一日の王

「背には嚢、手には杖。一日の王が出発する」尾崎喜八

映画『殺さない彼と死なない彼女』 …桜井日奈子と恒松祐里と堀田真由と箭内夢菜…

2019年11月18日 | 映画


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2年前の夏に、ネットで、
『逆光の頃』(2017年7月8日公開)という映画の、


予告編を見て、その美しい映像に魅せられた。


そして、
〈本編も見たい!〉
と思った。
だが、佐賀での上映館はなく、
福岡まで見に行こうと思っているうちに、(福岡でもKBCシネマ1館のみの上映だった)
いつしか上映期間を過ぎてしまっていた。
その『逆光の頃』の小林啓一監督の新作が公開された。
それが本日紹介する『殺さない彼と死なない彼女』(2019年11月15日公開)なのである。
桜井日奈子、恒松祐里、堀田真由、箭内夢菜という、
将来が期待される(私としても期待している)若手女優がキャスティングされており、
「鑑賞する映画を出演している女優で選ぶ」主義の私としては、
そういう意味でも、
〈見たい!〉
と思った。
上映館を調べてみると、
やはり(いつものごとく)佐賀での上映館はなく、
福岡でも
T・ジョイ博多
T・ジョイリバーウォーク北九州
T・ジョイ久留米
の3館のみだった。
〈今度こそ見逃さないぞ!〉
と意気込み、(笑)
公開2日目の11月16日に、
佐賀から最も近いT・ジョイ久留米へ駆けつけたのだった。



何にも興味が持てず退屈な日々を送る男子高校生・小坂れい(間宮祥太朗)は、


ある日、教室で、
殺されてゴミ箱に捨てられた蜂の死骸を拾っている鹿野なな(桜井日奈子)に話しかける。


ネガティブでリストカット常習犯の鹿野だが、


虫の命は大切に扱う彼女に興味を持ったからだ。
蜂の死骸を紙の上に乗せ、教室の外へ運び出した鹿野は、


それを花壇に埋葬する。
アイスの棒に「ハッチ」と書いて墓標にしてくれた小坂に、


見かけとは違った優しさを感じた鹿野は、
次第に小坂に心を許すようになる。


「殺すぞ」「死ねよ」が口癖の小坂と、
「死にたい」が口癖の鹿野。
互いに本音で話すうちに、
一緒に過ごすことが当たり前になっていく二人。
だが、ある事件が起き……




原作は、SNS漫画家・世紀末によるTwitter発の人気コミックで、


なんと、四コマ漫画。


漫画が原作で、
『殺さない彼と死なない彼女』という“いかにも“なタイトルで、
間宮祥太朗と桜井日奈子のダブル主演と聞けば、
誰しも、ラブコメやキラキラ青春ドラマを想像することだろう。
だが、その内容は、(イイ意味で)まったく違っていた。
クスッと笑えるシーンはあるが、ラブコメではないし、




美しいけれど、キラキラはしていない。


詩的で、哲学的で、ファンタジーの要素もある。
鑑賞後も、いつまでも心に残る映画であったのだ。

間宮祥太朗と桜井日奈子のダブル主演ということで、
二人が演じた小坂と鹿野の物語だと思っていたのだが、違っていた。

小坂れい(間宮祥太朗)と鹿野なな(桜井日奈子)、


地味子(恒松祐里)ときゃぴ子(堀田真由)、


撫子(箭内夢菜)と八千代(ゆうたろう)。


この3組の物語であったのだ。

原作を読んで、映画化の可能性をすごく感じました。きゃぴ子と地味子、君が代ちゃんと八千代くんの話と「殺さない彼と死なない彼女」も併せてすべて一つの物語にしたら面白いんじゃないか、と全体の流れがすぐに思い浮かびました。一本の映画のなかで三組を動かそう、と。(公式HPの監督インタビューより)

脚本も担当した小林啓一監督はこう語るが、
その物語構成が見事だった。
前半は、この三つの物語が同時進行で展開するのだが、
後半、ある事件をきっかけに、この三つの物語が微妙に交差するようになる。
(ここで少しネタバレするが……)
それぞれの物語が同時進行のように見えながら、
時間軸が異なっていたことに気づかされる。
前半で違和感を抱いた部分が、
後半で、
〈ああ、そういうことだったのか!〉
と、納得させられる仕組みになっているのだ。
こう書くと単なる“謎解き”のようだが、それは早合点というものだ。
原作が四コマ漫画ということもあって、
いくつもの物語、いくつものエピソードを繋ぐために“謎解き”の要素が加味されているのだ。
前半に張られていた伏線が、
ラストに向けて回収されていく過程は、爽快感をおぼえるほどだ。
と同時に、心を揺さぶられ、視界がかすむ人もいることだろう。
そう、本作は、かなりの感動作なのだ。
私も何度か涙を拭った一人だ。
〈久留米まで映画を見に来て良かった!〉
と、心の底から思った。



