古文書を読もう!「水前寺古文書の会」は熊本新老人の会のサークルとして開設、『東海道中膝栗毛』など版本を読んでいます。

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書翰用文鑑7 端午の文の返辞及び暑中見舞之文

2016-06-24 12:03:39 | 書翰用文鑑

端午の節句にお祝いを貰ったので、その礼状の文例を掲載します。

 候文について

 ここに掲載している文体は和文であってけして漢文ではありません。漢字ばかりの文章ですから漢文と誤解されるのも無理からぬところがありますが、実はこれは和文の中でもとくに候文と呼ばれる文体なのです。

 候文は鎌倉時代に興り、室町時代を経て爆発的な発達普及を遂げ江戸時代に完成しました。江戸幕府がこれを法令等に用いる公式の文体と指定したために、幕政関係、藩政関係等の公用文書は専らこれに拠りました。ために文芸的な文章の外は書簡から借金証書、往来手形、果ては遊女の付文に至るまで候文で書かれました。

 特に書簡体の候文は永く命脈を保ち昭和40年代くらいまでは教養ある年配人(明治生まれ)の書簡はたいていこれでした。吉田茂(元首相)から岸信介首相宛ての書簡のコピーをわたしは所持していますが、なかなか風格のある文体で、現代文ではとてもこういう流麗な文章は綴れません。

 いま私たちが用いている漢字仮名交じりの文章は明治になって興った言文一致体の発展系なのですが、たかだか百数十年の歴史を持つに過ぎません。文体として候文の完成度に到達しているかどうか、今日唯今も未だ進化の途上にあるように思います。

同返辞

御懇書之趣辱拝見仕候

如貴命重五之御祝

儀御同意目出度奉

存候次ニ愚息方へ為御

 同返辞 御懇書の趣辱(かたじけなく)拝見仕り候 貴命の如く重五の御祝 儀御同意目出度存じ 奉り候次ぎに愚息方へ御祝儀として(次ページへまたがる) 

※ 重五の祝いとは・・五が重なる意で5月5日端午の節句の異称。

 

祝儀絹地座舗幟

殊当時高名之浮世

絵師以精画為御画

被下御厚志之段千万

忝仕合奉存候右御移

別製之干鱩任遠来

御祝儀として絹地座鋪幟 殊に当時高名の浮世 絵師の精画を以て御画となし 下され御厚志の段千万 忝く存じ奉り候右御移り 別製の干鱩遠来に任せ

進上之仕候御笑留被下候

ハゞ本懐之至ニ御座候

且毎事御芳恵之

御礼難尽筆紙奉

存候 不具

暑中見舞之文

これを進上仕り候御笑留下され候 はば本懐の至りに御座候 且つ毎事御芳恵の 御礼筆紙に尽くし難く存じ奉り候 不具 暑中見舞いの文

以飛札啓上仕候酷暑

之節ニ御座候得共其御地

皆様被成御揃弥

御清栄被成御座珍重

至極ニ奉存候随而当地

無異儀罷在候乍憚御

飛札を以て啓上仕り候酷暑 の節に御座候えどもその御地 皆様御揃いなされいよいよ 御清栄御座なされ珍重 至極に存じ奉り候随って当地 異儀無く罷り在り候憚り乍ら御

安意可被下候将軽微

之至ニ候得共江戸団

扇三拾本致進覧之候

聊暑中御見舞之験

斗ニ御座候 恐々謹言

同返書

安意下さる可く候将(まさに)軽微 の至りに候えども江戸団 扇三十本これを進覧致し候 聊か暑中見舞いの験 斗(ばかり)御座候 恐々謹言 同返書

※ 恐々謹とは 恐れながらつつしんで申し上げるという意の語。手紙文の結びに記して,敬意を表す

 


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