あちらこちら命がけ

血友病、HIV、B/C型肝炎等を抱えて生きる人のブログ。薬の体験記、海外の最新医療情報、サルベージ療法から日常雑感まで。

1.状況を全部とっぱらった時、お前は何がやりたいんだ?

2006年10月19日 12時52分13秒 | 私の原点

 先日のコメントで、私は

「病気は確かに大変ですし、悩むことも多いですが、そこから得たこともたくさんあります。この病気のおかげで、自分のやるべきこと、やりたいことが見えてきましたし。ああ、これは話が長くなりそうなので、また別の記事で書きまーす」

と書きましたが、今日はその関連のお話をば。

---------------前置き 今日の登場人物について------------------

 以前お話した「ホニャえもん」さんと同様、大学のサークルの先輩で、私の家によく寝泊まりしている人がいました。その人は海外旅行先から私に、朝7時頃、こんな電話をかけてくる人です。

 「あ、もしもし、sunburst2006? オレオレ。
 そっちまだ7時頃だよな? ごめんごめん、今、海外なんだけどさ、今日締め切りで提出しなきゃいけないレポートがあるんだよね。これ出さないと単位落としちゃうからやばくてさー。
 で、今書き上げたんだけど、これからFAXでそっちへ送るから、パソコンで清書して提出しておいてくれないか?
 そうそう、提出の仕方なんだけど、教授の自宅に今日必着で送らなきゃいけないやつなんだ。だから、
今日郵便局に出すんじゃ間に合わないから、学部事務所で教授の住所を調べて、教授の家を探し出して、ポストになんとなく入れておいてくれるかな。『郵便でーす』なんつって、こう、いかにも郵送で届きました的な風を装ってさ」

 オレオレ詐欺も真っ青な、手間のかかる電話です。お金は取られませんが、時間を取られます。
 ええ、でも心優しきsunburst2006は、

  1. 海外からFAXで届いたレポートをパソコンで打ち直し、印刷。
  2. 大学へ行き、学部事務所で教授の住所を聞く。
  3. レポートを入れた封筒に教授の住所・宛名を書き、一応、切手も買って貼ってみる(あ、お金も取られてる・笑)。
  4. 電車を乗り継いで教授の家の最寄り駅まで行く。
  5. 住所から家を探し出す。
  6. 郵便受けに「郵便でーす」なんつってレポートを入れる。

という6工程を、てきぱきと一日がかりでやりました。

 このように、この先輩はたまにとんでもないことをしてしまうちょっと悪い人なので、ここでは仮に「悪太郎(あくたろう)」と呼ぶことにします(笑)。

-------------------前置きここまで---------------------

 



 と、またまた前置きが長すぎるsunburst2006です。今日のお話では、悪太郎さんが活躍しますので、はじめにその人となりを紹介させてもらいました。

 さてさて、今日書こうと思っているのは、私が大学2年生のころ、進路で悩んでいたときのお話です。

 大学2年生と言えば、特に多くの文系の学生は、将来の進路を現実的に考え始めるころです。私も、どの道へ進んだらいいものかと、あれこれ考え始めていました。

 実は私は、大学には「資格をとる」ことが目的で入りました。
 私は高校生の頃から、やはりこの体を抱えては一般企業への就職は難しいだろうと思っていました。そして家族や周りの人からも「資格を取って、自分でできる仕事をやったほうがいい」と勧められていました。そのため、まあ公務員か、あわよくば税理士、会計士、弁護士あたりを狙っちゃおうかなーなんて虫の良いことを考え、受ける大学・学部を選んでいました。
 そう思って入学した大学だったので、1年生の時は法律科目や会計・経済学などを履修しました。しかし、ここで大きな問題が持ち上がりました。それは、これらの科目が、私にとっては全く面白くないということでした(笑)。
 もう勉強に身が入らないこと、この上ありませんでした。法律なんか、ほんとにこれは日本語かと、「欧米かよ!(タカ and トシ)」と条文ごとにツッコミを入れたくなる感じで。しかも入学直後の5~6月ごろに入院して授業に出られなかったため、わからないことに拍車がかかり、興味すら失っていたわけです。
 そして、1年生では半分くらいの単位を落としました(前期試験の前ごろに入院したのが痛かったですね)。2年生での授業は楽勝科目(単位が取りやすいと評判の科目)ばかりを取り、資格試験に関係するような科目は取りませんでした。でもそろそろ周りの人たちも就職・進路の話を始めるころで、自分は進路をどうしたもんかと、またぐるぐる悩み始めました。

 そんなある日、私の家の近くで飲んでいて終電を逃した悪太郎さんから「おー、オレオレ、終電ないからそっち行くわ」と電話がありました。はいはい、構いませんよ、じゃあ、お夜食でも作って待ってますわよということで、それからうちで飲み直すことになりました。

注:このころはまだ肝臓の数値もそれほど高くなかったため、私も酒を飲み、煙草を吸い、大学生活を満喫しておりました。お酒は飲み出すと、一晩で日本酒を1升(1.8リットル)ほど。煙草は一日に1~3箱。いやー、ひどい生活をしていたものです。ごめんなさい。もうお酒も煙草もやめて6年くらいが経ちますので、許してください。

 こうして家で飲み始めて、私は悪太郎さんに進路のことを相談しました。
 就職は難しいと思うということ、でも資格試験の勉強には身が入らないこと、また資格をとっても本当にこの体でやっていけるのかという不安があることなどを話し、ああもうどうしたらいいのかわかりませんと。悪太郎さんは私の病気(血友病やHIV感染)のことを知っていたので、全ての事情を知った上で聞いてくれました。
 私の話の全てを聞き終えた悪太郎さんは、飲んでいた酒をテーブルに置き、べらんめえ口調でこう言いました。


