それなのに、老女も幼子も史上最悪の指導者を正義として崇めている
あんなにも辛く酷い経験をしてきたというのにも
人は一体何を信じて生きて行けば良いのか
わたくしには分からなくなってしまった
国そのものが監獄だと言ってた人も出てきたから、きっとその通りなんだろう
苦しい逃避行の末、ソウルのマンションの一室に辿り着いた家族はそれでも故郷を懐かしむ
生まれ育った国を捨てるのは、その場所を否定することではないんだ
そんな国にしてしまった指導者を作り上げたのは誰だ
我々日本人も半島を統治していた時代があるのだから、少なからず要因の一端を担っている
何人かの脱北者にインタビューしているけど、誰一人として「自由を求めて」国を捨ててはいない
究極の地獄から逃避するためだったり、死を逃れるための決断の末であったりする
所謂亡命とは違うし、ボートピープルのような希望を求めた脱出とも違うように思える
このドキュメンタリーでは主に2組の話が中心に語られる
80歳のお婆ちゃんとまだ幼い女の子二人を抱えた五人家族が、白頭山から広大な中国を南下しベトナム・ラオスを経由しタイまでの道のりを闇に紛れて進む姿。極め付けのジャングルを10時間彷徨いながら自由の地へ辿り着く様は、作り物の薄っぺらさがないので緊迫感溢れる映像だ
もう一組は、そこに置いてきた息子を脱北させようと画策する母親に焦点を当てる。もう一歩のところで息子は送還され、ブローカーにお金を積もうがもう二度と会うことの叶わない収容所送りになるまでが淡々と描かれる。電話のやりとりだけの映像なのに、母が子を思う切実さに涙を流さずに観ることはできなかった
どちらの脱北にも関わっているのが韓国の牧師
布教中に北朝鮮で働く女性と恋仲になって脱北させた過去をもつから、神に仕えるためだけに身を呈しているわけではないように思える。もっと人間臭い根っこのところに強さを感じる。本来なら国連とかがやらなきゃならないことを、一握りの個人が行なっている事実に心沈む思いだ
同じアジアの東端に生まれたのに、生まれ落ちた地が多少違っただけでこれ程までに生き方が変わる
そんな無力感に苛まれながらも、果たしてわたくしたちはユートピアに住んでいるのかを問われる
人として最低限の生きる保証はあるけれど、ここが幸せな地だと毎日感謝できている人がどれほどいよう
この先、逃げのびた五人家族の幼い姉妹が成長するに従って、日々の幸せに膿んだりしないだろうか
昨日より今日の方が幸せだと感じられる日々がいつまで続くのか
人の欲はとどまることを知らない
いつまでも向こう側にあるという理想郷を求めて彷徨うのが人の性なのか
単なる脱北家族の真実を伝えるだけのドキュメントではない奥深さに平伏す