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所得税の効果

2009年05月01日 | 経済学

所得税増税や累進課税の議論で所得税を科したり、累進的な税金を科すと労働意欲が低下して労働供給が減ってしまう。或いは、稼いだのを罰するようなことをしたら経済の活力が低下するというようなことがよく言われる。そのような意見が多いせいか、多くの先進国において所得税の限界税率の低減が行われてきた。

所得税の税率が上がると、労働意欲が低下し働くよりも余暇を楽しんだほうが良いので、労働供給が減るという説明は直観に訴えるものであるが実際はそう単純ではない。所得税が上がると、働くことによって得られる賃金が減るので、労働ではなく余暇に時間を使うようになる効果がある。これが経済学で言う代替効果である。しかし、他方で時間当たりの所得が減ると消費からの効用が減るので消費からの効用を保つために働く時間を増やそうとする効果もある。これが、所得効果である。だから、代替効果が所得効果を上回ると、労働供給が減るだろうし、逆であればむしろ労働供給は増えることになる。このようなことなので現実問題としては、所得税の増税や累進課税が本当に労働意欲を削ぐのかはケースバイケースであると言える。

歴史的な観点から見ると、二十世紀に入って所得が急激に伸びるにしたがって労働時間が減少し人々が余暇に費やす時間は増加した。つまり、時間当たりの所得が増加するにしたがって労働時間は減少した。税金を掛けることは時間当たりの所得を減少させることだから、このことからすると労働時間は増えるかも知れない。また、現実の調査においても、高所得者に対する増税によって労働時間が減って所得が減少したというデータや、減税によって労働時間が増え所得が増えたという確定的な証拠はない。だから、よほど高率な税は別としても現実問題としては所得税は労働時間にそれほどの影響を与えないと見るのが適切ではないだろうか。

そう考えると、累進課税が持つ所得再分配効果も考慮してある程度の税率を高所得者に対しては科していくのが合理的な気がする。

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1 コメント

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Unknown (Unknown)
2009-10-17 16:43:34
すばらしい文章です
論文に参考にさせていただきました
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