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ケガレの起源は射日・招日神話由来の余った危険な太陽であり、それを象徴するのが銅鐸です。銅鐸はアマテラスに置換わりました。

アオサギは青くない

2007年09月17日 10時38分31秒 | いろんな疑問について考える
アオサギは青くない

 早朝散歩で行き会う知人に「青くないのにどうしてアオサギって言うんでしょうね」と質問された。
 「昔は青という色の意味にはかなり幅があったらしいです」というような答えをしておいたが、なぜそうなのか、自分でもよくわからない。灰色っぽいのを青ともいうし、緑の葉を青葉というし、青信号は緑だし(最近はそうでもないが)、青臭い、青二才などともいう。
なぜ「アオ」がそんなに幅のある、あいまいな言葉だったのか。そこで「アオ」について調べてみたので、この辺で少し整理してみよう。
 例によって辞書を引いてみる。まず『広辞苑』では「あお」の項目で括弧つきで、(一説に、古代日本語では、固有の色名としては、アカ・クロ・シロ・アオがあるのみで、それは明・暗・顕・漠を原義とするという。本来は灰色がかった白色をいうらしい)として「アオ」はもともと漠として、はっきりしない、ぼんやりした色調をいう言葉であるらしい。これはアオサギの羽色をよく現わしている。他の白鷺類にくらべると、確かに白っぽい灰色の地にやや青みのある灰色の濃淡をした背中や首の色をしている。
括弧つきのこの一説というのは、佐竹昭広氏の「古代日本語における色名の性格」(『萬葉集抜書』岩波書店 1980年)のことのようだ。
 『日本国語大辞典』の「あお」の項目では、「①本来は、黒と白との中間の範囲を示す広い色名で、主に青、緑、藍をさし、時には、黒、白をもさした。(略)」とし、こうなると赤系統以外はなんでも「アオ」でよかったという感じ。
 では実際にどんな「アオ」があるのか、『万葉集』からつぎの3首を引いてみよう。以下はすべて集英社文庫の『萬葉集釋注』(伊藤博 2005年)による。
161 北山に たなびく雲の 青雲の 星離れ行き 月を離れて
 北山にたなびく雲、その青い雲が、ああ星を離れて行き、月からも離れて行ってしまって……
補注によると、青雲は灰色の雲。
4204 我が背子が 捧げて持てる ほほがしは あたかも似るか、青き蓋(きぬがさ)
 あなたさまが、捧げて持っておいでのほおがしわ、このほおがしわは、まことにもってそっくりですね、青い蓋(きぬがさ)に。
補注によると、「蓋」は貴人のうしろからさしかける、絹などを張った大型の傘。一位の貴人が使う色は深緑と決まっているので、この場合の「アオ」は緑という。「ほおがしわ」はホオノキ。
4494 水鳥の 鴨の羽色の 青馬を 今日見る人は 限りなしといふ
 水鳥の鴨の羽の色のような青、そのめでたい青馬を今日見る人は、命限りなしと言います。
補注では、青馬は「葦毛の馬。中古以来「白馬」と書く」とあり、白ではあるが、他の色もまざっているらしい。『広辞苑』では、「葦毛」とは「~白い毛に黒色・濃褐色などの差し毛のあるもの」と説明している。この場合は白なのか、濁りのある白、あるいは青みのある白なのか、よくわからない。それに「水鳥の鴨の羽の色のような青」というのは真っ青なのか、緑なのか。補注ではマガモの雄の緑色に光る頭の羽色を想定しているが、それでは青馬であらわす「白馬」あるいは「葦毛の馬」の色と違いすぎるのではないか。
 灰色の雲、緑の傘、白馬あるいは葦毛の馬、これらをどれも「アオ」い色といっている。青い雲というのは違和感があるが、あとのふたつは現在でも実際こんな言い方をしている。青雲の志なんてのもあるか。青葉、青菜、青臭い、青ざめる、馬のことを単に「アオ」ともいう。この中で「青色」の青はひとつもない。
 ところで青くないアオサギがいつからアオサギと呼ばれているか。『図説日本鳥名由来辞典』によると、平安時代には記録があるという。奈良時代には「みとさぎ」という名が知られている。「アオサギ」とともに、永く「みとさぎ」の名も使われていて、明治時代の鳥類目録でも「アオサギ」と「ミトサギ」を並記するものがあったが、やがて「アオサギ」に統一された、という。「みとさぎ」の語源はたぶん「水門(みと)」にいる鷺だろう。「水門(みと)」とは「川のまん中」あるいは「川の流れ」を意味する。アオサギはよく川の流れの中に立っている。
 『大言海』では「緑鷺」みどりさぎ―みとさぎ、との説をとっているというが、緑色みはまったく無いのだから、「緑鷺」の名の起こりようがない。かりに「緑鷺」の名があったとしたら、緑は「アオ」というのだから、流れとしてはアオサギへの変化ではないか。
 「アオ」で現わす言葉は現在でも日常のなかにかなりある。鳥の名にかぎっても、アオアシシギ、アオゲラ、アオサギ、アオジ、アオシギ、アオツラカツオドリ、アオバズク、アオバト、ズアオホオジロ、などが図鑑を引くと出てくるが、青いのはアオツラカツオドリの雄の顔だけだった。
 ほんとに青い場合には「瑠璃」を使っている。オオルリ、コルリ、ルリビタキ、ルリカケス。「アオ」ではアイマイすぎて、「青」を表現できないらしい。

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