一日の王

「背には嚢、手には杖。一日の王が出発する」尾崎喜八

映画『妖怪人間ベム』 ……オトコマエな杏が演ずるベラに逢いたくて……

2013年01月10日 | 映画
ネット仲間と山に行ったときなど、
歩きながら映画のことをよく話したりする。
よく訊かれるのが、
「どんな(ジャンルの)映画が好きですか?」
というもの。
私に対しての印象は、
「なんだか難しい映画ばかり見ている感じ」
だそうで、(笑)
私としては、
「そうでもないんだけどな~」
なのである。
ブログ「一日の王」の過去の映画レビューを見てもらえば解ってもらえると思うが、
私は、いろんなジャンルの映画を見ている。
どちらかというと、見境のない方だと思う。(笑)
ただ、
山にも行かねばならず、
読書もしなければならず、
少しは仕事もしなければならず、(爆)
見た映画のすべてを、
このブログで紹介できていない。
だから、ブログで採り上げた作品だけを見れば、
少し偏って見えるのかもしれない。

で、今回紹介するのは、『妖怪人間ベム』。(ネッ)


1968年(昭和43年)10月7日から、
1969年(昭和44年)3月31日まで、
フジテレビ系列にて、
毎週月曜日19時30分~20時00分の時間帯で放送された
TVアニメ『妖怪人間ベム』(全26話)。
このアニメは、子供の頃にリアルタイムで観ている。

この作品が、
2011年(平成23年)10月22日から、
2011年(平成23年)12月24日まで、
日本テレビ系列にて、
毎週土曜日21時00分~21時54分の土曜ドラマ枠で実写ドラマが放送された。
妖怪人間のベム、ベラ、ベロを演じたのは、
亀梨和也、杏、鈴木福の三人。

この実写ドラマの劇場版として制作され、
2012年(平成24年)12月15日に公開されたのが、
今回紹介する映画『妖怪人間ベム』である。


なぜ、この映画を見に行ったのか?
もう十分に大人の私は、(笑)
実写版のTVドラマにはまったく関心がなく、
私の配偶者は毎週観ていたが、私は観ていなかった。

あれは、2011年11月26日のことだった。
第6話を、配偶者と一緒に、何気なく観てしまったのだ。
それは、「ベラの恋」を題材にしたストーリーだった。
気の弱そうな男に恋したベラであったが、
その男は、実は、爆破事件の犯人だった……というもの。
「ベラの恋」というのも驚きだったが、
ベラを演じていた杏が、ベラに成りきっていたのにも驚かされた。
アニメのベムは、スキンヘッドで逞しい体つきの50歳くらいの黒人を思わせる風貌をしている男だから、失礼ながら亀梨くんとはかなり違う。
ベロを演じる可愛い顔の鈴木福くんも、アニメのベロとはまったく違う。
だが、杏が演ずるベラは、アニメのベラと雰囲気がそっくりなのだ。
顔はアニメほど恐くないが、しぐさや言葉遣いに違和感がない。
私はすっかり、(杏の演じる)ベラに魅せられてしまったのだった。


道端に咲いた花を見て、キレイだなって思うだろ?
そうするとね、あんたの顔が頭に浮かぶんだ。
鈴虫の声だとか、真ん丸な月見た時もそう。
自分が感じたものを、全部あんたに伝えたくなっちまう。
普段は憎たらしい迷惑駐車の自転車だって、
あんたがまた倒しゃしないかと考えて、笑っちまうんだよ。
フッ。
こうやって、外に出るだろう?
そうするとね、すぐあんたに会いたくなっちまうし。
風が強く吹けば、あんたが風邪ひきゃしないか心配になるし。
寝る前には、あんたが夢に出て来てくれやしないかって願っちまうんだ。
フッ…。
はぁ~あたしゃ、何いってんだかねぇ。
とどのつまり何がいいたいかっていうとさ。
ありがとう。
こんな気持にさせてくれたあんたにお礼が言いたかったんだ。
ただそれだけさ。
それに、あたしゃ知ってるよ。
あんたは人一倍臆病だけど、だからこそ、人にも優しくできるってこと。
そんなあんたと出会えて、あたしは嬉しかったよ。



このセリフにしびれてしまった。
それ以来、ベラ見たさに、実写版のTVドラマも観るようになった。
そして、映画版も見に行ったというワケ。


暗く音のない世界でひとつの細胞から生まれた3つの生き物。
それは、人間になれなかった妖怪人間、
ベム(亀梨和也)、ベラ(杏)、ベロ(鈴木福)だった。
醜い身体に正義の心を持つ彼らは、
“名前のない男”(柄本明)との最後の戦いで、
人間になることよりも“人間を守って生きていく”事を選び、
友人の夏目刑事(北村一輝)たちの前から姿を消した。
それから……
3人が辿り着いた街で、怪事件が連続して発生する。
被害者はすべて大手製薬会社、MPL製薬の社員。
事件現場には巨大な爪跡が残されていた。
犯人の正体が?
その目的は何か?
事件の謎を追うベムの前に、倒したはずの“名前のない男”が再び姿を現す。


ベロは街で出会った少女、みちる(畠山彩奈)に恋をする。


しかし、みちるはMPL製薬の新薬開発研究者、上野達彦(筒井道隆)の娘であり、
母親の小百合は自動車事故で行方不明になっていた。
人間になって恋を叶えたいと願うベロ。
上野家に隠された大きな秘密を知らずに……。
そして3人の目の前に、未知の生物が出現する。
植物を媒介に妖怪化したサユリ。


