すずりんの日記

動物好き&読書好き集まれ~!

小説「雪の降る光景」第2章15

2006年12月15日 | 小説「雪の降る光景」
 「ちくしょう!おまえさえいなければ!おまえさえ死ねば、俺はこんな目に遭わずに済んだんだ!覚えていろ!必ずおまえを殺してやる!」
「そんなに私が憎いか。」
私はハーシェルに憎まれるようなことはしていない。私の方こそ彼を憎いのに、この男はどこまで私を逆恨みする気なのだろう。
「何がおかしい!・・・えぇ?!何がおかしいんだ!笑うな!笑うな!!」
「私がこうなるように仕向けたのだ。あの屋上でのことも、病院でおまえが私を殺しに来ることも。全てはおまえに、・・・卑劣なおまえにふさわしい死を与えるためのものだったのだ。」
いいや、私はもう彼を憎んではいない。私は彼を軽蔑しているのだ。私は、彼の唾が私の制服にかかるだけで汚らわしく感じた。
「・・・そうだ!全ておまえのせいだ!おまえのせいで俺は!・・・俺は!」
「我らナチスが誇るべきゲシュタポが、聞いて呆れるな。」
今の彼の姿を見て、冷酷な殺し屋のハーシェルだとわかる者がいるだろうか。目の前で話している私でさえ、それを認めたくはなかった。
「笑うな!・・・笑うな!!」
「私だけではない。みんな笑っている。総統も、おまえの上司だったヒムラー長官も。」
鉄格子にぶつけるハーシェルの拳から血がにじみ、赤く錆びたような色に変わってきた鉄格子さえもが汚らわしかった。
「おまえのせいだ!おまえを殺してやる!絶対に殺してやる!笑うな!・・・笑うなー!笑うなー!!」
私は、息が切れて膝を付いてしまった彼の目の前に、自分のデスクに置いてあった新聞を私と彼の写真が上にくるように放り投げて、その場を立ち去った。

 全てが、私の予定通りだった。あの、屋上に向かう階段のシーンからスタートしたドラマが、ハーシェルの死というクライマックスに入ろうとしていた。

(つづく)


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