一日の王

「背には嚢、手には杖。一日の王が出発する」尾崎喜八

映画『ハケンアニメ!』…吉岡里帆、尾野真千子が熱い“お仕事ムービー”の秀作…

2022年06月03日 | 映画


私の好きな小松菜奈が出演していた映画『バクマン。』(2015年)、
私の好きな黒木華主演のTBS系TVドラマ「重版出来!」(2016年)、
私の好きな松雪泰子や原田知世が出演していた(主演は永野芽郁)「半分、青い。」(2018年)、
私の好きな広瀬すず主演のNHK朝ドラ「なつぞら」(2019年)など、
ここ数年、アニメや漫画業界を描いた映画やTVドラマが何気に多く、
しかも面白い作品ばかりで、
この手のバックステージものはなるべく見る(観る)ようにしてきた。
本日紹介する映画『ハケンアニメ!』(2022年5月20日公開)も、
アニメ業界で奮闘する人々の姿を描いた辻村深月の小説「ハケンアニメ!」を、
吉岡里帆主演で映画化したもので、


中村倫也、柄本佑、尾野真千子、六角精児などが共演者として名を連ねている。




監督は、吉野耕平。


劇中アニメに声優として、私の好きな花澤香菜も出演するとのことなので、
ワクワクしながら映画館へ向かったのだった。



地方公務員からアニメ業界に飛び込んだ新人監督・斎藤瞳(吉岡里帆)は、


連続アニメ「サウンドバッグ 奏の石」で夢の監督デビューが決定するが、


気合いが空回りして制作現場には早くも暗雲がただよう。


瞳を大抜擢してくれたはずのプロデューサー・行城理(柄本佑)は、
監督の瞳に無断でコラボ商品(カップ麺など)を作ったり、
宣伝に監督を無理矢理駆り出すなど、ビジネス最優先で、
アニメ制作に集中したい瞳にとって、今やストレスメーカーとなっている。


最大のライバルは、
同じ夕方枠(土曜17:00)で視聴率を争うことになった連続アニメ「運命戦線リデルライト」。


瞳も憧れる天才・王子千晴監督(中村倫也)の復帰作だ。


王子は過去にメガヒット作品を生み出したものの、
その過剰なほどのこだわりとわがままぶりが災いして降板が続いていた。
プロデューサーの有科香屋子(尾野真千子)は、
そんな王子を8年ぶりに監督復帰させるため大勝負に出る。


初回放送日、
日本中が話題のアニメ放送で盛り上がり、SNSでは色んな感想が飛び交う。
【トウケイ動画】の斎藤瞳監督作品「サウンドバック 奏の石」と、


【スタジオえっじ】の王子千春監督作品「運命戦線リデルライト」。


視聴率の結果は、同率1位。
その後、それぞれのチームが、
一筋縄じゃいかないスタッフや声優たちも巻き込んで、
熱い想いをぶつけ合いながら、「ハケン=覇権」を争う戦いを繰り広げる。
果たして、瞳の想いは人々の胸に刺さるのか?
その勝負の行方は……




そう、「ハケン=覇権」なんですね。
原作未読で、予告編もまだ見ていない頃、
タイトルだけを見たときは「ハケン=派遣」と思ったし、
篠原涼子主演のTVドラマ「ハケンの品格」(2007年)(2020年)なども思い出され、
派遣社員がアニメ業界で奮闘するストーリーを想像した。
原作のタイトルをそのまま映画のタイトルにしているのだが、
原作のファンではない人にとっては、ちょっと解りにくいタイトルだったかもしれない。


序盤は、正直、あまり面白くなかった。
主人公である新人監督・斎藤瞳(吉岡里帆)の思いが空回りし、
もどかしい気持ちやモヤモヤ感が見ているこちら側にも伝染して、気分が晴れず、
物語も「どこかで見たことがある」ような展開で、新鮮味がなく、
〈ハズレだったかな……〉
と思いながら見ていた。
天才監督・王子(中村倫也)やプロデューサーの有科香屋子(尾野真千子)が登場し、
瞳が、行城理(柄本佑)の真の思いを理解する頃から段々と面白くなり、
いかにすればアニメファンや視聴者の心に感動を届けられるかに悪戦苦闘し、
ラストの回に向けて奮闘する姿に感動させられた。
いわゆる「お仕事ムービー」なのだが、
「お仕事ムービー」としては、かなり高水準の作品ではなかったか……と思う。
とても面白い映画であったし、
若者にとっては、
これからの人生に立ち向かって行けそうな、
元気がもらえる作品であったと思う。