その正体はみちるの母、上野小百合(観月ありさ)の変わり果てた姿だった。


人間でありながら妖怪の能力を宿す“人間妖怪”になったサユリは、
自分をこのような姿に変えた上に、家族を脅かすMPL製薬への怒りと憎しみから、その圧倒的な力による復讐を決意する。
しかし、力を使えば使うほど、そのパワーはサユリの体を蝕み、
やがてコントロール不可能なまでに増幅されてゆく。
ベムたちは、その巨大な力の暴走を食い止めることができるのか!?
“枯れない葉”、“新薬開発”、“サユリの妖怪化”……
これらの事象の組み合わせから、ベムたちは自分たちが人間になれる唯一の方法が残されていることを知る。
しかし、人間になれば妖怪の力を失ってしまう。
それでも彼らは人間になることを選ぶのだろうか……!?
(ストーリーはパンフレットより引用し構成)

今回は、ベラを演ずる杏を見に行ったので、
杏について語ろうと思う。
杏を初めて見たのは、
(意外にも)山の雑誌においてであった。
「ヤマケイJOY」の2008年春号。


このときの杏のプロフィールにはこう記してある。

1986年、東京生まれ。
世界のコレクションで活躍するトップモデル。
『Oggi』等のファッション誌のほか、現在、
資生堂「TSUBAKI」「マキアージュ」
日本コカコーラ「爽健美茶」のCMにも出演中。
おもな登山歴に穂高連峰、赤城山、丹沢、谷川岳、磐梯山などがある。


5年前(2008年)は、
モデルとしては有名であっても、
女優としては、まだデビューしたばかり(2007年、テレビ朝日ドラマスペシャル『天国と地獄』で女優デビュー)だったので、私は彼女を知らなかった。
写真を見て、随分と足の長い娘だな~(身長174cm)という印象を持っただけだった。
(このときはまだ父親が俳優の渡辺謙だということも知らなかった)

ただ、この「ヤマケイJOY」2008年春号の記事を読んで、
少なからず驚かされた。
それが強く印象に残り、未だに憶えていたというワケだ。


山が好きです。
都会で生まれ育ったことも関係するのでしょうが、山に対する憧れが強い一方で、
小さい頃から自然にふれていたせいか、山に対しての違和感はありませんね。
中学3年生の頃、たまたま受けたオーディションをきっかけに今の仕事を始めることになりました。
それからは、仕事の合間をぬって伊豆や赤城などに行きましたが、2007年夏はとても貴重な体験をしました!
きっかけは、友人のお父さん(元ワンダーフォーゲル部)のひとこと。
「穂高連峰に行くと人生観が変わるよ。成人したら連れて行ってあげる。」
それまで漠然としていた穂高連峰でしたが、信頼できる人がいるし、今回、思い切って行くことに。
上高地から西穂、そしてジャンダルム、奥穂を経由し、北穂へ。
事前にある程度は聞いていたのですが、西穂から先、ジャンダルムあたりは想像を絶する険しさでした。
足元がスパッと切れ落ち、500メートルくらい下が見えてるじゃないですか!
基本は三点支持。
ときにお尻をついて岩場を抜けていくうちに天気は悪化、暗くなってライトを点灯。
ああ、無事に帰れなかったらどうしようか。
頭の中は仕事関係のみなさんの顔が次々と…(笑)
けれど、どうでしょう。
そんな非日常世界だったからこそ、逆に日常を感じられたと思います。
日々、意識しなかった命のことや仕事上のささいな出来事…こうしたことをフラットに考えられるって、山や自然の中だからこそと思います。
ややもすると、きらびやかなドレスをまとうことだけがモデルの仕事、と思われているかもしれません。
けれど私は、仕事を通して、エコや自然、山のもつすばらしさを多くの人と分かち合いたい、
そして同年代や私よりもっと若い人たちにも伝えていきたいと思っています。
そのためにも、今後も山や自然とかかわり、
さしあたっては、八海山で清酒「八海山」を一杯いただいてみたいと思っています。(笑)


なんとも男前な心意気だろうか……
それにしても、このときすでに「ジャンダルム越え」をしていたとは……
杏、畏るべし……なのだ。

そういう男前な杏の好い部分が、
あふれるほど出ていたのが、今回のベラ役だったように思う。
男前な女こそ、女おんなした女より、より魅力的に見えるとは、
どうしたことであろう。
私にとって、今回の映画のタイトルは、
『妖怪人間ベム』ではなく、『妖怪人間ベラ』であった。


杏の演ずるベラ礼賛でレビューを終えようと思ったが、
最後にもう一人、
悪の力がしみ込んだ植物の力で“人間妖怪”になった女性、
夫や娘を愛しながら哀しい運命で人間妖怪になった女性を、
観月ありさが切なく演じている。
これが、なんとも良かった。


醜い体に正義の心を宿す妖怪人間は、
「早く人間になりたい」
と請い願うが、
その憧れの対象である人間は、姿形は人間であっても、その心は妖怪より醜い。
どちらが本当の人間で、どちらが本当の妖怪(化け物)なのか……
はたして、私(あなた)は……


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