一日の王

「背には嚢、手には杖。一日の王が出発する」尾崎喜八

松原惇子『母の老い方観察記録』 ……元気で老いるための7か条……

2018年12月26日 | 読書・音楽・美術・その他芸術
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今年(2018年)の1月から始めた「逢いたい人に逢いに行く」という特別企画。
その第1回目を、
私は次のように書き出している。(全文はコチラから)

先日、『女、60歳からの人生大整理』(松原惇子著)という本を読んでいたら、


「60代、もはや、いつ死んでも驚かれない年齢だ」
という文章があり、ドキッとしたことを覚えている。
新聞の死亡欄を見ても60代で亡くなる人は思いの外多いし、
私の周囲でも60代に亡くなった人が案外多い。
〈なるほど、そういえばそうだな~〉
と思ったことであった。
60代は、いつ死んでも不思議ではない年代なのだ。
悔いを残さない様、やりたいことはやっておく方がイイ。
ということで、今年も、逢いたい人には、積極的に逢いに行くことにした。


この『女、60歳からの人生大整理』の著者である松原惇子さんは、


1986年、38歳のとき、
自分の体験を通して独身者の気持ちを書いた『女が家を買うとき』でデビューした。


その本を読んで以来、松原惇子さんの本は折に触れ読んできたが、
今年(2018年)10月に『母の老い方観察記録』という本を出版された。


『女が家を買うとき』で世に出て以来、
ずっとひとり暮らしを続けていた彼女だが、
今は、母親と一緒に実家で暮らしているという。
一体、何があったのか?
その理由は、冒頭の「はじめに」に書いてあった。

「母と暮す」ことは、わたしの人生においてありえないことだ。高校生のとき、父親が仕事で福島県に3年間転勤することになり、母は父に同行。ちょうど受験を控えていたわたしと弟は、祖母とともに東京に残った。
わたしは大学を卒業すると、すぐに結婚し家を出た。その後、すぐに離婚したが、それ以降は、親元に帰ることもなく、自立する道を歩んできた。幸運なことに、作家デビューがバブル期と重なり、本は売れ、仕事は降るように来た。そのおかげで、1LDKのマンションから3LDKのマンションに住み替えることもできた。
ひとり者の女性としては、上出来の人生だろう。あとは、この3LDKのマンションで猫と一緒に充実した老後を送るだけだ。心からそう信じていた。
それが……


なんと、マンションに漏水問題が起こり、トラブルに弱い著者は、
家を手放すことで、巻き込まれるのを避けようとする。
目白に1LDKの賃貸マンションを見つけ、
落ち着いてから次のマンションを購入しようと思っていたところ、
その目白の賃貸マンションの契約日の前日、
大家さんから契約の白紙撤回を申し渡される。
理由は、年齢。
本を70冊以上書いてきたので、実績もあるし、ある程度の収入も貯蓄もある。
身元保証人も立てている。
なのに、たった9万円の部屋を借りることができないのだ。
そこで、著者は生まれてはじめて「60歳以上の人に部屋を貸さない」という日本社会の現実に直面する。
高齢者に部屋を貸さない慣習に対して問題意識を持つ著者は、
そのことに関して『老後ひとりぼっち』という本まで出版しているというのに……
自分がその当事者になるとは、夢にも思わなかったとか。
不動産屋さんから、
「実家も近いし、一時的に住まわせてもらって、落ち着いてから次を探したらいかがですか?」
と提案され、
著者は92歳の母親がひとり暮らしをしている実家に住むようになる。
そして、一時避難のつもりが、ずるずると……

著者は、家に帰ったとき、あることに気づく。
50年ぶりにともに暮らすことになった母が、どうも妖怪じみて見える。
92歳にしては元気すぎるのだ。
おしゃれ大好き、お出かけ大好き、総入れ歯だけど牛肉が好き。
ステキな友達に囲まれて、どこに行ってもチヤホヤされる。
これはいったい、どういうわけなのだろう?
著者はこれまで、自らの生き方を道しるべとして、
女性の自立した暮らしを提案してきた。
本書では、それをはじめて他者に、というか母親に求めている。
本書は、著者が母親と暮す中で感じた“老い”について綴った本なのである。