「で、状況を全部とっぱらった時、おめえ(お前)は何がやりてえんだ?」


 この一言は、私にとっては衝撃でした。というのも、今までそんな風に考えたことなどなかったからです。
 私は、高校生で自分の病気のことを知って以来、何を考えるにも病気のことが頭から離れませんでした。特に進路に関しては、まず自分が、はたして仕事ができるのか、できるとしたらどんな職種があるのか、入院したらどうするのかと、そんなことばかりを考えていましたし、周囲の人からもそういうアドバイスばかりを受けていました。

 しかし、悪太郎さんは全く違いました。

 それまで進路を消去法で考えていた私に、悪太郎さんはど真ん中から切り込んできました。
 「私のやりたいこと」、考えたこともなかった視点を提示され、私は言葉を詰まらせました。すると、悪太郎さんはこうたたみかけてきました。


「じゃあ、おめえは何が好きなんだ?」


 私は、幼いときから体も弱かったため家の中で遊ぶことが多く、本を読むのが好きでした。そしてこの頃には、特に「言葉」に愛着を持つようになっていました。というのも、以前にこの記事で書いた恩師の「生きろ!」という叫びや、大学入学以来のホニャえもんさんや悪太郎さんをはじめとした人たちの思いのつまった言葉に、私は何度となく救われていたからです。

 悪太郎さんは、事実だけを書くと無茶苦茶な人のように見えますし、実際かなり無茶苦茶な人なのですが、その実、とてもまじめな人でもあります。とんでもないことをしながら、後からそのことを激しく後悔したりする、ある程度、常識的な感覚を持った人です。そして、いつも言葉には、自身の思いをつめ込むだけつめ込んで話すような人でした。だから私は、悪太郎さんの言葉を聞くと、いつも生命を揺さぶられました。

 思いのつまった言葉には体温があり、その人自身が生きています。
 私は、そういう言葉だけが、本物の「言葉」と呼べるのだと思います。
 本物の言葉は、その人の生命そのものです。
 生命だけが、相手の生命を揺さぶることができるのです。

 本物の言葉だけが、私の生命に届き、私の生命を変えました。
 軽い言葉が氾濫するこの世界で、私は本物の言葉に出会い、本物の生命に揺さぶられました。恩師をはじめとした多くの人と、この病気のおかげで、私は言葉のもつすさまじいまでの力に触れ、言葉が大好きになりました。

 だから私は、悪太郎さんに「私は、言葉が好きです」と言いました。


「じゃあ、そん中から探しゃあいいじゃねえか」


 悪太郎さんはすっきりした顔でそう言いました。なので、私もすっきりした顔で「はい」と言いました。


「大事なのはよ、夢を語る事じゃねえのかい」


 悪太郎さんは、日本酒を片手にそう言うと、ニヤッと笑いました。





(このあとsunburst2006はいくつかの変遷を経て今の仕事に就いたのですが、長くなったのでそれはまた別の記事で書かせてもらいます。)

次の記事→ 2.とことん好きなことをやってみよう に続く


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8 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
1番乗り! (shiromimi)
2006-10-19 12:58:04
楽しみにしていた甲斐あって、

昼ごはん後に開いてみたら

5分前の記事ヒット!



ありがとう。



後半もお楽しみに!

仕事せずに待ってま~す
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速っ! (sunburst2006)
2006-10-19 13:21:23
Shiromimiさんへ

 記事アップ後、ブログをちょこちょこいじってたら、早速のコメントが。お仕事は大丈夫でしょうか?(^^;

 私の原点シリーズ(またの名を長すぎる記事シリーズ)も、3つ目の記事になりましたー。このシリーズを書くときは、結構自分にも気合いが入る感じで。

 続きは明日以降になると思うので、またよろしくねー(^-^)/
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早っ (shiromimi)
2006-10-19 13:32:43
やだー

予想通りのタイトルで返事頂いて・・・♪



お仕事?

こんな良い天気で仕事などしてられっかーっ



って、まずいよね(苦笑)



いいの、やる時はやる女ですから(自称)
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Unknown (Kouhai)
2006-10-19 22:44:49
すごい記事でした。鳥肌が立ちました。

言葉には確かに凄い力がありますね。木村拓哉主演の『HERO』というドラマで、「言葉で人を殺すこともできるんだ(趣旨)」というシーンがありましたが、想いや情熱を込めずに語った結果として、他人の人生をくるわせてしまうということは往々にして起こり得ることだと思います。

昨日のオナラの記事を読んだ後だけにギャップによる衝撃が凄かったです(笑)。しかし個人的にはこうした記事が一番好きです☆
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Unknown (1)
2006-10-20 04:27:35
口の聞き方が悪太郎ですな、こいつは。

おめえは(お前)の注付きですし。
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Unknown (take)
2006-10-20 08:57:43
口が悪いそうだけど、(と言うか口下手?)良い人ですねー。



いろんな良い関係の人達に囲まれてるんですね。

うらやましーです。
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言葉はおしなべて暴力 (sunburst2006)
2006-10-21 12:03:50
Kouhaiさんへ

 言葉にはすごい力があるよね。

 昔、「言葉の暴力というけれど、それは少しニュアンスが違うのではないか。暴力になる言葉があるのではない。言葉は、おしなべて暴力なのだ」という趣旨の文章を読んで、その通りだと思いました。

 良くも悪くも「暴力」と呼ぶべき力を持った言葉。良い方向に使いたいですね。
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てやんでい (sunburst2006)
2006-10-21 12:06:51
1さんへ

 たしかに。「じゃりン子チエ」的な感じで。てやんでい。



takeさんへ

 ほんとに、私はいい人(悪い人?・笑)に囲まれて、ありがたいことだと思っています。個性的で、あったかい人ですよね。
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