負けるな知的中高年◆本ときどき花のちコンピュータ

「知の崩壊」とかいって、いつの間にか世の中すっかり溶けてしまった。
「知」の復権に知的中高年よ、立ち上がれ!

日本初の雪の結晶図を描いたのは江戸時代の藩主だった

2004年12月10日 | 詞花日暦
万葉・古今・新古今の歌には、
六つの花ということばはたえて見えない
――小林禎作(物理学者)

 雪が六角形をしているのを初めて認識したのは、十七世紀のケプラーやデカルトだった。日本で初めて雪の結晶を顕微鏡(蘭鏡)で観察し、天保三年(一八三三)、『雪花図譜』を刊行したのは古河藩主・土井利位である。いまの茨城県古河市に当たる。「六花」と呼ばれる変幻自在の美しい雪の結晶図を残した。
 観察と描画は日本初だったが、一八世紀末に出版されて、日本に輸入されたオランダ語の自然科学教科書が先行していた。土井利位の雪譜もこの影響を受けたと推測されている。それ以前の室町期にも雪を六花とする事例はあった。これも雪の結晶を観察した結果でなく、中国伝来の知識にすぎなかった。
 江戸期以降、この本の影響で雪の六方対称を日本人が正しく認識し、衣装や絵画などに用いた。小林禎作は図譜に科学的な正確さ以上のものを見ている。「雪月花を愛でる自然愛好家としての日本人の目」である。科学史上の重要な功績は、物の理よりも装飾の美に傾く傾向が日本人には強かった。