映画と自然主義 労働者は奴隷ではない.生産者でない者は、全て泥棒と思え

自身の、先入観に囚われてはならない
社会の、既成概念に囚われてはならない
周りの言うことに、惑わされてはならない

郵便配達は二度ベルを鳴らす (ルキノ・ヴィスコンティ 1942年 140分 イタリア)

2013年10月21日 07時41分42秒 | ルキノ・ヴィスコンティ
『郵便配達は二度ベルを鳴らす』
監督  ルキノ・ヴィスコンティ
原作  ジェームズ・M・ケイン
脚本  ルキノ・ヴィスコンティ
    マリオ・アリカータ
    ジュゼッペ・デ・サンティス
    ジャンニ・プッチーニ
    アントニオ・ピエトランジェリ
撮影  アルド・トンティ
    ドメニコ・スカラ
音楽  ジュゼッペ・デ・サンティス

出演
マッシモ・ジロッティ
クララ・カラマーイ
フアン・デ・ランダ
エリオ・マルクッツオ


ジョバンナは、夫を殺した報いと言ってしまえばそれまでかもしれないが、最後は自分も同じように事故に遭う、不幸な女だった.
--------------------------------------------
沼地で、ジョバンナは一晩中ジーノを探し求めた.そのことを知ったジーノはジョバンナの正しい心を知ることになる.
パーティの日、スペインはジーノを探し求めてやって来た.窓からスペインの姿を観て、ジーノは嬉しそうに、店の外までスペインを迎えに出た.
人を探し求め訪ねる行為は、人を喜ばせる優しい行為である.ジーノは、スペインとジョバンナに自分を探し求められる、優しい行為に、二度、接しているのだけど.

けれども、刑事に追われていることを知ったジーノは、アニタに助けを頼み、彼は一人で逃げたのでした.そして、ジーノを助けたアニタは、一人残されて泣いたのです.
駆け落ちしようと、逃げ出したジーノとジョバンナ.その理由はさて置き、ジーノはジョバンナを置き去りにして、一人で行ってしまった.
人を探し求める行為、人を迎えに行く行為は優しい行為である.反対に、人を置き去りにする行為は、冷たい行為、優しさにかける行為である.ジーノは二度、好きな女を置き去りにしている.

ジョバンナはジーノからお金をもらいながら、夫にはもらってないと言った.アニタもまた刑事に対する言い訳に、「お金でもめたと言うわ」と言ったのだった.お金でもめたと言うことで、ジョバンナとアニタを結びつけて考えるように、描かれているのですね.ジーノに置き去りにされた、あの時のジョバンナは、アニタと同じように泣いたのでしょう.

--------------------------------------------
ジョバンナを置き去りにして列車に乗った一文無しのジーノは、車掌と当然のようにもめた.スペインに救われたジーノだったのだが、宿屋のおばさんと宿代の支払いで、またもめることになった.
『彼女はどうしても家と夫を捨てることができないんだ.貧乏をおそれてる』、ジーノは一緒に逃げることを躊躇ったジョバンナを、こう考えていたらしいけれど、一文無しでは、お金のもめ事ばかり起すことは、分りきった事のはず.

『ベットでは靴を脱いで』、宿のおばさんは戻ってきて、口うるさくこう言った.
『はいて寝るのは死人だけだ』、ジーノはこう答えたのだけど、靴をはいたまま寝るのは死人だけではない.浮浪者もいつもは靴を履いたまま寝ると思える.だからおばさんは、わざわざ靴を脱げと言いに来た.
トラックの荷台で寝ているジーノさん、よくそれで、おっこちないわね、って、聞いたら、ヴィスコンティが、靴を履いたまま寝てるのが、よく解るようにしろって言った、のか、どうか?.それはそれとして、店の中に入ってきたジーノの足に犬がまとわりつくけれど、ジーノのボロ靴を見せたかったらしい.

『彼女はどうしても家と夫を捨てることができないんだ.貧乏をおそれてる』
『(忘れようとしても無理だから)、できる限り遠くへ行くことだ(本当に好きな相手なら、遠くへ行っても忘れないはず.好きな相手のことは自分一人で考えろ)』
『遠くへ、その前に忘れなくちゃ.今は戻りたい気持ちでいっぱいだ.戻れたら逆らわずに彼女の言う通りにする』
『(俺の言ってることが分からない奴だな、同じことを二度言わせるな)、船に乗れ.海の空気が妄執を払ってくれる、(女の居ないところへ行けば、女の事を考えるだろう、たぶん)』

ジーノは靴を履いたまま寝る自分のことを、つまりは浮浪者は死人と同じだと言いながら、そのことを自分で分かっていない.だから、靴を脱いで、ベットの上で寝るだけの金のない男と一緒に、駆け落ちすることを躊躇った、ジョバンナの気持ちも当然分からない.



誰かが靴を履いたまま寝ている.


犬がボロ靴に纏わり付く.


『ベットでは靴を脱いで』、おばさんは戻ってきて言った.


『履いて寝るのは死人だけだ』、ジーノはこう言い返した.


お金のことで、ジョバンナは嘘をついた.


お金でもめた出来事で、ジョバンナはジーノを引き留めたのだけど.....


野宿して鶏を盗んで食べる生活は、死人と大差ない.ジョバンナには無理だった.


分ってと、頼んだのだけど、ジーノはジョバンナを置いて行ってしまった.一人残されたジョバンナは.....


アニタは刑事に、お金でもめたと嘘をつくことにした.


そのアニタも、ジョバンナと同じように、一人置いてきぼりにされて、泣いたのだった.


夫はジョバンナを召使のようにこき使う、冷たい男だった.自分は好きな魚釣りに夢中になって、遊んでばかりで、出かけたら何時帰って来るのやら.
ジョバンナには商売の才能があった.スペインが『金は天下の回り者』と言ったことを言っていたと思うが、ジョバンナはお金をかけてお金を稼ぐ才能に長けていたと言ってよい.それに比べて夫はケチの塊で、使用人に女の子すら雇おうとはしなかった.

さて、既に書いたように、ジーノは好きな女を置き去りにする、冷たい心の男だった.彼は、お金を欲しいジョバンナが自分を騙して夫を殺させたと思い込んでいた.自分は悪い男かもしれないが、ジョバンナはもっと悪い女だと思っていたようだ.
けれども、ジーノが夫を殺したのは、ジーノがジョバンナを欲しかったからに過ぎない.ジョバンナと一緒に暮らしたいから、ジョバンナの言うことに従って、夫を殺してしまったのだ.

今一度書けば、
夫はジョバンナを召使のようにこき使う、ケチで冷たい心の男だった.
ジーノは、好きな女を置き去りにする、冷たい心の男だった.
冷たい心が冷たい心を呼び起こすのだろうか、冷たい心と冷たい心が結びついて、犯罪は行われたのではなかろうか..
貧乏だったジョバンナは、金持ちの男と結婚すれば幸せになれると思い、年寄りでも金持ちの夫と結婚したのだが、相手が冷たい男だったので、幸せにはなれなかった.
そこでジョバンナは、お金がなくてもやっぱり若くて逞しい男の方がと、ジーノと一緒になることを望んだのだけど、けれどもジーノも女を置き去りにする冷たい男で、結局は犯罪を引き起こしてしまい、幸せになれなかった.

お金が有っても無くても関係ない.優しい相手と一緒にならなくては、幸せにはなれない.
一度では分らないかもしれない.だから同じことを二度描いて有るので、それを考えて欲しい.