ほっとすぺーす(№53)2007年9月
野鳥が逃げ出す距離
探鳥をしているとき、気がつかずに鳥を飛び立たせて、「あっ、しまった」と思うことがある。経験上そんなことがよくある鳥は、山や森林なら大型ツグミ類、川ではサギ類、シギ類などがある。なぜ「あっ、しまった」なのかというと、これらの鳥はたいてい飛び立たせると、もう近くにはとどまってくれないからだ。スズメやムクドリくらいまでの小鳥類なら、飛び立ってもあまり遠くまで逃げずにいてくれる場合が多い。かえって見やすい位置に移って、ありがたいことさえある。それに小さい鳥ほど警戒心がうすいのか、あまり逃げないが、中型、大型の鳥ほど一般にこちらを寄せつけたがらない。
そこで飛び立たせてしまう限界の距離は鳥種によってどう違うのかを考えてみよう。この場合、目的の鳥がいて、身を潜めたり、じわじわと近づいてゆくといった特別の状況は考えない。特に注意をはらわずに、でもゆっくり静かに歩いているとする。繁殖中の鳥や人馴れしているらしい鳥の場合も別にする。数字はすべて目測、大雑把なものだが、一応の目安にはなるだろう。
まずアオサギの場合、こちらが普通に歩いて近づけば、ひらけたところでは50~60mか、それ以上でも逃げる。間に草むらなどがあって、こちらの姿が隠れている場合は20m以内くらいまで近づけるが、じつはこの場合でも草のすき間から覗くと、向うもすでにこちらを警戒していて、つぎのこちらの動き次第ではぱっと飛び立つ。上空を飛んでいるときでも、あまり高くないとき、10数mだろうか、こちらの上空に達した直後「あんたの上なんか物騒で飛べないよ」と言わんばかりに、わざわざ進路をカギの手に変えてギャッと声まで出して飛び去ってゆくことがある。ほかの鳥ではここまであからさまに避けるのを見ることはないのだが、アオサギの場合はよくある。
ダイサギやコサギはアオサギに比べるといくらかは近づきやすい気がする。ササゴイになると20~30mくらいで逃げることがよくある。
オオタカやノスリは飛び立ってそれと気づくと、50m以上はあるし、100mくらいあるときもある。カラスも街中のは別にして、河川敷などひらけた環境では50mくらい離れていてもそわそわし出す。双眼鏡をかまえると逃げる。
中型の鳥では、たとえばキジバトは、山の中で出会うとすぐ逃げる。ふだん開けたところで見るキジバトよりも山中にいるキジバトのほうが人を寄せ付けないという印象がある。ただそれが、同じ個体でも山の中にいるときと、そうでないときとで違いがあるのか、その点はわからない。というのは、山が浅い草花丘陵の場合、開けたところと丘陵の中を行き来するだろうから。もっとも、キジバトは山バトともいうが、そのわりには山中にはあまり入らない。
キジバトといえば、草花丘陵の山道を歩いていて、小さいアップダウンがあり、登り道がせりあがっていてその先の下りが見えないとき、こちらが道を上がっていて、先の下りが見えてきた瞬間に、あわててそこにいたキジバトが逃げ出したことがある。ほんの3~4mで、ふだんならとうに逃げている距離だ。こちらはかなり無造作に歩いていたから、気配でわかりそうなものだが、直前までそのキジバトには人が見えなかったわけで、やはり鳥はおもに目で判断しているのだろう。
アオバトはキジバトよりもずっと警戒心が強い。たいていは遠くに声を聴くだけで、山でも丘陵でも近くで見ることは滅多にない。
ほかに中型の鳥といえばキツツキ類のアオゲラ、アカゲラ、オオアカゲラはやはりあまり近づけない。コゲラなら数mまで近くに来るし、近づける。カッコウ類はどれも相当近寄りにくい。こちらから近寄るというよりも、たまたま近くに来てとまってくれるのを幸運と思うしかない。
バンやオオバンは筆者のフィールドでは釣り人もよく入っているから、人馴れしているかもしれないので、あまりよくわからない。30mくらい離れていてもさっと水面上をひっかいて逃げてしまうこともある。