鹿野ななを演じた桜井日奈子。


2014年に「岡山美少女美人コンテスト」で美少女グランプリを獲得し、
2015年に出演したLINE MUSICのティザームービーで、
「岡山の奇跡」と称され、注目を浴びたことは有名だが、
その頃は、私個人としてはそれほど魅力を感じなかった。
それが、今年(2019年)の1月、何気なく深夜のTVドラマを観ていたときだった。
それは『僕の初恋をキミに捧ぐ』(1月19日~3月2日)というドラマだったのだが、


このドラマに出演していた桜井日奈子に目が釘付けになった。


4~5年前のイメージとはかなり異なっていて、
かつての酒井若菜のような魅力的な女性になっていたのだ。
以来、彼女の出演作はなるべく観るようにしていたし、
主演作の映画『殺さない彼と死なない彼女』も楽しみにしていたのだ。


桜井さんについては、リハーサルの段階で「鹿野をどういう人物にするのか」というディスカッションを重ねました。たとえば「暗い子ではないけれど地味でクラスで浮いている。死にたがりなのはかまってほしい気持ちがありつつ、その裏には一本芯の通った価値観があるんじゃないか」というように。実際には桜井さんはもっといろいろなことを考えながら演じていたと思いますが……。また、当然ながら脚本の順番どおりに撮影が進むわけではないので「だんだん現場の空気に慣れていく」という演技では面白みがない。なので、確信犯的に「前半のシーンはぎこちなく・後半のシーンになるにつれ“素”を出していく」という演技のプランを立てました。つまり、今日後半のシーンを撮るなら素の演技をしてもらい、明日前半のシーンを撮るならぎこちない演技をしてもらうわけです。今回、桜井さんは世間のイメージといちばんギャップのある役柄を演じていて、ある意味「殻を破った」作品になるんじゃないかと思うのですが、そんな桜井さんがこれからどんな女優さんになっていくのかということが今は一番の楽しみです。(公式HPの監督インタビューより)

小林啓一監督がこう語るように、
これまで見たことのない桜井日奈子を見ることができるし、
彼女の演技は、本作で飛躍的に進歩したと思う。



地味子を演じた恒松祐里。


『散歩する侵略者』(2017年9月9日公開)
『凪待ち』(2019年6月28日公開)
『アイネクライネナハトムジーク』(2019年9月20日公開) -
などの話題作に出演し、
このブログのレビューでも恒松祐里について論じてきたが、
映画女優として最も期待できる一人。
本作では、それほど出演シーンも多くなく、
名前の通り地味な存在の役柄なのだが、
演技力や美貌はピカイチで、
見事に存在感を放っていた。



きゃぴ子を演じた堀田真由。


彼女が目的で見た(観た)のではないが、
TVドラマの
『チア☆ダン』(2018年7月13日~9月14日)
『3年A組-今から皆さんは、人質です-』(2019年1月6日~3月10日)
映画の
『あの日のオルガン』(2019年2月22日公開)
『ブラック校則』(2019年11月1日公開)
などで、最近、よく見かけるようになった。
美しい顔立ちなので、よく目立つし、印象に残る。
これまではヒロインに意地悪する役柄が多かったが、
本作ではジコチューながらも憎めないきゃぴ子を魅力的に演じていて好感が持てた。
来年以降、ブレイクしそうな予感がする。


撫子を演じた箭内夢菜。


TVドラマの
『チア☆ダン』
『3年A組-今から皆さんは、人質です-』
映画の
『ブラック校則』
というように、堀田真由といつも一緒に出演している印象がある。
だが、本作『殺さない彼と死なない彼女』では、
八千代に「好き」と何度も告白するユニークな役柄で、
個性を発揮し、彼女ならではの演技で魅せる。

撫子は箭内さん本人の演技と空気感をそのまま活かして、ゆったりしていて包容力のあるキャラクターになりました。ありあまる幸福感と、不意に見せる芯の強さが魅力でしたね。農家の子という設定もキャスティング後に決めました。(公式HPの監督インタビューより)

小林啓一監督がこう語るように、
彼女が醸し出す空気感が素晴らしかった。
ラスト近くで判明する、
「ポジティブな少女に見えながら、実は○○○○○だった」
という役柄は難しかったと思うし、
よくぞ演じ切ったと感心する。



その他、
小坂の母を演じた森口瑤子や、
きゃぴ子の母を演じた佐津川愛美が、
若手中心の作品の中にあって作品を引き締めていた。



人工的なライトを使用せず、
自然光だけを使って撮られた映像は、
〈フェルメールの描く光のやわらかさを映像で再現できたら……〉
という小林啓一監督の想いが込められており、
限りなく美しい。


桜井日奈子、恒松祐里、堀田真由、箭内夢菜の、
若手女優たちも実に美しく撮られている。
こういう作品と、
小林啓一監督と出逢えた彼女たちは幸せだ。


主題歌を担当している奥華子の「はなびら」も素晴らしい。


映画館で、ぜひぜひ。

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