最後まで行く
生きる LIVING
君は放課後インソムニア
せかいのおきく


監督  石井裕也「愛にイナズマ」
脚本  上村奈帆、戸田彬弘「市子」
女優 ミシェル・ウィリアムズ「フェイブルマンズ」
男優 役所広司「PERFECT DAYS」


ここからは恒例の奥様ベスト10
今年は高校三年生、我が家のペットたっくんも参加しました



家族といえどもここまで違うのはすごいですね
たっくんがちゃんと映画を観て感じていることが親としては嬉しいのです

今年も元気に映画館通いができますように