カイツブリが、繁殖期にはわりあい近距離で見られていたのに、冬場、本流に集まった群のほうへ近づいていくと、まだ50m以上離れていてもいっせいにもぐってしまい、もっと遠くで水面上に顔を出すので、近寄るのがむずかしくて苦労したことがある。それは何年か前、越冬の個体数と夏羽への移行の様子を知るために、数えていたときのことだった。8倍の双眼鏡しか持ち歩かないので、近づかなければならず、鳥には迷惑だったかもしれない。
森の大型ツグミ類といえばアカハラ、シロハラ、トラツグミ、クロツグミ、マミジロなどだが、こちらよりさきに気づかれて、遠くへ飛んでしまうことがよくある。これらは小鳥類より近づきにくい。それは、カラ類のようにたえず鳴いて早めに存在が知れる、ということがないので居場所がわからないからだ。ただ比較的ひらけた環境で越冬生活をするツグミはやや近づきやすい。
ツグミで興味深いのは、日の出前のまだ薄明のとき、多摩川の堤防の道を自転車で走っていると、路上に下りているツグミがいて、自転車がすぐ前、それはもう2~3mのところまで近づいて、あわやひいてしまうと思うところで、ようやく逃げ出すことだ。それがどうもモタモタしていて、なんだかよく見えていないように感じられる。ツグミは夜間に渡る鳥だというから暗くても見えるはずだし、だいいちまだうす暗いのに路上に出ているということは、すでに塒を離れて、たぶん採餌しているのだろうから、見えているだろうに、なんで直前まで逃げず、あわてて「おっとっと」となるのか、わからない。
同じことはアオジでもよく経験している。草花丘陵の浅間岳の登り口から、まだうす暗い山道を歩き出すと、もうアオジが路上に出ている。まだアオジの色もわからない、黒いかたまりくらいにしか見えない暗さだ。こちらが進む先々であわてたように飛び立つが、それは足元からたった1mくらいしか離れていない。極端な話、踏んづけてしまいそうだ。明るい時間帯ではこうした経験はない。
カラ類でもそういう経験はしたことがないが、もっとも身近に来て、親しい存在はやはりカラ類だろう。
なかにはぎりぎりまで逃げないで、ヤブにひそむのを得意とする鳥もいる。そこで、
つぎのテーマは、ぎりぎりまで逃げない
よほど自分の保護色に自信があるらしい。
野鳥が逃げ出す距離
探鳥をしているとき、気がつかずに鳥を飛び立たせて、「あっ、しまった」と思うことがある。経験上そんなことがよくある鳥は、山や森林なら大型ツグミ類、川ではサギ類、シギ類などがある。なぜ「あっ、しまった」なのかというと、これらの鳥はたいてい飛び立たせると、もう近くにはとどまってくれないからだ。スズメやムクドリくらいまでの小鳥類なら、飛び立ってもあまり遠くまで逃げずにいてくれる場合が多い。かえって見やすい位置に移って、ありがたいことさえある。それに小さい鳥ほど警戒心がうすいのか、あまり逃げないが、中型、大型の鳥ほど一般にこちらを寄せつけたがらない。
そこで飛び立たせてしまう限界の距離は鳥種によってどう違うのかを考えてみよう。この場合、目的の鳥がいて、身を潜めたり、じわじわと近づいてゆくといった特別の状況は考えない。特に注意をはらわずに、でもゆっくり静かに歩いているとする。繁殖中の鳥や人馴れしているらしい鳥の場合も別にする。数字はすべて目測、大雑把なものだが、一応の目安にはなるだろう。
まずアオサギの場合、こちらが普通に歩いて近づけば、ひらけたところでは50~60mか、それ以上でも逃げる。間に草むらなどがあって、こちらの姿が隠れている場合は20m以内くらいまで近づけるが、じつはこの場合でも草のすき間から覗くと、向うもすでにこちらを警戒していて、つぎのこちらの動き次第ではぱっと飛び立つ。上空を飛んでいるときでも、あまり高くないとき、10数mだろうか、こちらの上空に達した直後「あんたの上なんか物騒で飛べないよ」と言わんばかりに、わざわざ進路をカギの手に変えてギャッと声まで出して飛び去ってゆくことがある。ほかの鳥ではここまであからさまに避けるのを見ることはないのだが、アオサギの場合はよくある。
ダイサギやコサギはアオサギに比べるといくらかは近づきやすい気がする。ササゴイになると20~30mくらいで逃げることがよくある。
