すずりんの日記

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小説「雪の降る光景」第2章16

2006年12月19日 | 小説「雪の降る光景」
 今までは全て予定通りだった。・・・そう、今までは。ハーシェルは、自身の死を以ってクライマックスに臨み、それと同時にこのドラマも幕を閉じる。しかし、私は、・・・私はどうなる?私は、彼とのクライマックスを迎えドラマが終了した後も、生き続けなければならないのだ。私のその後は、誰が筋書きを書いてくれる?私がこれからどうなってしまうかを、誰が知ってる?私がハーシェルにそうするように、いったい誰が自分の死を確認してくれるのだ?
 私が、私が今すぐ脚本を変更して、ハーシェルを殺さなければ、きっと彼が自分の手で私を殺してくれるだろう。それはまた、それまで私が確かに生きていたという証にもなる。・・・しかし、それはもうできないのだ。私が彼を殺さなければ、今までの芝居は全部無駄になる。私が屋上で負った傷も、子供の頃のナイフの傷も、だ。いや、そればかりじゃない。彼との因縁そのものが無駄に終わってしまう。
 いったい、彼が死んだ後、誰が私の存在を記憶していてくれるだろうか。それも、ヒトラーの片腕とうたわれた冷酷非道な男ではなく、足かせとなっていた何かを外せずに一生を終えなければならなかった私を、である。いったい、誰が。
 その時、ただひたすらに道を歩いていた私の目の前を、白く小さなものが舞い降りて、足元に落ちた。それはゆっくりとではあったが、確実に数を増し、順々に揺らめいては落ちた。雪であった。しかしそれが本物の雪であるには少し季節外れなようにも思えた。私は、自分の目に映っているその「雪」に向かって、思わず両手を広げてそれを抱きしめた。何度も何度も、何の意味も無く、ただそれが無性に愛しかった。
 私は、意識が遠のくような感覚の中で、かつて見たあの夢の中の少女の想いを、強く自分に感じていた。

 

 生が永遠でないように、死も永遠ではあり得ない。
 生が永遠の中の一瞬なら、死も永遠の中の一瞬だ。
 死を恐れずに、ゆっくりと目を閉じれば、
 眠る時に自分の周りに在った多くの縁(えにし)と、
 目が覚めた時、再び必ず会える。
 
 誰も、孤独ではない。

 何ものも、孤独では在り得ないのだ。

 

 はっとして我に返ると、「雪」は消えていた。そして、私はナチスだった。


(つづく)


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