全部を紹介することはできないが、
最終章にある【元気で老いるための7か条】について記してみたいと思う。

『セブンルール』(フジテレビ系、毎週火曜日 23:00~23:30)という番組がある。
様々な分野で活躍する女性に密着し、
「いつもしていること(ルール)」を7つ見つけ、
「なぜそれにこだわるのか」を掘り下げる。
スタジオでは、作家の本谷有希子、俳優の青木崇高、お笑いコンビオードリーの若林正恭、YOUがVTRを見ながらトークを展開するのだが、
本書『母の老い方観察記録』にもセブンルールがあったのだ。
これが、本書のキモだと思うので、各項目の要点を書き出してみる。


【元気で老いるための7か条】

①なんでも自分でやる
元気で長生きの人の共通点は、人の手を借りずに、なんでも自分でやることだ。
年齢や老化のせいにして楽をしてはいけない。
年と共に体の機能は衰えるが、もし、いつまでも元気で長生きしたかったら、できないことを理由にゴロゴロしてテレビを見ているのではなく、やる気になることだ。
ひとり暮らしの人は、何でも自分でやる習慣が身についているのでボケる人が少ない。
甘えと楽が高齢者にとり大敵なのだ。
母親を老人ホームに入れて安心していたら、認知症になっていたという話はよく聞く。
それは、自分でやることがないからだ。
上げ膳据え膳は一見いいように思えるが、実は、老人の機能を低下させるだけだ。
高齢者には時間がたっぷりあるのだから、時間にとらわれずに作業ができる利点がある。
自分でやる、と心に決めて毎日を過ごしたら、筋力もつくし、頭もボケないので一石二鳥ではないだろうか。

②身なりをいつもきれいにする
どんな服を着ても自由だが、高齢になればなるほど、正直、見た目が汚くなる。
せめて服だけでもきれいな色のものを身に着け、デイサービスの部屋の印象を変えて欲しいと思う。
服装は自分が着るものではあるが、他人が見るものだということだ。
つまり、あなたの服装は景色の一部、環境の一部なのである。
その意識が大事だ。
地味な服装が好きな人もいるが、それは若いうちの話だ。
ぴちぴちした体には地味な色も素敵だが、老婆に枯葉色では廃人に見える。
最近、白髪を染めずにいるのがもてはやされているが、ごま塩の白髪は、汚く見えるのでお勧めできない。
ナチュラルでいいのは、手入れの行き届いた真っ白な髪の人か、めちゃくちゃおしゃれな人の場合のみ。

③狭い部屋できれいに暮らす
年寄りの部屋は臭い。
老人ホームにもよるが、建物に入ったとたんに独特の匂いがすることがある。
老人になると一種独特の匂いを発するようになるのは、仕方がないことだが、
せめて、自分の部屋だけは、きれいにして暮らしたい。
年を重ねるにしたがい、掃除がおっくうになりがちだが、
元気で生き切るには、いつも小ざっぱりした部屋にしておくことが必要だろう。
60代の一歩を70センチとすると、
90代の一歩は10センチと狭くなり、
移動に時間がかかるようになるので、部屋は狭い方が使いやすい。
掃除が苦手な人は、必要なものは押入れやクローゼットにしまい、
要らないものは捨てるといい。
家具は最低限にすれば、掃除も簡単でゴミのたまる場所も少なくなる。
モノを下に置くから汚くなるのだと、自分の経験から思う。
元気で最後まで楽しく生きるには、
最も多くの時間を過ごす、自分の部屋から清める必要があるだろう。

