道しるべの向こう

ありふれた人生 
もう何も考えまい 
君が欲しかったものも 
僕が欲しかったものも 
生きていくことの愚かささえも…

ふと想い出した…

2019-04-26 20:24:00 | 日記
 
 
車内の席に戻ると
ずっと俯いたまま
両手で覆った顔を上げることが出来なかった
 
とめどなく溢れてくる涙を
抑えることが出来ずにいた
 
 
 
ついさっきまで
ホームで見送りに来てくれていた彼女
目の前の彼女を
抱きしめれば良かったのだろうか?
 
いや
そうじゃないだろう
そんなことをすれば…
 
一緒に列車に乗って行くと
泣いていた彼女を押しとどめることだけが
僕に出来る唯一のことだと…
 
結局
サヨナラも言えず
幸せになれよとも言えず…
 
彼女の泣き顔だけが
まぶたに焼き付いた
 
 
 
 
どうして
結婚を決める前に相談してくれなかったんだよ
誰かとの結婚式を1ヶ月後に控えた今になって
やっぱり僕と結婚したいだなんて…
 
いまさら…
 
早すぎるんだよ
22歳で結婚しちまうなんて…
 
 
 
彼女を恨むつもりは全くなかったが
悔やんでも悔やみきれなかった
 
彼女と別れてからの年月
たったの3年半
いくら取り戻そうとしても…
 
 
何年かぶりに
彼女からの電話を受けて2週間ばかり
僕の心は嵐のように揺れ動いていた
 
心だけじゃなく
僕の家族や
おそらく彼女の家族も同じように
嵐のような時間だったのじゃないだろうか
 
 
 
 
最終的に
僕はいわゆる常識的な道を選ぶことにした
 
した…というか
せざるを得なかったような…
 
 
1ヶ月後に結婚式を控えているのに
世間知らずの若造には為すすべなど
何もなくて…
 
好きだという想いだけで
彼女を幸せに出来るはずもなく…
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
おそらく次の停車駅
隣県のT駅から乗り込んできたのだろうと思うけど
空いていた僕の隣の席に誰かが座った
 
僕は両手で顔を覆ったままだったが
俯いた視野に入ってきた細いスラックスは
女性客の脚らしかった
 
女性客の脚らしいと感じただけで
それから東京に着くまで
一度も隣の女性客の顔を見ることもなく
俯いたまま…
 
ひょっとして
時折
漏れた小さな嗚咽が
彼女に聞こえていたかもしれない
 
 
 
 
 
東京駅に着いて
棚の上の手荷物を降ろそうとして
初めて顔を上げたような気がする
 
その時
隣に座っていた女性客が僕の顔を見たのだろうか?
どうなのかわからないけど…
 
列車から降りてホームに立ったとき
不意に横からオバさんが語りかけてきた
 
 
ねぇお兄ちゃん
アタシ恵比寿でお店やってるんだけど
今度気が向いたら顔を出しなよ
ご馳走するよ
待ってるから…
 
 
それだけ言って
彼女は名刺を1枚僕にくれた
 
 
あ…
ありがとうございます
 
 
頭を下げてそう返事をするだけが精一杯で
中年の女性の顔をハッキリ見ることもなく…
 
(彼女が僕の隣に座ってた人か…)
 
中年の女性のやってるお店が
居酒屋なのか何なのかわからないまま
手を振りながら去っていく彼女を前に
僕は渡された名刺を握りしめていた
 
 
 
 
結局
中年女性のやってるお店に顔を出すことは
なかったけど…
 
 
 
 
 
 
あのとき
中年女性のやってるお店に顔を出していれば
何かが変わっただろうか?
 
変わってないだろう
変わってないと思う
 
酸いも甘いも十分にわかった彼女に
それなりのアドバイスをされたところで…
 
 
のちのち
心を患うほど病んでしまった僕にとって
衝動で大学を辞めてしまった僕にとって
誰の声も届くはずは…
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
そんな
遠い昔の出来ごと
 
ふと想い出した…
 
 
 
何をしても泣き止まない
初孫くんのせいだろうか?
 
あの時の僕は
何をしても誰の声も届かなかったはず…
 
初孫くんと同じく…
 
 
もう40年も前のこと…