哲学者か道化師 -A philosopher / A clown-

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エラリイ・クイーン『Zの悲劇』

2008-11-25 | 小説
Zの悲劇 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
エラリイ クイーン,エラリイ・クイーン
早川書房

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「ヒュームさん、わたしみたいな女が何を考えたって、どうってことはないでしょう」
「やあ、どうも。いまの言葉は、あなたを怒らせるつもりのものじゃなくて、その木箱についての意見を聞かせてもらいたいのは、実際の気持ちなんです」
「じゃ、申し上げますけれど」わたしはきっぱり言ってのけた。「あなたたちの目は、ふし穴同然ですわ!」(P73)

 ドルリー・レーン四部作の中では、唯一の失敗作ともいわれる『Zの悲劇』を読んだ。まあ、失敗作といわれるのも仕方なくて、犯行のトリックも犯人の動機も、これでいいんかいな、という残念な感じは否めないのである。まあでも、ドルリー・レーンらしい論理性は保たれているのだが。
 ただ、この小説では先立つ『Xの悲劇』と『Yの悲劇』とは大分趣が異なっている。先の二作が三人称で描かれたのに対し、『Zの悲劇』にはサム警視(警察は引退しているが)の娘であるペイシェンス・サムが登場し、彼女の一人称で物語が進むのである。また、彼女が推理の一部を引き受けている。お転婆という言葉が似合うが、これはこれでなかなか面白い活躍を見せてくれる人物である。対し、我らがドルリー・レーンは前作から10年(?)ほどの年月が経ったせいで、すっかりおじいさんとなっている。前作までは60台なのに40台に見えるという壮健な身体を保っていたのに対し、すっかり老いこんでしまったところがなんとも残念。名探偵もよる年波には勝てないということか。推理力は衰えていないようだが。

 警察を退職したサム警視は、ヨーロッパを巡りながら勉学に励んでいた娘のペイシェンスと、自ら開いた事務所で働いていた。そんなサム警視のもとに、自分の仕事上のパートナーを調べてほしいという依頼が舞い込む。さっそく、依頼人のもとに泊まり込みながら調査を始めるが、そこに地方の選挙に関わる殺人事件が起こる。そこで挙げられた容疑者は出所したばかりのアーロン・ドウという男だったが、ペイシェンスは独自の推理からアーロンは犯人でないと考え、ドルリー・レーンとともに推理を進めていく。

 失敗作とは言ったものの、中盤くらいまでは結構面白かった。というのは、犯罪が地方の選挙や政治や陰謀に関わっていて、そういうサスペンス的な部分が面白かったのだ。途中の死刑のシーンも描写がリアルで印象的だったし。が、結局のところ犯罪は、それらとは関係なく、トリックらしいトリックがあったわけでもなく、消去法で犯人を当てるだけというだけで、ミステリーに必須の、謎解きの最後の盛り上がりはほとんどなかったかも。まあ、続く『ドルリー・レーン最後の事件』でも語り手となるペイシェンスの登場など、『最後の事件』の伏線として読むのが良いのか。

「ペイシェンス、わたしはいまのあなたの言葉で、あなたが一万マイル以内にいるかぎり、殺人の罪はおかさぬことに決めましたよ。あなたの頭は鋭い! で、その結論はどうなります?」(P186)

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