④くよくよしない
若ければ未来があるので、くよくよしている時間はあるが、
65歳以上の人には後悔している時間はない。
いつ死んでもいいお年頃に突入しているというのに、
大事な時間をくよくよ過ごすのは時間の無駄だ。
いつまでも終わったことにくよくよしていると、
希望のバスが来たことがわからずに、見送ることになる。
65歳を過ぎたら、次のバスは来るかどうかわからないのだから、
気持ちをすっきりさせて、先に進む必要がある。
明日の楽しみだけを考えて暮らそう。
それが許されるわたしたち高齢者は、最高の年代にいるのだから。

⑤病気のことを忘れて暮らす
これはわたしの持論だが、
病気の予防や薬の知識に強くなるより、病気のことを忘れて生きる方が賢い。
元気でいたかったら、医療から離れることだと、わたしは信じていて実行している。
早期発見でがんが小さいうちに見つかってよかったと喜んでいる人には申し訳ないが、
65歳も過ぎれば、検査すれば誰だって、がんの10個や100個は見つかる。
なぜなら、わたしたちは朽ちていく過程にいるのだから。
そこを忘れてはいけない。
わたしの結論は、自分から病気を見つけないこと。
痛みに耐えられないとき、血を吐いたとき以外は、医者にかからないこと。
つまり、基本は何もしないこと。
90代で元気な人は薬を飲んでいない人が多い。
好きなものを食べ、飲み、愉快に暮せばおのずと元気で、
時が来たら、植物のように静かに枯れることができるのではないだろうか。

⑥動物や自然を友とする
年をとるということは、人と会う回数が少なくなることだ。
戸建のひとり暮らしで、たまにスーパーに行くぐらいで、ほとんどの時間を家で過ごしている高齢者は多い。
伴侶を亡くして、引きこもり状態の男性は結構多いような気がする。
男性はあまり口をきかないので、デイサービスに行っても寂しそうだ。
この間も、「妻が死んで寂しい」と話す70代の男性がいたので、
再婚するのではなく、猫を飼いなさいとアドバイスしたが、聞いていたかどうかわからない。
最近は、かなり高齢の男性が小型犬を抱いて歩いている姿を見かけるようになった。
どっちが先かわからないような老犬だ。
でも、とても幸せそうだ。
犬なら文句を言わないし、財産を狙われることもない。
犬や猫をペットとか呼んで、自分より下の存在だと思っている人は考えを改めてほしい。

⑦必要とされる人になる
権力にしがみつき独裁者になり問題を起こしているニュースが続く中で、さわやかな清涼水のような人が、大分在住のスーパーボランティア尾畠春夫さんではないだろうか。
65歳で魚屋を辞めてから、社会に恩返しをしようとボランティアを始めた尾畠さん。
御年78歳のスーパーボランティアの尾畠さんを見ていると、
リタイアしたその年齢の男性は何をしているのかと疑問を抱いた。
年金も退職金ももらった運のいいシニアたち。
人数的にはいっぱいいるはずなのに、社会のために何かやっている人はどのくらいいるのだろうか。
リタイアした男性は、図書館なんかに行ってないで、デモに行ってほしい。
老人党を立ち上げて欲しい。
家で趣味しているより、よっぽどいきいきした時間が過ごせる。
高齢者は時間があるのだから、みんなでアンパンマンになるのは、どうですか。
自分の子供や孫に遺産を遺すより、今、困っている人のために働くのはどうですか。
スーパーボランティアが、各地でたくさん出てきたら、高齢者が若者から尊敬され、素晴らしい日本が取り戻せるような気がする。



65歳以上の人には後悔している時間はない。
65歳を過ぎたら、次のバスは来るかどうかわからない。
65歳も過ぎれば、検査すれば誰だって、がんの10個や100個は見つかる。
65歳を過ぎれば、あとは死ぬだけなのだから、楽しく暮らさないと損だ。



などなど、
本書も歯切れのいい言葉が並ぶ。(笑)
他にも、たくさん名言がちりばめられている。

今回は、ブックレビューというより、
私自身のための読書メモ、私自身のための忘備録として書いた。
興味を持たれた方は、ぜひぜひ。 

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