一日の王

「背には嚢、手には杖。一日の王が出発する」尾崎喜八

映画『洋菓子店コアンドル』 ……繊細で美しいショートケーキのような作品……

2011年02月17日 | 映画
私は酒が大好きだが、
甘いものも大好きだ。
私の誕生日、配偶者の誕生日、娘たちの誕生日、孫の誕生日、バレンタインデー、ホワイトデー、クリスマス……など、あらゆる機会をとらえてスイーツを頬張る。
「甘さひかえめ」は苦手で、しっかりと「甘い」スイーツを好む。
有名スイーツ店の商品は、しっかりと甘さが維持されていて、そこに上品さが加味されている。
くどくなく、いくらでも食べられる。
本当に美味しいスイーツは、
食べた人を幸せにしてくれる。
笑顔にしてくれる。

東京で評判の洋菓子店を舞台に、
スイーツを通して出会う、たくさんの人生。
悲しみを乗り越えること、
夢を諦めないこと、
人生を楽しむこと……
その大切さを描き、
見る者を、優しく温かい気持ちにさせてくれる。
映画『洋菓子店コアンドル』は、そんな作品であった。

伝説のパティシエと呼ばれながら、ある理由でスイーツ界から身を引いた十村遼太郎。
今は製菓専門学校の講師をしながらスイーツ評論家をしているが、心に闇を抱えている。


昔なじみのパティシエ・依子が経営する洋菓子店「パティスリー・コアンドル」に立ち寄った十村は、
恋人を追って鹿児島から上京したケーキ屋の娘・臼場なつめと偶然出会う。


見習いとして「コアンドル」で働き始めるなつめ。


依子や仲間たち、常連客に支えられながら、一生懸命に自分の居場所を見つけようとする彼女の姿に、
十村の心は動かされ、少しずつ過去と向き合い始めていく。
そんなある日、依子が怪我をしてしまい、「コアンドル」は最大のピンチを迎えてしまう……
(ストーリーはパンフレットから引用し構成)

監督・脚本は、『60歳のラブレター』『半分の月がのぼる空』『白夜行』の深川栄洋。
若い監督だが、奇をてらわず、正攻法でじっくりと取り組む姿勢に好感を持っている。
まだ傑作はものしてないが、ある水準以上の作品にはキッチリ仕上げてくる腕を持っていて、彼の作品だったら見て損はないと思っている。
今回は、現在上映中の作品『白夜行』とは違って、
キュートで切ないオリジナル・ストーリー。
小さな物語だが、私好みの作品であった。

蒼井優。
彼女が出演していたので見に行った部分が大きかった。
蒼井優が出ているというだけで、その作品は見る価値のあるものになる……
というのが、私の持論。
そんな気持ちにさせてくれる若手女優は、稀だ。
この作品でパティシエを演じるにあたり、
共演の江口洋介と料理教室に通ったとか。
最終日には調理器具を譲り受けて自宅に持ち帰り、
2ヶ月間、毎日欠かさず練習したそうだ。
『フラガール』の時もそうであったが、彼女の作品に取り組む姿勢が素晴らしい。
持って生まれた才能に加え、こうした努力が、彼女の卓越した演技力を生む。


江口洋介。
現在、フジテレビ系のドラマ『スクール!!』(2011年1月16日~3月)に主演しているが、これまでにも、
『東京ラブストーリー』
『愛という名のもとに』
『ひとつ屋根の下』
『ひとつ屋根の下2』
『救命病棟24時』シリーズ1~4
『ランチの女王』
『白い巨塔』
など、数々の話題作に出演していて、どうしてもTVドラマで活躍している印象が強い。
しかし、実は、映画出演作も少なくない。
初主演作だった『湘南爆走族』(1987年)を皮切りに、
これまで27作もの映画に出演している。
ここ数年では、
2009年公開の『GOEMON』、
2010年公開の『パーマネント野ばら』が話題になった。
本作は、心に闇を抱えているという難しい役であったが、
激しい性格のなつめ(蒼井優)を相手に、
厳しさの中にも優しさを秘めた伝説のパティシエを好演していた。


戸田恵子。
この女優、どんどん綺麗になっているような気がする。
TVドラマ『ショムニ』の頃よりも、
より若く、
より美しくなっている。
自信と経験とがそうさせているのだと思うが、稀有なことだと思う。
同じ深川栄洋監督作品『白夜行』にも出ていたが、どちらの作品でもその存在感はピカイチであった。


この他では、江口のりこが良かった。
コアンドルでのなつめの先輩の役であったが、
ちょっと暗くて、偏屈な感じのパティシエを巧く演じていた。

涙する場面あり、
胸が締めつけられる場面あり、
しかし、最後には、笑顔にしてくれる映画。
大きなデコレーションケーキのような豪華さはないけれど、
繊細で美しいショートケーキのような、そんな作品であった。

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