ほっとすぺーす(№42)2005年11月
霞網猟にみる冬鳥の渡り時期
日本野鳥の会発行の雑誌『野鳥』の第1巻第6号(昭和9年発行)は鳥の渡り特集となっている。そのなかで今は禁止されている霞網による野鳥の捕獲の様子が中西悟堂によって伝えられている。場所は八王子市の東南部の多摩丘陵で、捕獲時期は毎年10月15日から12月5日ころまで。盛期は10月20日から11月10日ころまでの20日間で、その前後は鳥の渡りがずっと減るという。
そのなかから冬鳥で、比較的猟の多い鳥、ということは個体数の多いというのとほぼ同じ意味になると思うが、まずそれを列挙しよう。
○ツグミ(10月27、28日頃が前盛り、11月2、3日頃本盛り、11月7、8日頃が引盛り)
○シロハラ(10月10日頃渡りぞめ。盛時は大体ツグミと同じ。マミチャジナイもおよそ同断)
○マヒワ(10月15日頃より。多いのは20日以後で、何百と来る日もある。翌春まで捕れる)
○アトリ(10月20日頃から出始めて連続して来つづけ、多い時は数千に上り、ツグミよりも多く捕れる)
○アオジ(10月20日頃に2、30羽、同24、5日の本盛りには数百に上り、11月一杯渡る)
○カシラダカ(早くから来て、引きつづき翌春までは漸次ふえる。「春構え」といい、翌春の方が多く捕れる)
同じ東京都の西部にある丘陵地帯として多摩丘陵と草花丘陵はほぼ似た自然環境といえる。では、現在のおもに草花丘陵での冬鳥の状況と昭和初期の多摩丘陵での状況を比較してみよう。
まずツグミについて、前盛り、本盛り、引盛りと言っているのは、猟のことばだろうか。10月下旬が来はじめなら、現在もだいたい同じ。だが、今では盛りというには程遠く、ちらほら見える程度。シロハラが若干ツグミより早く来るというのも同じ状況。マミチャジナイは見たことがない。激減しているようだ。マヒワは年による差が大きく、見られない年もある。草花丘陵では数10羽から百数10羽程度までの群で見られ、12月から4月いっぱいくらいまでいる。10月には見たことがない。アトリは現在の草花丘陵ではごく少ない。アオジの来はじめはだいたい現在も同じだが、大きい群は見たことがない。カシラダカも草花丘陵では、たまに小群に出会う程度で、むしろ多摩川など少し開けた環境のほうが数は多いのだが、「多く捕れる」などという状況には程遠い。
つぎに当時でも少なかったという冬鳥はクロジ、イスカ、ノジコ、ミヤマホオジロなど。これらは現在も少ない。草花丘陵ではクロジがほぼ毎冬記録されるが、たまに見られる程度。ミヤマホオジロは年によって見られることもある。イスカ、ノジコは見たことがない。
冬鳥ではないが、イカルも「極めて少数」となっているのは、印象がちがう。『野鳥』の同じ号の別の記事、たとえば木曽谷での捕獲数をみるとイカルは少ない鳥ではない。関東地方あるいは多摩地方には当時少なかったのかどうか。
多摩丘陵での昭和6年10月20日から11月末までの40日間での捕獲数のうちツグミ類が2599羽、小物1775羽、計4374羽と中西悟堂は報告している。
そしてウソがいちばん遅く来る。ウソが現われたら猟期は終わりだという。現在の草花丘陵もやはりウソは遅い。11月下旬か12月に入らないと現われない。なぜウソだけは遅いのだろう。そこで、
次のテーマは、どうしてウソは遅いのか
草花丘陵と鷹ノ巣山、それといくらかの文献でウソのいる場所をさぐってみよう。
霞網猟にみる冬鳥の渡り時期
日本野鳥の会発行の雑誌『野鳥』の第1巻第6号(昭和9年発行)は鳥の渡り特集となっている。そのなかで今は禁止されている霞網による野鳥の捕獲の様子が中西悟堂によって伝えられている。場所は八王子市の東南部の多摩丘陵で、捕獲時期は毎年10月15日から12月5日ころまで。盛期は10月20日から11月10日ころまでの20日間で、その前後は鳥の渡りがずっと減るという。
そのなかから冬鳥で、比較的猟の多い鳥、ということは個体数の多いというのとほぼ同じ意味になると思うが、まずそれを列挙しよう。
○ツグミ(10月27、28日頃が前盛り、11月2、3日頃本盛り、11月7、8日頃が引盛り)
○シロハラ(10月10日頃渡りぞめ。盛時は大体ツグミと同じ。マミチャジナイもおよそ同断)
○マヒワ(10月15日頃より。多いのは20日以後で、何百と来る日もある。翌春まで捕れる)
○アトリ(10月20日頃から出始めて連続して来つづけ、多い時は数千に上り、ツグミよりも多く捕れる)
○アオジ(10月20日頃に2、30羽、同24、5日の本盛りには数百に上り、11月一杯渡る)
○カシラダカ(早くから来て、引きつづき翌春までは漸次ふえる。「春構え」といい、翌春の方が多く捕れる)
同じ東京都の西部にある丘陵地帯として多摩丘陵と草花丘陵はほぼ似た自然環境といえる。では、現在のおもに草花丘陵での冬鳥の状況と昭和初期の多摩丘陵での状況を比較してみよう。
まずツグミについて、前盛り、本盛り、引盛りと言っているのは、猟のことばだろうか。10月下旬が来はじめなら、現在もだいたい同じ。だが、今では盛りというには程遠く、ちらほら見える程度。シロハラが若干ツグミより早く来るというのも同じ状況。マミチャジナイは見たことがない。激減しているようだ。マヒワは年による差が大きく、見られない年もある。草花丘陵では数10羽から百数10羽程度までの群で見られ、12月から4月いっぱいくらいまでいる。10月には見たことがない。アトリは現在の草花丘陵ではごく少ない。アオジの来はじめはだいたい現在も同じだが、大きい群は見たことがない。カシラダカも草花丘陵では、たまに小群に出会う程度で、むしろ多摩川など少し開けた環境のほうが数は多いのだが、「多く捕れる」などという状況には程遠い。
つぎに当時でも少なかったという冬鳥はクロジ、イスカ、ノジコ、ミヤマホオジロなど。これらは現在も少ない。草花丘陵ではクロジがほぼ毎冬記録されるが、たまに見られる程度。ミヤマホオジロは年によって見られることもある。イスカ、ノジコは見たことがない。
冬鳥ではないが、イカルも「極めて少数」となっているのは、印象がちがう。『野鳥』の同じ号の別の記事、たとえば木曽谷での捕獲数をみるとイカルは少ない鳥ではない。関東地方あるいは多摩地方には当時少なかったのかどうか。
多摩丘陵での昭和6年10月20日から11月末までの40日間での捕獲数のうちツグミ類が2599羽、小物1775羽、計4374羽と中西悟堂は報告している。
そしてウソがいちばん遅く来る。ウソが現われたら猟期は終わりだという。現在の草花丘陵もやはりウソは遅い。11月下旬か12月に入らないと現われない。なぜウソだけは遅いのだろう。そこで、
次のテーマは、どうしてウソは遅いのか
草花丘陵と鷹ノ巣山、それといくらかの文献でウソのいる場所をさぐってみよう。