
庭で
夏椿が咲いている。
夏椿。
娑羅の花。
…沙羅双樹。
盛者必衰の
理(ことわり)をあらわす
花の色。
流転の平家。
新中納言
平知盛。
「見るべきほどのことは見つ」

祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり
沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらはす
おごれる人も久しからず
ただ春の夜の夢のごとし
猛き者も遂にはほろびぬ
ひとへに風の前の塵におなじ
ただ春の夜の夢のごとし
猛き者も遂にはほろびぬ
ひとへに風の前の塵におなじ
古典や和歌を諳んじるとき
日本語の美しさと
豊さ、
そして繊細さに
くりかえし心が震える。
大古典たる
『平家物語』の冒頭は
その最たるものだと思う。


この花で
貝
を
連想するのはなぜだろう。
海の底の
貝
浜辺にうち寄せられた、貝。
きれいな白で
花びらの
ふちがギザギザしていて
かわいらしく
フリルのスカートとか
思ってもいいものを
なぜか
貝。
海に沈んだ平家一門からの
勝手な連想
なのかもしれない。

一日花の定め。
夏椿は
朝に花開いて
夕方にはいのちを終える。
美しいまま
花ごとぽたりと落花して
庭石や
苔、
芝生や敷石を
飾る。



ツツジの茂みに抱きとめられた
一輪。
毎朝、
夥しいまでの花が
痛ましいほどに白く
美しいまま
落ちていて
無数の魂のようで
なんだか呆然とする。
朝に咲き
夕方に散る花は
ほかにもあるけれど
この花こそは
もののあはれを
歌っている。

見るべきほどのことは見つ 。
__平知盛
★
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