ぼちぼち スウェーデン

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真面目なスウェーデン論を!(2)

2010-09-25 | 人々のくらし

 しっかり働いて豊かな老後を

その日本人女性の話に戻ると、年金が月額1~2万円しかないというらしいが、じつはそれは年金積立の対象になる、彼女自身の一年間の収入額のことではなかろうか。もしそうなら、彼女の年収はかなり少ないようだ。老後が不安である原因はここにあるのではないか。スウェーデンでは常識ではあるが、福祉制度は最低生活を保障はするが、それ以上の豊かな生活は自分で編み出す仕組みになっている。  

例えば、疾病手当、育児休暇、年金などの支給額は、本人の普段の収入額にスライドして支払われる。老後が心配なら65歳になるまでしっかり働いて、しっかり税金を納めておくことだ。”ひだりうちわ” の豊かな老後を実現するのは自分である。年収が少なければ当然、年金も少なくなるが、それは自分次第だ。     

年金制度のことがよく理解できなければ、関連組織に連絡して説明して貰えばよい。スウェーデン社会の福祉制度は、全員による全員のための保障制度だ。そのような社会ではだれもが人間らしく生きていく権利を保障されるが、そのかわり義務も課せられる。だれにもが福祉社会の維持に労働という形での積極的な社会参加が期待されている。  

よく聞くことは、福祉社会になればだれも働かず、怠けものになるということだ。

なるほど、最低の生活はできるが、他の人が休暇を楽しむセカンドハウスやヨット、海外旅行などは、自分に稼ぎがない限り、まず無理だ。働くことは即高い生活の質につながるというインセンティブはちゃんとある。働くと報われるのだ。働かなくても豊かな生活ができるなんて、むしのいい話はこの社会にはない。福祉社会はそんなに甘くない。    

  信頼できる政党を選ぶ

福祉社会とは、住民全員が資金を一括して国に預け、それを使って市民全体の福祉を図ることだ。大変な税額を支払うので、大きな賭けとなり信頼できる政府でないとそのようなことはしにくい。そのため、スウェーデン人は、自分が希望する税金の使い方をする政党を選ぶ。  

投票率もかなり高く(本年度は84.6%強)、その後も政治をずっと監視していく。政治に関する関心が高いのは、自分たちで政治を動かしていると思っているからだ。その政党に満足できないと次は別のを選ぶ。  

スウェーデン人の考える福祉の中枢は「医療・教育・福祉」(スウェーデン語では、 Vård, skolan och omsorg)の三語に象徴されている。この三つの分野が福祉の絶対的な対象であり、全員で運営していくということには、国を挙げての合意がある。どの政党が政権を担っても、この三分野が政策の主対象となる。  

しかし、「どの分野がより重要で、どのように行うか、そのためにはどの位の資金が必要で、それをどこから、どのように調達するか」についての考え方が、それぞれの政党のカラーとなる。   

いまは、新自由主義的な志向が強く、低い納税額を望み、医療や教育関連などは普遍的な福祉制度より、自分の財布の厚みを利用できる制度を希望する声が強い。今回の選挙も、これらの声を代弁する保守系が、辛勝だが続けて政権を担当することになった。連帯の精神で平等社会を目指し、長い時間をかけて福祉社会を構築してきた社会民主党の人気は、大幅に後退した。   

今後、社民が政権の座に、何時返り咲くかは定かでない。しかし、「医療・教育・福祉」中心の社会福祉はこれからも確固として存在していくであろう。 社会の基盤としてしっかりと腰をおろしているからだ。    

 木と森を見て庶民の生活を考える

 今回のような投書騒ぎは、定期的に起こっている。典型的なのは病葉(わくらば)だけを集めて束にして、スウェーデン社会を批判することだ。病んだ葉っぱだけを見たら、とんでもない社会と映るだろう。それより健康な葉もいっぱいついている木を見、それが植わっている森全体を見るべきではないか。 するとその社会をマクロ視点から理解することができる。  

率直にいうとスウエーデン型の福祉社会は、ふつうの庶民にはありがたい。だれもが一律に、大病で難しい手術を繰り返す、子どもが外国で 勉強する、5週間の休暇が楽しめる、65歳から生活できる年金にアクセスできるという社会は悪くない。  

それでも懲りずに、安易な「病葉批判」がくりかえし起こり、スウェーデンを目の敵にするのは理由があるからだろう。このような社会つくりを市民が要求したら、面倒で都合が悪くなる大きな勢力があるからに違いない。だから、厄病神のように仕立てあげ、人々を怖がらせるのか。 

また、言論は当然、自由であることは大切だか、今回の投書のようなものをそのまま鵜呑みにし、騒ぎだけを大きくするメディアがあるのも考えものだ。情報を正しく伝えのはメディアの重要な役目のひとつであるはずで、ニュースソースの検証は当然だろう。  

その点、今回、連絡をいただいたTBSラジオはまっとうに「誤解だらけのスウェーデン生活の実態は?」というテーマであちこち取材しておられる。このようなメディア(マスコミ)は貴重だ。


(後記:残念ながら、電話で取材を受けた時の印象と、実際にラジオで報道された内容とは、大きくかけ離れていたとのことです。「ブルータス、お前もか」で落ち着いたようです)

わたしは、どの社会に住んでいても、人はだれもが有意義な人生を送る権利が あると考えており、そのために一つの実験国としてのスウェーデン社会をよりよく知ることは悪くないと思っている。 住民のために、よりよい社会にしていくには、参考に出来ることは全部検討してよいと思う。  

日本が近代化を経て、大きな経済力を得たのも、それだけではないが外国の経験を参考にしたからではなかったか。それが一般マジョリティーの市民層の生活向上となると抵抗がおこるのはなぜだろう。これだけは、国中が一体となり全員でとりかかれないのだろうか。

政権党も変わったことだし、いまみんなで真剣にその問題を考えてみる時期にきているのではないだろうかと考える。 


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