オオタカやノスリは飛び立ってそれと気づくと、50m以上はあるし、100mくらいあるときもある。カラスも街中のは別にして、河川敷などひらけた環境では50mくらい離れていてもそわそわし出す。双眼鏡をかまえると逃げる。
中型の鳥では、たとえばキジバトは、山の中で出会うとすぐ逃げる。ふだん開けたところで見るキジバトよりも山中にいるキジバトのほうが人を寄せ付けないという印象がある。ただそれが、同じ個体でも山の中にいるときと、そうでないときとで違いがあるのか、その点はわからない。というのは、山が浅い草花丘陵の場合、開けたところと丘陵の中を行き来するだろうから。もっとも、キジバトは山バトともいうが、そのわりには山中にはあまり入らない。
キジバトといえば、草花丘陵の山道を歩いていて、小さいアップダウンがあり、登り道がせりあがっていてその先の下りが見えないとき、こちらが道を上がっていて、先の下りが見えてきた瞬間に、あわててそこにいたキジバトが逃げ出したことがある。ほんの3~4mで、ふだんならとうに逃げている距離だ。こちらはかなり無造作に歩いていたから、気配でわかりそうなものだが、直前までそのキジバトには人が見えなかったわけで、やはり鳥はおもに目で判断しているのだろう。
アオバトはキジバトよりもずっと警戒心が強い。たいていは遠くに声を聴くだけで、山でも丘陵でも近くで見ることは滅多にない。
ほかに中型の鳥といえばキツツキ類のアオゲラ、アカゲラ、オオアカゲラはやはりあまり近づけない。コゲラなら数mまで近くに来るし、近づける。カッコウ類はどれも相当近寄りにくい。こちらから近寄るというよりも、たまたま近くに来てとまってくれるのを幸運と思うしかない。
バンやオオバンは筆者のフィールドでは釣り人もよく入っているから、人馴れしているかもしれないので、あまりよくわからない。30mくらい離れていてもさっと水面上をひっかいて逃げてしまうこともある。
カイツブリが、繁殖期にはわりあい近距離で見られていたのに、冬場、本流に集まった群のほうへ近づいていくと、まだ50m以上離れていてもいっせいにもぐってしまい、もっと遠くで水面上に顔を出すので、近寄るのがむずかしくて苦労したことがある。それは何年か前、越冬の個体数と夏羽への移行の様子を知るために、数えていたときのことだった。8倍の双眼鏡しか持ち歩かないので、近づかなければならず、鳥には迷惑だったかもしれない。
森の大型ツグミ類といえばアカハラ、シロハラ、トラツグミ、クロツグミ、マミジロなどだが、こちらよりさきに気づかれて、遠くへ飛んでしまうことがよくある。これらは小鳥類より近づきにくい。それは、カラ類のようにたえず鳴いて早めに存在が知れる、ということがないので居場所がわからないからだ。ただ比較的ひらけた環境で越冬生活をするツグミはやや近づきやすい。
ツグミで興味深いのは、日の出前のまだ薄明のとき、多摩川の堤防の道を自転車で走っていると、路上に下りているツグミがいて、自転車がすぐ前、それはもう2~3mのところまで近づいて、あわやひいてしまうと思うところで、ようやく逃げ出すことだ。それがどうもモタモタしていて、なんだかよく見えていないように感じられる。ツグミは夜間に渡る鳥だというから暗くても見えるはずだし、だいいちまだうす暗いのに路上に出ているということは、すでに塒を離れて、たぶん採餌しているのだろうから、見えているだろうに、なんで直前まで逃げず、あわてて「おっとっと」となるのか、わからない。
同じことはアオジでもよく経験している。草花丘陵の浅間岳の登り口から、まだうす暗い山道を歩き出すと、もうアオジが路上に出ている。まだアオジの色もわからない、黒いかたまりくらいにしか見えない暗さだ。こちらが進む先々であわてたように飛び立つが、それは足元からたった1mくらいしか離れていない。極端な話、踏んづけてしまいそうだ。明るい時間帯ではこうした経験はない。
カラ類でもそういう経験はしたことがないが、もっとも身近に来て、親しい存在はやはりカラ類だろう。
なかにはぎりぎりまで逃げないで、ヤブにひそむのを得意とする鳥もいる。そこで、
つぎのテーマは、ぎりぎりまで逃げない
よほど自分の保護色に自信があるらしい。