写生自在 2
① 夜濯や昔は虎が来たといふ 迦 南
② マンゴーは芳ばし海はまこと紺 〃
③ 楼門は腐ちゆくまま昼の虫 〃
④ こゝよりは朝鮮町や秋つばめ 〃
⑤ 婢の里はこのあたりとか山桜 〃
⑥ 初七日はうちわばかりの豆御飯 〃
⑦ うしろには球磨の大橋梅の宿 〃
⑧ 稲妻は衰へ月は雲を出で 〃
⑨ 郭公や寺のうしろは岩襖 〃
解説の便のために句頭に番号を振りました。
係り助詞「は」を取り込んだ句は句集中にこの9句しかありません。俳句は
「て、に、は」の使い方1つで佳句にもなれば凡句にもなるので、作句の時
はそこに最も苦心するのです。①は「は」によって意味の上でも、これ以外
にはないですね。②⑧は「~は~は」という畳句の叙法で句に躍動感を与え
ています。④⑤⑦も「は」 は動かないですね。
ところが③⑥⑨の場合は「の」と置いても意味は通じます。私などはついつ
い「の」と置いてしまいそうです。
修行時代はずいぶん「の」と添削されたものですから、俳句は格助詞「の」を
多用するものという観念がこびりついています。
そういう意味で迦南句集は私の「てには」を正してくれる有難い参考書なの
です。