劇中に登場するアニメにも手抜きがなく、クオリティが高く、
普通に面白かったし、(できうることならば)全編を観たくなるような内容であった。


声優陣も、花澤香菜や梶裕貴をはじめとして豪華で、


『サマーフィルムにのって』(2021年)において、(将来、巨匠と呼ばれる)女子高生の初監督作である劇中映画が、話にならないくらいお粗末なレベルであったのに比べ、
本作『ハケンアニメ!』の劇中アニメの内容は本当に素晴らしかった。



主人公の新人監督・斎藤瞳を演じた吉岡里帆の熱い演技と、


天才監督・王子千晴を演じた中村倫也のクールな演技の対比は良かったし、


市の観光課職員・宗森周平を演じた工藤阿須加、


制作デスク・根岸を演じた前野朋哉、


宣伝マン・越谷を演じた古館寛治、


脚本家・前山田を演じた徳井優、


作画スタジオ「ファインガーデン」社長兼アニメーター・関を演じた六角精児などが、


2人の監督(吉岡里帆と中村倫也)を引き立てる演技で、
作品を盛り上げていたのも良かった。


特筆すべきは、
声優・群野葵を演じた高野麻里佳。


自身も声優であり、本作が実写映画初出演とのことだったが、
斎藤瞳監督(吉岡里帆)から何度もダメ出しされる過酷な役であったのだが、
素直な、落ち着いた演技は好感が持てた。
これからは、女優としての活躍も期待できそうだ。


もう1人、
作画スタジオ「ファインガーデン」アニメーター・並澤和奈を演じた小野花梨も良かった。


並澤和奈は“神作画”を生み出すことに定評があり、
既にアニメファンたちからも知られた存在……という設定。
制作会社からも引っ張りだこで、作品へのオファーが絶えず、
瞳の手掛ける『サウンドバック 奏の石』と、
王子の手掛ける『運命戦線リデルライト』の、両作品に携わることとなった彼女は、
持ち前の天才的な作画能力でその手腕を発揮し、
両監督のバトルをさらに白熱化させる……という役柄。


普段は“ほんわか”とした冴えない女性なのだが、
「やるときゃやる!」ってな感じで、
アニメ愛が強い“天才”を好演していたのが強く印象に残った。



最後になったが、
両監督のそれぞれのプロデューサーを演じた、
柄本佑(『きみの鳥はうたえる』等で「キネマ旬報ベスト・テン」主演男優賞受賞)や、


尾野真千子(『茜色に焼かれる』で「キネマ旬報ベスト・テン」主演女優賞受賞)も、
さすがの演技で作品をしっかり締めていた。



私は、本作を公開初日(2022年5月20日)に見たのだが、
以上に述べたように、
面白い映画であったし、
称賛すべき映画であった。
……にもかかわらず、レビューが2週間も遅れたのには、
〈レビューを書く意欲があまり湧かなかった……〉
という私自身の極私的事情があった。(コラコラ)
10代、20代の希望あふれる若者にとっては心に響く映画であったかもしれないが、
定年退職した前期高齢者にとっては、
面白い映画ではあったものの、心の奥にまでは響かない作品であったからだ。
(そういえば同じような理由で『バクマン。』のレビューも書いていないことに気が付いた)

理屈抜きで楽しませるというのは映画の大事な役目であるし、
「あ~面白かった!」
との感想は、その映画への(最大の)賛辞であると思うのだが、
人生が終わりに近づいている(爆)、老いた私にとっては、
やはり、それだけでは物足りないのだ。
それ以上のもの(例えば映画『ツユクサ』にあるようなもの)を求めてしまう。

アニメの覇権を争う判断基準が“視聴率”のみというのも短絡すぎる気がした。
巷に溢れるネットのTVドラマ評も、
そのほとんどが“視聴率”を判断基準にして論じられており、
読む度に「またか!」とガッカリさせられるのだが、
〈もっとドラマそのものをきちんと評論できないものか……〉
といつも思ってしまう。
ただ、本作『ハケンアニメ!』は、
エンドロール後にワンシーンがあり、そこで、
視聴率だけではない別な判断基準も示しているので、
そこは評価しなければならないだろう。
なので、館内が明るくなるまでは席を立たないように……ね。

齢をとればとるほど、段々とレビューを書くのが億劫になってくる。
本作も、レビューを書かずにスルーしてしまうところであった。
あぶない、あぶない。(笑)

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